眠れない月夜に 2
「おいおい、シルフの力まで使うのかよ
気分転換じゃなくて、模擬戦じゃねえか」
シルフというのはルナが契約している妖精だ。
風を操る上級の妖精でルナは生まれた時から
風の上級妖精 シルフ
雷の中級精霊 ラウル
の加護を受けている。
この世界には人間以外にも、様々な生命が存在している。
知的な生物は人間やエルフだけでなく、魔法生物や魔物の中にも様々おり、生存方法も多種多様で人間と共存する生物も少なくない。
精霊や妖精 妖怪 といった魔法生物だったり
魔物の中にも、長年生きる内に段々と魔法生物化していって人間と契約を結べるようになるものだっている。
その、魔法生物と契約を行った者のみが得られる恩恵が加護だ。
ちなみにアッシュは
氷の中級精霊 フェンリル
と契約している。
「君もフェンリルの加護を使えば良いだろう?」
「庭の芝生凍らせたりなんかしたら、庭師のおっちゃんに怒られんだよ!」
「そうか……それはそれは……
うーーーーん、
でも私の剣の師匠は常々、戦いにおいては利用できるものは何でも利用しろって教えてもらったしなぁ………」
「あぁ、そうかい」
(こいつ、手加減する気ないな………)
ルナはわざと茶番のような小芝居をうちながらも、両足に風を纏い始めた。
「それじゃあ、いくぞ!
もうちょっと付き合ってもらおうとおもっているからね________ッ!!!!」
言い終わると同時に踏み出す、この状態になったルナはとんでもなく速い。
あまりに速すぎてほぼ消えたようにみえた。
「こりゃ、まいったなぁ」
_____20分後
「やったぁ、私の勝ちだ!」
決着がついた。
裏庭の真ん中でアッシュに馬乗り状態で槍を付けつきるルナ、アッシュの手には木剣は握られておらず、少しはなれた所に落ちている。
2人とも本気だったのか肩で息をしている。
「ハァ………ハァ………ハァ………
お疲れさん…
こんだけ暴れまわったんだ、少しは気分転換できたか?」
「ふぅ………あぁ、そうだね
大分………スッキリしたよ」
互いを労い2人は息を整えるため裏庭の端にあるベンチに腰掛け、月を眺めていた。
「ルナは、強くなったなぁ
戦いを教えるようになって…3年ちょっとか?」
「ふふ…ありがとう、でも君の教え方が良いからだよ、私に合わせた指導をしてくれるからとても楽しく訓練ができる、これならいざって時に身を守るくらいはできるだろうか?」
「そうだなぁ、正直言うとルナに勝てる奴を見つける方が難しいくらいかな…」
「えっ?
そうなの………??
お父様には、いざというときのためにアッシュから簡単な護身術をおしえてもらいなさいって……」
「いやぁ、センスが良いからつい熱がはいっちまった、それに、教えたのは脚裁きや身のこなし、戦いの一般的な知識だけだ。
槍の扱いはルナの努力と練習の成果だろう。
槍相手に戦うことはできても、俺は槍を扱えないしな」
「そう…だったのか…」
「ん?嫌だったか?」
「いや、そんな事はないよ
戦闘訓練の時間はとても楽しかった
君には感謝してるんだ………
でも………」
「_________話してくれるか?」
「うん、他の貴族から見たら、私がやっていることはどれも滑稽なんだろう…
普通の貴族は用事がない限り王都を出ることもしないだろうし、社交的でパーティに参加して、豪華なドレスに高級なアクセサリーをつけて、きらびやかな生活をするのがきっとあたりまえで…
私みたいに、考古学の研究をしたり、槍を振り回したりするような変人は、貴族の間では笑い者なんじゃないかって
ましてや、王族に入るなんて事になったら、私は一体どうしたら………
リチャード王子から成人式中に時間を空けとくように手紙がきちゃったんだ
アッシュ、私はどうしたら良いんだろう?
自信ないよ………」
背木を切ったように不安が溢れてくる。
いつもは貴族の娘として凛と振る舞っているが、今までに無い重圧は若い娘にはキツいのだろう。
(こりゃ、相当参ってるな)
「そうか…………
色々肩に乗っけられてキツかったんだな…
もっと早く気がついてやれば良かった……
スマン
でも、ルナが全部背負い込むことはないんじゃないか?」
「え??」
「1人で抱え込みすぎなんだよルナは、
小さいころから優等生タイプだったからな、無意識に期待を背負って、無意識に失敗を恐れてきたんじゃないか?
まずは、貴族の娘としてどうすべきか
じゃなくて、ルナがどうしたいか?
だ」
「私が?」
「ボールドウィン家の事とか、貴族のしきたりとかぜーんぶ一旦おいといて、自分に正直になってみろ、
ルナは、手紙一通でプロポーズの準備を済ませるような男と結婚したいのか?」
「それは……………嫌……………だ」
「考古学の本を読むよりも貴族の奥方達と紅茶の飲み比べがしたいのか?」
「嫌……だ」
「槍の訓練したら、物騒とか言われる所に行きたいのか?」
「い 嫌だ!」
「だったらそれで良いじゃないか。
ボールドウィン家の人間はルナが我慢して生きればいいなんて誰1人として思ってないぞ
ルナの人生だ、
ルナが好きに決めて良いんだ、
それで困るような事があったら遠慮なんかしちゃ駄目だ。
1人が辛いなら分けろ。
もっと頼って良い。
一緒に…歩いてやるよ」
「アッシュ
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ありがとう」
目いっぱいに涙を溜め、ルナは小さく礼を言った。




