ハイ・オーク
揺らめく炎の中、ゆったりとゲートから姿を表すアルフレッド。
白い長髪を後ろで束ね、キリリとした出で立ちは相変わらずだ。
右手には刺突に特化した大型の刺剣を携え、左手にはベルトに腕を通してコンパクトに握りこむタイプの片手用バックラーシールド。
服装こそ奴隷用のみすぼらしい格好だが、革でできたベストタイプの軽鎧を着ている。
爆炎と共に現れたアルフレッドは炎を纏い、右手の刺剣からも赤い炎が尾を引いていた。
三匹のハイ・オーク達は目の前を通りすぎた炎に少し怯んだのか、走る足を止めアルフレッドの方を睨み付けている。
互いに目配せをし、小さく唸ったかと思うと、先頭の一体がアルフレッドに向かって走りだし、残りの二体はソフィの方に向き直り再度走り出した。
オークはそれなりに知能の高い生き物だ。
筋肉まみれの巨大な体躯にのみに注目されがちだが、頭の悪い生き物だと判断するのは大きな間違いである。
そういった間違った先入観で物事をみる者達は一人残らず、彼等の恐ろしさを身をもって体感することになるだろう。
ハイ・オーク達は社会性も持ち合わせており、集団で行動したり群で行動することもしばしばだ。
今回は、目の前に現れたアルフレッドに対し、その年老いた見た目に油断したのか…
アルフレッドに一人を差し向けるのみで十分だと判断をした。
猛スピードでアルフレッドに詰め寄るハイ・オーク。
手には太い棍棒を握り、獲物を叩き潰さんと言わんばかりに豪快に振り上げている。
一方でアルフレッドは落ち着き払っていた。
半身を引いた刺剣独特の構えをとり、小さな声で呟く。
「これだけ、大きな相手は久々ですね。
'サラマンダー'力を貸して頂きますよ」
言い終わると同時に、彼の刺剣が再び燃え上がる。
ハイ・オークは既に目前に迫っていた。
風切る轟音を立てて、巨大な棍棒が振るわれる。
───ほんの一瞬の出来事だった───
アルフレッドは膝を曲げて、脱力したように身体を落とし姿勢を低くとる。
次の瞬間、全身をバネのように伸ばしハイ・オークの胸中に一足で飛び込み胸の中心の一点に刺突を繰り出す。
剣先が敵の身体に接触した瞬間に勝負は決した。
爆炎と共にハイ・オークの上半身は跡形も無く吹き飛ぶ。
すれ違うようにして焼け焦げた下半身と交錯し、再び構えをとるアルフレッド。
「さて、レディーを怖がらせる不届き者はあと二人
だんだん身体も暖まってきました。参りますよ」
───────────────────────
アルフレッドがゲートを破壊してすぐに、アッシュも行動をおこしていた。
先ほど、賄賂を掴ませる約束をしたことで前室に通してくれた兵士が目の前の光景に呆気にとられている隙に大剣の鞘で叩き伏せ、そのまま鉄のゲートを破壊する。
「クソッ! 間に合え!! 」
闘技場の真ん中で櫓に吊るされているソフィの元に向かって一直線に走り出すが、ハイ・オーク達も迫っていた。
アルフレッドの方にもハイ・オークが一体向かっていったのは見えたが、どうなったか確認している暇は無い。
アッシュは無我夢中で走った。
櫓にハイ・オーク達が到達しソフィに向かって手を伸ばす。
先ほどまで泣き叫んでいたソフィは恐怖で絶望し、声もあげることができずに震えて固まっていた。
「その手を離せ!!! 」
大きく跳躍して、大剣を叩きつけるアッシュ。
ハイ・オーク達は飛び退き、アッシュの剣は空を切るがソフィと敵を引き離す事には成功する。
「……………ア…………アッシュ……………」
それだけ言って、ソフィはガクンと頭を垂れる。
慌てて、ソフィの様子を伺うアッシュ。 どうやら息はあるようだがだいぶ弱っているらしい……
近くで見るとボロ布の下に見え隠れする素肌の傷が、ソフィの受けた仕打ちの酷さを物語っている。
怒りに燃え、剣を握る手により一層力が入る。
ハイ・オーク達の方へ向き直り、剣を構えるアッシュ。
二体のハイ・オークは興奮した様子で息を荒げ、やる気満々と言っているかのように角を振り立て威嚇してくる。
「来いよ、お前らくらいまとめて相手してやる」
そう言って身構えた瞬間だった。
「'サラマンダー!'」
と唱える声が聞こえて赤色の光線がハイ・オークに向かって放たれる。
その光線のあまりの早さに、全く反応できずに一体のオークがその光に切り裂かれた。
───ジュウッ!───
っと、肉が焼けるような音がして敵の動きが止まり、ハイ・オークの首が地面に落ちる。
赤色の光だと思った物の正体はアルフレッドが放った高温の熱線だった。
「アッシュさん、間に合ったようですね。
とりあえずは一安心ですが、まだまだ大変なのはこれからです。 気合い入れていきますよ」
「お………おう」
アルフレッドの強さに驚きを隠せないアッシュ。
呆気にとられていると、残った一体のハイ・オークがこちらをジーっと睨み付けながらソロソロと後退りしている。
一体になってしまって勝ち目が薄いと判断したのか、アッシュとアルフレッドに背を向け自分が入場してきたゲートに向かって走り出した。
「残念ですが逃がしませんよ。
レディーを怖らせる不届き者、見逃す訳にはいきません」
そう言って、刺剣を胸の高さで構え剣先をハイ・オークの背に向けるアルフレッド。
「大地を動かす恵みの火よ
生命を焼き輪廻の環に取り込まれし愚者の理
円環の監視者の元に今、新たな生命をここに送らん
'サラマンダー'いきますよ!」
刺剣の剣先から、圧縮された魔法の火の玉が放たれた。
背を向け、本能に従って逃げるハイ・オークの背中に吸い込まれるようにして飛んでいく。
ハイ・オークはゲートを潜って、先ほど自分達が通ってきた広い通路を走る。
通路には、ハイ・オークを闘技場に追い立てるために配備された兵士達が残っていたが、そんな事はお構い無しだ。
次々と兵士達を薙ぎ倒し逃げていたが、やがてアルフレッドが放った火の玉がその大きな背中に着弾した。
闘技場全体を揺るがすような爆音と共に、巨大な火柱が上がる。
その爆炎はハイ・オークを跡形も無く焼き、観客席の一部を吹き飛ばし闘技場の外壁に大きな穴を開けた。
「やり過ぎだろ?
アンタ一体何者だ?」
「なに、ついでに逃げ道の確保をしようと思ったまでですよ。 それに、これだけで簡単に逃げられると思わないで下さい。 すぐに兵士が──」
言っているそばから、闘技場には警備の兵士達が次々と雪崩れ込んで来る。
「ほら、言ったでしょう?
アッシュさんにも活躍の機会は残してありますので遠慮なさらず。 若人よ、期待してますぞ」
~ハイ・オーク~
オルビア全域に生息するオーク種の中でも特に身体の大きい特殊な種類の魔物
体長2.5~3m程の巨大な人型で、強靭な肉体と高い知能を誇る危険度の高い魔物である
群で生活をし、獲物を罠にかけたり陽動等で敵を油断させたりと仲間同士連携をとることも多い
危険な理由は単純な戦闘力のみならず、その異常なまでの繁殖力がある
オーク種には雄しかおらず、人里から離れた洞窟に住み着くことが多い
獲物の中で丈夫で健康な個体を見つけると、雄雌関係無く殺さず生きたまま手足を叩き折って獲物の移動能力を奪う
そのまま洞窟に持ち帰って1.2週間程で群の数が倍ほどに増えるのだ
その後の洞窟の外には干からびたようなボール状の肉片と骨が捨ててあることが多い
未だに彼等の繁殖方法は解明されていない、巣穴の洞窟に連れ去られた者達が辿る運命も…
なぜなら巣穴に入って生きてかえってきたものは1人もいないからだ




