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オルビア国物語  作者: バルカン
第2章
57/72

別棟

──コツコツ、コツコツ──


と、暗い石造りの階段を覆面を被った男が下っていく。

ここは、闘技場の別棟


奴隷達の懲罰や拷問に使われる地下室を通りすぎ、

更にその下の階の、長い廊下の先の突き当たりの壁の前に男は立っていた。


壁に手の甲をかざし、ボソボソと小さな声で何かを唱える。


──ズズズズズ──


と音がして、先程まで壁があった場所に隠された扉が現れた。


男は中に入ると、覆面を脱ぐ。

顔には大きく火傷の(あと)が残っており、少々痛々しい。


部屋の床に書かれた古代語の魔方陣、

片隅には小さな机がおいてあり、上には書類の束。


チラリと見える、書類の束の内の何枚かには'借用書(しゃくようしょ)'という文字が見て取れた。



嫌そうな視線を書類に向けながら、男は魔方陣の中に入る。


再び、男がボソボソと何かを唱えるとボゥと魔方陣が光り、次の瞬間男の姿は跡形も無く消えるのだった。




─────王都 王宮の遥か下 地下室────


暗い地下室に、松明が掲げられユラユラと揺れる炎が辺りをうっすらと照らす。


部屋の中には何名かの人影がぼんやりと確認できるが、人数までは定かでは無い。


円周状に中央の火を囲うように配置された魔方陣にそれぞれ1人づつ立っている。

その内の1人がイライラした様子で声をあげた。


「おっそいわねぇ!!

定例の時間だってのに、何でいつもバルトは遅れてくるのかしら! 」

幼さの残る、高い声を響かせ小さな影が声をあげる。



「ヴァニラ……落ち着けよぅ……

相変わらず、堪え性(こらえしょう)の無いガキだ。

それに、お前はいつも定例より早くに来すぎなんだよ…

頭領は全員揃わんと、顔をださねぇのはわかっているだろう?

早く会いたいかもしれねぇが黙って待ちな…」

細長い、痩せた男がヴァニラと呼ばれた少女を(たしな)める。



「うるっさいわねぇ!

アビスは黙ってなさいよ!

アンタがターゲットの貴族を取り逃がしたせいで私まで夜鷹様に叱られちゃったんだから!

覚えときなさいよ!! 」

背の低い、三角帽を被った少女がかみつく。



アビスは小さく舌打ちをし、鎖鎌(くさりがま)を握りしめ、やれやれと頭を振った。



「なんだ?

相変わらず、ウルセェ連中だな」

どこからともなく暗闇から、顔に火傷のある男が魔方陣に現れる。



「バルト!

アンタ遅いわよ! いい加減にしなさい!

またふざけた賭博で遅れた、とか言ったら容赦しないわよ! 」



「キャンキャン言わなくても、聞こえてるよ!

ウルセェなぁ、だいたいマルクスの野郎だってまだ来てねぇじゃねぇか。

アイヴィーだって姿が見えねぇぞ? 」



「フフフフフフ……

マルクス君はまだ、体の修復が終わってないからねぇ

なんせ、心臓しか回収できなかったんだぁ……

あの(からす)を媒体に元の身体を再現してるけどぉ……

まだ、時間がかかるなぁ…」


緩い、締まりのない喋り方をする男が答える。



「なにぃ??

どういうことだ?

マルクスの野郎そこまで手痛くやられたってのか?

おい、ドク! 説明しろよ! 」



「頭の悪いバルト君に説明してもぉ、

ちゃんと理解できるかなぁ?

ボク、何回も聞き返されるの嫌いなんだよねぇ」



「何だと、テメェ! 」


2人がにらみ会う。





「黙れ、2人ともそこまでだ」

暗闇の奥から、声がする。


先程までの雰囲気から一転

全員がその場に膝をつき、頭を下げ暗闇の奥の声の方に向き直る。

黒い装束に身を包んだ締まった体つきをした人物が表れるが、顔は暗くて確認できない。


だが、全員の態度からするに、恐らく彼らのボスであろう。


夜鷹(よだか)様ぁ…」と小さくヴァニラが嬉しそうな声をあげた。




「アイヴィーは使いに出した、今日は来れん

では、定例報告の時間だ。


ドク、マルクスの修復はどの程度だ? 」



「はい、肉体の大部分が失われており、

まだ、4割ほどですぅ

臓器の復元は順調ですのでぇ、あとは体の修復ができればまた、お役にたつかと……」



「そうか、まぁいいが少し急げ。

魔物との融合を嫌って、本気を出さなかったマルクスへの罰だ。

あらかじめ、()()()()()()()()()()



「で、ですがそれでは肉体への負担がぁ……」


「黙れ、やれと命じたのだ

罰だと言っただろう。

戦闘ができるレベルで正気を保っていれば良い

我々の命は、国王の為にあるのだ、それを忘れるな……」


「は、はい…」



「マルクスが失敗したことで、ボールドウィン家の生き残りの消息は現状途絶えている。

早めに始末をつけねばならん、お前達はその事を忘れてはならんぞ!


アビス、ヴァニラ

捜索の進展を……」


「はい、そ、それが……

ボールドウィンの生き残り達は

マルクスとの戦闘後、安寧の森の中で足跡が途絶えております、表だって動ける兵士共は皆、アドニスの捜索に駆り出されており、加えて森の面積は広く……

年中発生する霧のせいで行方が──

──────ッ!!!!」


突然、場の雰囲気が重苦しなる。

夜鷹と呼ばれる男から放たれる、重圧(プレッシャー)気圧(けお)され

アビスは言葉に詰まってしまった。



「私は進捗を、と言ったんだ。

お前の愚痴を聞かせろとは言っていない」



ゼェゼェと呼吸が苦しそうなアビス、

隣のヴァニラも小さく震え、青い顔をしている。



「あ、あのぅ……」


重く貼りつめた雰囲気の中、バルトが手を挙げる。


「なんだ? 」


「いやぁ、ボールドウィン家連中の行方の事で報告がありまして……

ターゲットの小娘では、無ぇんですが…

屋敷にいた護衛のガキが今、ダングフォートの街に居るのを目撃しましてですね、夜鷹様に報告をと思いまして……」


「なに? 」

途端に、夜鷹からはなたれる重圧が無くなり

皆一斉に胸を撫で下ろす。



「バルト…確かか? 」


「えぇ、火傷の痕が奴を忘れやしません!」



「フム……

ターゲットも含めた生き残りが近くにいる可能性は高い…

バルト……残りの追跡はお前に任せることにしよう。

方法は問わん、確実に始末しろ!


近頃、失敗の報告しか聞いておらん…

失望させてくれるなよ」


そう言って、夜鷹は再び暗闇の中に消え去り姿が見えなくなった。

定例はこれにて、お開きという事だろう。

次々と人影は魔方陣に吸われて姿を消していく。



バルトは得意気な表情をしていたが、アビスとヴァニラは心中穏やかではなかった。


「バルトよぅ、お前あんなタイミングでの報告なんて、卑怯だぞ?

一言、教えてくれても良かったじゃねぇか? 」


「そうよ!

だいたいアンタ! もう一人の捕まえた女の処分しろって任されてたじゃない?

人の仕事取らないでよ! また、夜鷹(よだか)様に嫌われちゃうじゃない!! 」




「ん?あー ……あぁ!

女の処分なんかはとっくに終わってるよ。

悪いな!

じゃあ、俺は帰らせてもらうぜ?

そんな顔すんなよ、金が入ったらちょっとは謝礼金だしてやっからよ! 」



そう言って、そそくさとバルトは魔方陣の中に消えていく。



残されたアビスとヴァニラは苦い顔をして佇んでいた。



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