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オルビア国物語  作者: バルカン
第2章
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私欲 夜襲

朝を迎え、昨日に引き続き予選に赴くアッシュ。

不本意な戦いを強いられているせいで、ソフィを助けるためとはいえ、戦いの後の不快感は拭えないものだった。



2日目に戦った相手は、どうやら先日のドゥームの反乱関連で逮捕された市民だったらしい。

武術の心得のある手強い相手だったが、特に問題なく勝利をおさめることができた。



控室に戻り一息つく…

相手を叩き切った時の感触が手から消えず、苦い顔をしているとアルフレッドが話しかけてきた。


「お疲れ様でした。

本選出場決定ですな。


おや…?

昨日も言いましたが、もう少し嬉しそうな顔をしたらどうです?

生き延びれたのですから、それは喜ぶべき事ですよ」



「あ…あぁ

まぁ、俺の事は良いさ…顔についてはほっといてくれよ

それより、明日の作戦は何かあるのか? 」



「そうですね…

作戦と言いましても、正直出たとこ勝負だと思います。

君はソフィーティア様を救いだしたいのでしょう?


どちらにせよソフィーティア様の処刑のタイミングに乱入して暴れまわるしか無いと思いますけどね」



「ひでぇ作戦だな…

力ずくも大概だ、アルフ爺さんの人生最後を飾るド派手な自殺行為に付き合うのはゴメンだぜ? 」



「私だって、死ぬつもりはありません

君とならうまいこといくと思いますよ。

この街の兵士の実力は、正直大したことありませんからね。

ある程度の人数まとまってきても私と君の2人なら蹴散らせます。

これでも一応、戦力の分析は得意な方ですから…」



「その言葉通りであることを願うよ…」



「ハハ…

期待してくださって結構ですよ


それはそうとアッシュさん、今夜は気を付けた方が良いですよ。

特に、消灯時間を過ぎたら警戒しておいた方が身のためです」



「ん?

それは、どういう事だ?」



「いいですか?

この街は、全てが闘技場の賭博を中心に回っていると言っても良いくらい賭事が盛んです。

それは、闘技場の運営や警備を任されている兵士達も例外ではありません。


皆、自分が賭けた人物には勝ってもらわないと困るんですよ。

アッシュさんは、この2日間かなり目立っていました。

豪快な勝ちかたをしてましたからね。


兵士達から見れば、アッシュさんは突然現れたダークホース…

さて、ここまで言えばあとはお分かりでしょう? 」



「なるほどな…

戦奴の命は金の重みには決して勝てないって訳だ、やるせないねぇ」



「本選前であれば出場登録を取り消すだけで大した手間はかかりませんから、襲われるとしたら今夜でしょう。


さすがに、牢屋の中に押し掛けてきて殺されるような事は無いと思います…

兵士がやったのがバレバレですからね。


ですが、近寄ってくる兵士は警戒しておいて損は無いと思います。

消灯時間を過ぎたらほぼ確実でしょう」



「あぁ、牢屋の外であれば、脱獄に見せかけて殺す事もできるだろうしな。

言い訳は、後で何とでもなる」



「その通りです、さすがですな」


静な笑顔をこちらに向けるアルフレッド


「では、私はそろそろ失礼しますよ

明日はよろしくお願いしますね」



そう言ってアルフレッドは立ち上がり、その場は解散となった。

アルフレッドとすれ違うようなタイミングで兵士達がやってきて、続々と牢屋に戻される戦奴達。




アッシュは牢に戻され、明日に備えて体を休めていると夕飯が運ばれてきた。



「いやいや……

下手くそかよ、バレバレじゃねぇか

相当頭の悪い連中らしいな…」


運ばれてきたきた食事をみると、前日までとは大違いだった。

昨日までの食事といえばカチカチに固まってカビのはえかけたパンに具の入ってない塩味だけのスープ

何年干したのかわからないほど変色し、噛みきれない干肉だった。



だが、今日アッシュの目の前に広がっている食事はやたらと豪華である。


玉ねぎとジャガイモが入ったスープに美味しそうなパン

焼きたての肉にデザートでリンゴまで添えてある。



「怪しい……よな?」


見た目に釣られ、ついつい手を伸ばしたくなるがグッとこらえ。

全ての食事をこっそりと換気穴から外に投げ棄てる。



「くぅ…まともな飯が食いたいぜ…

兵士の奴ら覚えてろよ…」




何事も無かったかのように空になった器だけを並べ早々に床に着く。



月が高く昇り、街全体が眠りについた頃

ガチャガチャと金属音が聞こえ、アッシュの牢に数人の人影が侵入してきた。



「おい、奴はちゃんと飯食ったんだろうな?

間違いないな?」


「あぁ、間違えねぇさ。

器が空になってるのは確認したし、あんなに良い飯食わないなんて考えられねぇよ。

死んじゃいねぇとは思うが手足は痺れて動けねぇハズだ」


「静かにしろぃ!

お前らとっとと運び出せ! 」



数名の兵士に抱えあげられ、どこかへ運ばれていくアッシュ。

暗闇の中しばらく黙って運ばれた後、どこか暗い部屋の一室でドサッと降ろされた。



「よし…さっさと片付けちまおう!

見られてねぇよな? 」



「あぁ!

わざわざ、夜の当番まで変わって仲間内だけで揃えたんだ心配するこたぁねぇさ」



「いいか?

あくまで()()()()()()()()()()()()()()んだぞ


脱獄したとこを俺らが発見したんだ

細工は後からでもできるが、なるべく不自然な傷のつけかたをするんじゃねぇぞ」



「わかってるさ」



金属の擦れる音がして、兵士が剣を抜く

先ほど、床に投げ降ろしたアッシュのほうに向かって剣を構えて近づいてきた。

アッシュはまだ目を閉じたまま動く気配が無い。



「じゃあな、お前さんに恨みは無いが死んでもらうぜ! 」



寝ているアッシュの首に向かって剣が振り下ろされる。



───カキィン───



甲高い金属音がして兵士が振り下ろした剣が何かにぶつかる音が響く。


「なっ……なにぃ? 」



兵士の剣はアッシュの左手の義手によって受け止められ

眠っているはずの彼の眼は、鋭く兵士達を睨み付けるように光っていた。



「抵抗した末にやむ無く殺すんであれば、お前達にも抵抗されたような傷があると説得力が増すと思うぜ

どうだ? 手伝ってやるよ」



「あ…お、お前……」



受け止めた兵士の剣をそのまま義手で掴み思い切り引っ張る

呆気にとられた兵士は前につんのめるように体勢を崩し、前に倒れこむ。


倒れこんでくる兵士の顎に右手の掌底を合わせ

勢いそのまま地面に頭を叩きつけた。





「クソッ、てめえ…

お前らやっちまえ!」


数人の兵士に取り囲まれる。


間髪いれず部屋の壁に掲げてある松明に兵士から奪った剣を投げつけ叩き落として火を消した。



「あっ!」 「うわっ!」 「おい!」

「この野郎………ぐあっ!」




しばらくバタバタと音が響いたのち、暗闇に呑まれた部屋は静かになった。


扉が開き、中からアッシュが顔をヒョイっとだす。

周囲をキョロキョロと警戒し辺りに人影が無いことを確認すると大きくため息をついて部屋から出てきた。



「はぁ~

ったく、ホントにアルフの言うとおりじゃねぇか

この街の兵士どもは程度の悪い連中達だぜ……


さてと…どこまで連れてこられたんだ?」



暗闇の中辺りを見渡すと、見覚えの無い狭い廊下。

どうやって元居た牢に帰ろうか頭を悩ませていると、


──コツコツ──


と廊下を人が歩く音が聞こえ、あわてて物陰に隠れるのであった。

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