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オルビア国物語  作者: バルカン
第1章
12/72

成人式 5

食事はさすがに王宮で準備されるものとあって豪華絢爛なものだった。




貴族達との挨拶も徐々に落ち着きを見せ、一段落といった所だ。

ほんの少しだけ、食事と水で休憩していたところ突然、声をかけられた。


「おぅ、お前ら!

元気してたか?」




「ぅげ!?」

「ア…………アドニス辺境伯殿………」




今夜、ボールドウィン家に来ると言っていた

アドニス・ブラッドレイ辺境伯だ。




ケラケラと笑いながらも、従者も連れずに1人で近づいてくる。

「こ…こんばんわ

アドニス様…お久しぶりでございます


今日はまた、素敵な御召し物ですね」



若干、緊張気味のルナが挨拶をする。




「おぉ、ルナよ

お前はあたしのこの着物の良さがわかるのか?

随分と渋い、いい趣味してんじゃないか?」




アドニスはかなり変わった格好をしている。


大昔に海の向こう遥か彼方、極東の島国で着用されていたという民族衣装で

美しく、主張しすぎない上品な色で染色された羽織と胴体をぐるっと一周巻くように留められた帯状の布のコントラストが美しい。

小柄な体型とストレートの黒髪ととても良く似合っていた。




「それにしても随分と久しぶりだなぁ

オーウェンは元気か?」



「はい、変わり無く元気ですよ」



「そうか、それは良かった

アッシュも久々にあたしに会えたんだから、もっと嬉しそうな顔をしたらどうだ?

ほら、良い子良い子してやろうか?」




「________はぁ

・・・アドニス様、こういった公の場では色々と勘違いを生みかねないので、そういった発言はお控えください」

ムスッとした顔でアッシュが答える。




「なんでぇ?またその気色悪い喋り方は、

似合ってないね

全く、悪い酒でも飲んだんじゃないだろうね?


よし、わかった!

今夜は、オーウェンのトコで世話になるんだから

ちょっくら、大人の酒の嗜み方ってモンを教えてやるとするよ

楽しみにしてな……

おっといけねぇ、飲み物を切らしちまった

じゃ、またな」





「ったくアドニスときたら……」

「ハハ、全く相も変わらず嵐のような御方だ…」



良く笑い、独特の空気感のある女性で見た目と実年齢が全く一致しないということで有名だが、オルビア国に4人しかいない辺境伯の内の1人で


オルビア南部の地方都市では、実質アドニスが治めているといっても過言では無い、大変な有力者である。







そんなこんなで、すっかり日も落ちて食事会も終わりに近づいた時、



「_________失礼いたします。

私、リチャード第1王子の執事をさせていただいております、アルフレッドと申します。

お食事中の所大変、恐縮ではございますが

ルナ・ボールドウィン様とお見受けいたします


あちらで、リチャード王子がお待ちです

少々お時間をよろしいでしょうか」




後ろから突然呼ばれて、ルナもアッシュも驚いてしまった。


アルフレッドと名乗る老年の紳士に呼びとめられ、内容を聞いたルナの表情が強ばる。





アッシュは険しい表情でアルフレッドを睨み付けるが

全く動じること無く、アルフレッドはルナを真っ直ぐに見ていた。






「はい………わかりました」




「___ルナ!」

「大丈夫だよ、覚悟はできてる」

周りに聞かれないよう小さな声で言葉を交わし、ルナはアルフレッドのエスコートに従った。



どうやらバルコニーのほうで、リチャード王子が待っているらしい。





バルコニーをぐるっと囲むように距離をとって衛兵が囲んでいる。

「護衛のかたはこれより先には立ち入ることができません」


衛兵に制止されてしまい、仕方なくバルコニーの入り口が見える壁際に移動する。




アッシュは無力に待つことしかできないと思うと

無意識の内に険しい顔になり、消えていくルナの背中を見ているだけの自分に心底嫌気が差すのであった。





「まぁまぁ、若者よ

そんなに怖い顔をするもんじゃあ、ありませんぞ

あまりに目付きが悪いと、色々な所角が立ちますからな……」




「!?

あなたは………」



「ハハ…そんなに驚かれんでも…

先ほど、自己紹介はしておるでしょう?

アルフレッドですよ」



執事のアルフレッドがそこにいた。

スラッと伸びた長い足に、ピンと伸びた芸術ともいえる美しい背筋。

長めの白髪を後ろで束ね、綺麗に切り揃えられた白髭と

左目の単眼鏡(モノクル)が特徴である。



「何故、あなたが此処に?

私に何か御用でしょうか?」




「ストレートに聞きたいことをぶつけてくるんですなぁ、そう警戒されんでもこのジジィと世間話の相手はしてくれんのですか?」




アッシュは困惑する。

先ほどまでとはまるで別人のようだ…





「ハハハ、そうも驚いてもらえるとは嬉しいものです。

なに、単純なことですよ。


いくら執事といえども、王子のプロポーズシーンを眺めるような事は許されておらんのですよ。

プロポーズとは結婚を申し込む相手に送る最初の契りの言葉です。

そんな特別な言葉をこんなくたびれたジジィが聞いてしまっては天罰がくだるでしょう?



だから私は此処に来て君と話をしているんですよ

適度に休憩をいれないと、若き王子の相手はいささか………骨が折れますからな」



随分とフランクな人物のようだが

アッシュはまだ警戒を怠らないようにする。



「貴方のその発言こそ危ないのでは?

不敬罪に問われかねませんよ」



「おや、これは一本とられましたな

ジジィの相手をしてくれる気になったのですか?」



「いったい何が目的なんですか?

ただの執事が、世間話をしに来た訳じゃないでしょう?」



「目的などありませんよ

従者同士のコミュニケーションというやつです」



「コミュニケーションが目的なら気配を消す必要がないのでは?」



そう、アッシュは先ほども今も

声をかけられるまで全くアルフレッドの存在に気がつかなかった。

足音も全く聞こえないほど静かに歩いているし、人が発する呼吸音や服の布擦れの音が全くしないのだ。


相当に訓練を積んだ武人の類いであっても中々にこのレベルにはお目にかかれないほどである。



「ほぅ、これはこれは…

思っていたよりも、面白い若者でございますな」





「アルフレッド様_もう一度聞きます

貴方はなぜ、此処にやってきて私に接触しているのか

狙いはなんなのか?


お答えいただけないのであれば………」



__________スッ ________パシッ


いつの間にか、アルフレッドはアッシュの間合いの完全に内側に入り込み、構えの姿勢をとろうとしたアッシュの右手に自分の右手を重ねて抑え込んでいる。


「______!!!!!!」


これでは始める前に負けだ。




「からかいすぎたのは謝罪いたします。

大変失礼をした。

しかし、本当にただただ話をしてみようと思っただけですので、そう心配なさらないでくだされ


歳をとると、若い人達との交流する機会が無くなってしまうものですからな…

年甲斐もなく舞い上がってしまったようです

先ほども言いましたが、ジジィにリチャード王子は少々…………荷が重いのですよ


これくらいしか、申し上げられませんが御容赦頂きたい」



「……………」

アッシュは何も言えなかった。



「おやおや、我々の短い休憩時間も終わりみたいですな楽しい時間でした、またいずれどこかでお会いしましょう」



そう言って、アルフレッドは歩いていってしまった。



バルコニーの方を見ると

少し顔を赤くしたルナが歩いて出てくるところだった。

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