玉藻の長
スーっと襖が開けられ、ジェイドとフィリアは長の部屋に案内される。
陽のひかりが適度に射し込む優しい明るさで
ほんのりとお香の香りが漂う
藺草の絨毯の部屋の真ん中に長と呼ばれる人物がいる。
そこには、昨日ルナ達一向を助け、里まで案内してくれた女性が座っていた。
「よう来たのう
体はゆっくり休めたか?
さて…改めて、妾の名は玉藻
東人の霞里の里長じゃ」
「ジェイドや」「フィ…フィリアです」
「そう畏まらんでも…
御主らは客人じゃ
座るが良い、茶でも飲もう」
藺草を編んで作られた絨毯のようなものの上に円形のクッションが敷いてあり、勧められるがままに座る2人
ほんのり苦いお茶を啜ってやがて玉藻が口を開く。
「さて、アドニスから連絡は受けておるが、
いささか内容が大雑把でのぅ…
里の諜報の者らが情報を集めてはおるが、お主らの口からも何があったか話してはくれぬか?」
ジェイドとフィリアは自分達が体験したことをありのまま玉藻に話した。
「ウム…
妾のところにきておる報告と大方似たようなもんじゃな、
全く、お主と妾揃いも揃って大罪人じゃな?」
「__なっ!?
話聞いとらんかったんか!
アドニス姐さんはなんもしてへんて___」
「わかっておる
だがな、手配書が出回ってはおっては疑いの晴らしようが無いじゃろう?
大衆はそちらを信じるじゃろうからの
真実など有って無いようなものじゃ…」
「そんな…じゃあ、アドニス様は」
「そう、悲観するでない
こちらでも、情報は集めておる
我々もアドニスには世話になっとるからの
協力は惜しまんつもりじゃ
して、そのアドニスとの連絡なんじゃが…
まだついてはおらん、恐らく移動を続けておるんじゃろう
しばらくは、里でゆっくり過ごすが良い
今後の事はアドニスと連絡がついて、お主らが揃った時が良いじゃろう
アドニスとの連絡は任せい」
「任せいってどうするつもりなんや?
居場所の見当はついとらへんのやろ?」
「…御主はこの里がどういう所が聞いておらんのか?」
「……時間が無かったからな
それに、アドニス姐さんはこの里の事を隠れ里っちゅうて親しい仲間にも秘密やった」
「そうじゃったか
全てを教えるわけにはいかんが、御主らはアドニスに信頼されて寄越された客人じゃ
少しだけ話しても良いじゃろう」
お茶を1口飲んでから玉藻は話し始める
「妾達は元々この国の者では無い
何代も前の我々の先祖が、東の海の向こうの島国から渡って来たと伝わっておる
異国出身の我らを受け入れてくれる国はなかなか無くての…
各地を転々として隠れながら生活しておったのじゃ
そんな中、ひょんな事からアドニスに出会っての
各地で虐げられてきた我等に対し、協力を申し出てくれた…
安息の地とまではいかぬが今は奴の領地に腰を落ち着けておる
以来、妾達はアドニスと協力関係じゃ
幸い我等の里には、外の世界に無い技術と多くの情報網がある
諜報活動については我々の右にでるものはおらんと自負しておる」
しみじみとした雰囲気で語っていた玉藻だが、最後には少しドヤ顔をして見せた
「そうやったんか、
そういえば、アドニス姐さんが着とる異国の服
どこで手に入れたか俺も気になっとったんや
この里で手に入れたんやな」
「おぉ、お主もこの着物が気になるのか?
なかなかお目の高い奴じゃ
アドニスも気に入って、何着か包んだ事もあったのう…」
玉藻はすっかりご機嫌のようだ
その後も、里の事を色々と教えてもらい話も中々の盛り上がりを見せたが、1時間程たった頃
部屋の外から従者の男性に声をかけられる
「失礼します。
玉藻様…そろそろ次の御予定がございますので…」
「おぉ、もうそんなに経ってしもうたか
久々の来客故、話し込んでしまったの
お主らには、アドニスと連絡がとれ次第使いをだそう
それと、お仲間の塞ぎ来んでおるルナ嬢の事じゃが
なるべく支えてやってくれ
今回のゴタゴタにはあの娘が関わってくるのは間違いない
大変じゃろうが、よろしく頼むぞ」
そう言って、その場はお開きになった
再度かごめに連れられ屋敷をでる
「あんまり、進展はあらへんかったな」
「ええ、ですが里の人達は協力してくれるみたいで良かったです
ジェイドさん、私達はアドニス様と連絡が取れた後はどうしましょう?」
「せやなぁ、本音を言うと
姐さんと連絡とれ次第合流したいとこではあるんやがなぁ
あの2人もほっとかれへんやろ?」
「フフ…」
「なに笑てんねん」
「いえ、なにも
フフフ…」
(なんだかんだお優しいんですよねジェイドさんって…)
「気色悪いやっちゃ」
和やかな雰囲気のままとりあえず2人は寝所に向かうのであった。
_____________________
~安寧の森 夕方~
薄暗い森の中をカラスの魔物がバタバタと羽ばたく
旋回ながらあちこち見渡し何かを探しているようだ。
ふと、何かを見つけ
地面に降り立つ
戦いの跡であろうか
所々、地面が抉れ木の枝が不自然に折れている
跡地の地面に小さく盛られた炭の山
カラスの魔物はその炭の山に嘴をつっこんでガサガサとまさぐる
その内、何かを咥え満足したように、再び飛び上がった
その嘴には、握り拳より少し大きな心臓のようなものが咥えられ
開いた嘴の隙間から舌の上に黒い蠍の刺青が入っているのが見て取れた…




