悲嘆の朝 2
寝室の小窓から朝日が差し込みルナの顔を照らす
明るい日射しにから逃げるようにして寝返りをうち
受け入れがたい現実に背を向ける。
体がダルい
泣き腫らした目は赤く
そもそも起き上がる気力さえ全く湧いてこなかった。
寝室にフィリアが何か呼び掛けてくるがどうでも良い。
私とは関わらない方が良いんだ
お腹も空いてないし…
無気力とは少し違う。
頭の中ではグルグルと色々な事を考えているのだが、考えれば考える程悪い未来しか想像できないのだ。
私のせいでアドニス様はお尋ね者となり
私のせいで家族はバラバラ、無事かどうかもわからない
私のせいでアッシュは手足を失ってしまった
私のせいで………
深い絶望感に覆われ、今は自分を責めること以外できなくなってしまっていた。
しばらくして、外からかごめとフィリアの声が聞こえる。
「ルナさんっ
私、ちょっと出掛けますからね‼️」
勝手にしてくれ
私は…行かない方が良い
夕方には、フィリアに加えジェイドの声も聞こえたが
顔を見せた所で何になるんだ?
私のせいでアドニス様が追われているのだ、きっと私の事が憎いだろう…
顔なんか見たくないはずだ…
何も考えたくない…
今日はもう寝てしまおう…
それから2日経ち
アドニスの居場所がわかった、
連絡がとれそうだということで里長の元に呼ばれたがそこにルナの姿は無かった。
更にその3日後
_______バン!!!
と大きな音がして、フィリアが部屋に入ってくる
布団に寝たまま、ルナは顔だけそちらを向いた。
「いい加減にしてくださいっ!!!
このままだと死んじゃいますよっ!
せめてご飯だけは食べて!
ねぇ!ルナさんってば!!」
目に涙をいっぱいに浮かべ、頬を赤らめてフィリアが詰め寄ってくるがその顔を直視する事は罪悪感からか到底出来ない。
「…………いい、いらない」
「何日食べて無いんですか!
死んじゃいます」
「…………いい、平気だから」
「平気な訳無いじゃないですか!
こんなにやつれて!
食べないと元気でないんですよっ!
ほら、こっち来て下さい!」
ぐいっとフィリアに手を引っ張られるが振り払う
「元気を出して何になるんだ?
私と関わって不幸な人が増えるだけだ…
放っておいてくれ…」
「____っ!!
ルナさんの馬鹿!!!」
涙を流しながらフィリアは部屋を出ていく
何で私なんかのために泣いているんだ?
私にそんな価値無いだろう?
そうだ…ここにいるとまた迷惑がかかる…
私のせいで、見ず知らずの里の人達まで巻き込む訳には行かない
私はここにいない方が…………
そうだ……いっそのこと消えてしまおう、誰にも迷惑のかからないどこか遠くへ………
行くあてがあるわけでは無かったがそんな事を考える余裕はルナには無かった─
その日の深夜
生活音が聞こえなくなって、フィリアもジェイドも恐らく寝静まったであろう時間にゆっくりと起き上がって
静かに荷物を纏める
そんなに大荷物ではない為すぐに終わり
2人を起こさないようにこっそりと寝所を出た。
寝所の螺旋階段を降り
木造の吊り橋を渡る
村の出口の方に向かって歩いている途中の事だった。
________ゴツッ ゴツッ ゴツッ
と規則的な音が聞こえ、辺りを警戒する。
こんな深夜に誰だ?
「どうしたんだ?
こんな夜中に…散歩か?」
「___!!!
アッシュ!?」
薄暗い橋の向こうからぎこちない足取りでこちらに向かって歩いてくるアッシュの姿があった
「一体なんで…?
君、足が………」
「ん?
あぁ、コレな…
良いだろ?義足作って貰ったんだよ
ついでにホラ、左腕も」
ニヤっと笑い腕を見せてくる
ブラブラと力無く垂れ下がる左腕
その表面は皮膚では無く、重厚な金属で覆われていた。
「そ…そんな…
もう…やめてくれ」
不恰好に右足を引き摺って歩くアッシュの姿にルナは耐えられなかった。
自分を責め続けているルナにとってアッシュのその姿はとても痛々しく、まるでルナの心の傷口に塩を塗り込むような追い討ちに感じたのだ
「済まない…私のせいで…済まないッ____」
背を向け、逃げ出そうとするルナ
「あっ!おいっ!」
手を伸ばし、引き止めようとするアッシュだったが
満足に動かない手足での動作には無理があったのだろう
踏ん張りがきかずにルナの手を掴むことも無く、前のめりに倒れてしまった。
バタンッッッ!
「_____ってぇ!」
「ア…アッシュ!」
逃げるつもりだったルナだが、派手な音をたてて転んでしまったアッシュが気になり立ち止まる。
気がつけば、満足に1人で立ちあがれないアッシュに手を貸すため近づいていった
手を貸そうと思ったルナだが、逆にアッシュに強い力で引っ張られ座らされてしまった。
逃げないようにルナの手を握るアッシュ
「おい!
フィリアに聞いたぞ…ルナ、お前何やってんだよ…
ずっと部屋に籠りっぱなしでアドニスとの連絡の場にも顔をださないたぁどういうつもりだ?」
「…どうもこうも無いよ
私は、もうこれ以上耐えられそうに無い
許してくれ…」
「許せだぁ?
全く、いい加減にしろ!」
_____パチーン
と音がして、ルナの頬に痛みが走る
驚いた顔をしてアッシュの方を見ると、見たことも無いくらい怒った顔をしていた。
「なに、無理やり全部背負いこんでんだよ?
自惚れるなよ!
何でもかんでもルナのせいだと誰か言ったか?」
「______えっ?」
「屋敷が襲われたのは!
悪いこと考えているやつがいるからだ!
アドニスが指名手配されたのは!
敵の隠れ蓑に利用されたからだ!
ジェイドやフィリアがアドニスについていけなかったのは!
アドニスがあいつらを信用して任せたからだ!
俺の手足が動かなくなったのは!
俺が弱かったからだ!
義肢をつけたのは!
お前を守る為に必要だからだ!
しっかりしてくれよ
ルナは、たった1人しかいない自分の騎士を見捨てるのか?
前も言っただろう
全部、背負うな!
俺にも分けろ!
どこまでも、一緒に歩いてやるって言ったじゃないかよ
それとも…隣を歩くのが、俺じゃあ不安か?」
「ア___アッシュ・・・」
ルナは涙が止まらなかった、まさかそんな風にアッシュが言ってくれるとは思っていなかった。
恨まれてもおかしくないと思っていたからだ。
「______!!」
息が詰まって、言葉が出てこない…
だが、確実にアッシュの言葉に救われたように感じた。
不器用で乱暴な言葉使いだったかもしれない、
でもそれは決して純粋な怒りや恨みから来ているものではなかった
力強いアッシュの言葉に勇気を貰い
信頼してもいいという安心感を得た
「………私といると………狙われ続けるかもしれない…
また、襲われるかもしれない…
それでも…君は…」
「何度も言わせるな、
この先何があろうとどんな未来が待ち受けていても…
一緒に歩いてやるって決めたんだ」
「______ッッ!」
朝日が顔を出すまで、しばらく泣きじゃくって
アッシュの腕の中で眠ってしまったルナ
フィリア達がルナがいないことに気が付き、探しに来るまでアッシュはその場から動くことは出来なかった。




