崩落 1
ルナは、裏庭に夜風に当たりに出てきていた。
アドニス達の熱気に当てられた肌を少し冷たい夜風が撫でていくのが心地良い。
裏庭の一番端の少し開けた場所にあるベンチに座って月を見上げる
今日は綺麗な満月だ。
「やっぱり、此処だったか?」
「アッシュ………」
振り替えらずとも声でわかる、それにすぐに裏庭にいると勘づいて追いかけてきてくれるのは彼だけだ。
「どうにも、様子が変だったからな…
飲み過ぎた…ってわけじゃないだろう?
まぁ、夜は長いんだ
ちょいと俺も失礼するぜ」
そう言って、アッシュはルナの隣に座る
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「私は…どうすれば良いのだろうか……」
長い長い沈黙の後、ポツリとルナがこぼす。
「リチャード王子の事か?」
「うん」
「やっぱり、婚姻の話か…
まぁ、状況からみたらプロポーズされたってのはわかってたけど
昨日はしっかり答えを出すって言ってたんじゃ無かったか」
「もちろん、そのつもりだったよ
断ったんだ、ハッキリと…
でも・・・」
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~少し前 王宮 バルコニー~
「お初お目にかかります。
ルナ・ボールドウィン
私、オルビア国 第一王子
リチャード・フランドリア・ミッドウィン
本日私は貴女に結婚の申込みにやって参りました
このオルビアを更に強く、発展した住み良い土地にするために貴女が必要なのです
つきましてはこの場で、私の手を取り
本日集まった貴族達への御披露目とさせていただきたい
さぁ、私の手を取って
共にオルビアの輝かしい未来のために歩みだそうではありませんか」
そう言って、リチャード王子は膝をつき左手を自分の胸に当て、ルナの方に右手を差し出す。
「・・・リチャード王子様
大変ありがたいお誘い
身に余る光栄にございます
そのような言葉をかけていただいたことに感謝致します。
しかしながら、私などの身分では王子の偉大な威光に影を落とすばかり、私よりも博識で気立ての良い女性が貴族の中には多くおります。
きっとそのお方達の方がリチャード王子に選ばれるのにふさわしいでしょう。
私は身の丈に合ったつつましい生活を送りたいと思いますので、恐縮ではございますが御断りさせていただきたく…」
「ルナ、私は貴女に来てほしいのだ
王族として迎え入れられれば、ボールドウィン家はこの先も安泰
貴女も不自由無く暮らし、何でも好きにできるのですよ!!」
「申し訳ありませんが、リチャード王子様
全く不自由のない生活は私にとっては過ぎた贅沢
私自身が欲しておりませんのです」
頭を下げ、さがろうとするルナだった
その時、リチャード王子は真下に俯いて
とても小さな声で呟いた
「ゴウジョウナ コムスメダ…
ウマクイカナイ……シカタナイ」
「え?」
ハッキリとは聞こえなかったが、ルナはリチャード王子の方を振り替える
「待ちたまえ、ルナ」
リチャード王子は先程とは違って冷たい目をしている。
「君は僕の誘いを蹴るというのがどういうことか、
わかっているのか?
我々、王族あってのオルビア国だ。
これは立派な反逆だぞ!
この国の権力はいずれ全て僕の物になるんだ、それに逆らうなんて、許されるはずがない。
貴様のような馬鹿女に費やしている時間は無いんだ、さっさとこちらに来るんだ!」
あまりのリチャードの変容ぶりにルナは面食らってしまった。
本気で言っているだろうか?
恐ろしい形相に気圧され次の言葉が出ない。
「あ…リチャード王子………
そんな………」
「フン!
返事もできんのか
愚図な奴め
面倒だ。
明日、貴様の屋敷に使いを送る
家族と別れを言う時間くらいやろう、
その時までに王宮に嫁いでくる準備をしておけ、断れば、その場で全員死罪だ」
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~現在 ボールドウィン家 裏庭~
「なんだよそれ?
いくら王族だっていっても横暴が過ぎるな」
「私も、最初はおかしいと思ったんだ
でも段々と声を荒げて怒鳴ってくるし、恐ろしい目をしていて、
覚悟を…決めたつもりだったのに………
こんな事になるなんて………」
「誰も、そんな事になるなんて思わねぇだろ
さすがに予想外だけども、リチャードのクソ野郎が本気で言ってるであれば
ボケッとしてる場合じゃねぇな。
ルナ、荷造りは済んでるのか?」
「え?」
「え?じゃねぇ
荷造りだよ!
さすがの俺も、王都の兵隊全員と戦って勝つなんて無理だぜ?
行く宛なんて、後から考えりゃ良い!
家族には落ち着いたら手紙で事情を説明すりゃいいだろ?
とりあえず、最低限着替えて
槍か剣の一本でもありゃなんとかなるだろ?
さっさと逃げるぞ!!」
そう言って、アッシュはルナの手を引く
彼はルナと共に逃げることになんの迷いも無いように感じられた。
「ま…待ってくれアッシュ!
最後まで…聞いて欲しい」
「なんだよ?後じゃダメか?」
そう言って、ルナの方を振り返る
「私 いこうとおもう」
「は?」
「リチャード王子に嫁ぐ事にする」
「・・・だから、こんな時間になるまで黙ってたのか?
何でだよ?
そんなん何の解決にもなってねぇじゃねぇか!」
「逃げ出せば、断った事と同義だろう
反逆罪ともなれば、法の裁きは一族全員処刑だ。
姉さんも父上の事も巻き込むわけにはいかない…
仕方ないんだ・・・
それに、君は昨日付いてきてくれると言ったじゃないか。
嫁ぎ先に一緒来てくれるというのなら、私は心強いよ」
「ふざけんな!
これはルナが望んだ結婚じゃねぇだろ!
人質とって言うこと聞かせたいだけだ
幸せな未来があるとおもえるか?
ルナはそれでも良いのかよ??」
「皆が無事ならそれで良いさ………
それに君は微塵も躊躇うこと無く、私の手を取って逃げようと言ってくれた
嬉しいよ……心の底から………
覚悟はできているつもりだ………
そういえば、今日は相変わらず私の事を1度もちゃんと視てくれないじゃないか
最後くらいこっちを視てくれても良いだろう?
今日はけっこう気合いをいれてお洒落したんだ」
アッシュはメイド長の言いつけを破って、ルナの方を見上げ息を呑んだ………
ルナのあまり美しさに驚いてしまって声が出ない
ほんのり明るいブラウンのセミロングヘアに
タイトな淡い紫色のドレスからスラリと伸びる美しい手足に色白の肌
長いまつ毛にぱっちりとした瞳はドレスとお揃いの紫色で宝石のよう
胸に輝く父親からのプレゼントのネックレスがまるで共鳴しているかのように一層輝いて見えた。
飲み慣れないお酒のせいだろうか、
少し赤みがかった頬は涙で濡れて光っている。
「とても………とても綺麗だ」
「やっとちゃんと私を視てくれた
嬉しい・・・
ありがとう」
「ルナ………オレは__」
アッシュが何かを言いかけたその瞬間だった
――――ドドォォォォン―――――
突然、屋敷の方で爆発音と共に真っ赤な火柱が上がり
夜の闇を光々と照らすのであった。




