手掛かり?
物陰から様子を伺うアッシュ。
耳をそばだてると足音の主が近付いてくるのがわかった。
時折、何かにぶつかるような大きな音をたてながら悪態をついているのが聞こえる。
どうやら、だいぶ荒れているようだ。
アッシュが隠れている物陰の近くを通りかかった時に足音の主の大きな独り言が耳に入ってきた。
「クソッ!!
どうなってやがんだ! 先月の勝ちがぜぇんぶパァだ!
貴族の女だって売っぱらったってのに!
支払いなんか間に合うわけねぇだろうが! 」
アッシュはハッとした…
貴族の女という言葉が気になり、足音の主を追うことにしたのだ。
物陰をから出て、足音の主を追う。
一人の男がフラフラと千鳥足で歩きながら、時折周りの物に当たり散らしながら歩いている。
だいぶ酔っているらしい…
アッシュが連れてこられた場所から大きく離れ、闘技場の裏側を横切り、敷地の端にそびえ立つ不気味な塔に向かっている。
慎重に後を追いながら聞き耳をたてるが、
男は酔っていて呂律が十分にまわっていないのか、どうにも聞き取りづらい…
焦る気持ちを抑え、更に近づいた時に
男が道端の空瓶に八つ当たりして蹴り飛ばした拍子にこちらを向いた。
慌てて物陰に飛び込むアッシュ。
息を潜め、見つかっていない事を祈っていると、男の声がどんどんと離れ声が小さくなっていった。
再び立ち上がり、男の姿を追う。
追いついた頃には、男の背中が闘技場横の別棟の入り口に消えていくところだった。
アッシュは動揺していた。
先ほど、こちらを向いた男の顔に見覚えがあったからだ。
ボールドウィン家の襲撃を受けた夜、燃え盛る食堂瓦礫に埋めてやった男によく似ていた。
男の顔には特徴的な火傷の痕があり、さらには一瞬だけだったが、手の甲に蠍の刺青があるように見えた。
消えた男の姿を睨み付けるアッシュ。
いつしか、空が白んで朝が近いことを知らされる。
仕方なく、闘技場の方に向かって歩きだし兵士達が起きてくる前に自分の牢に戻るのであった。
朝を迎え、闘技大会当日となる。
兵士達に連れられて、闘技場の控室に到着すると、にこやかにアルフレッドが挨拶をしてきた。
「やぁ、アッシュさん
おはようございます。昨日はよく眠れましたかな? 」
「あぁ、アルフのお陰で静かで平和な夜だったよ。
朝までぐっすりさ」
「それは、何よりですな…
先ほど、夜の見張りの兵士が6名ほど行方不明だという話を聞いたので、心配していたのです。
何があったかは知りませんが、物騒な話ですね」
何人かの兵士が殺気だった目でこちらを睨んでいる。
恐らくは、昨夜の兵士の仲間達であろうが、
アッシュもアルフも気にする様子は無い。
しばらく、アルフと世間話を続けるふりをしてやり過ごし、兵士達が離れたところでアッシュは小声でアルフレッドに尋ねた。
「アルフ、ちょっと教えて欲しいことがある…
予選の開始前に俺達の前でルールを説明していた、顔に火傷のある男の事なんだが、何者だ? 」
「どうしたんですか?急に」
「まだ、詳しいことは言えない。
はっきりと証拠を掴めた訳じゃないからな。
俺の見間違えの可能性もあるし話せば長くなるから簡単に纏めると、ボールドウィン家の厄介事の元と奴が関わりのある人物かもしれないって話だ。
なにか知っているか? 」
「そうですか…
ですが、私もここに連れてこられて日が浅いので、大した事は存じ上げません。
あくまで、聞いた話なのですが…
どうやら、この闘技場のオーナー相手に随分と借金があるみたいですな。
かなりのギャンブル好きで、兵士達の間でも有名です。
普段は、闘技場の選手のスカウトや余興に使われる魔物の収集を行っているみたいですね。
今日の余興を、取り仕切るのも恐らくは彼でしょう…」
「そうか……
こりゃ、参ったな……」
「しかし、彼が本当にルナ様を付け狙っているのだとしたらアッシュさんの状況は相当悪いのではありませんか?
偶然顔がバレてないなんてことありますかね? 」
「わからねぇ…
だが、ここまできちまった以上、引き返す事も出来ないんだ。
ソフィはほっといたら処刑されちまう
アルフ…アンタはどうする? 今ならまだ間に合うぜ?」
「今更、若者1人ほったらかしにはできませよ。
なぁに、きっとなんとかなりますよ」
「そうか… ありがとう」
ワアァァッッ!!!!
と大きな歓声が聞こえる。
どうやら、闘技大会が始まったみたいだ…




