成人式 3
会場に到着するまで、王宮に向かう馬車に揺られながらルナもアッシュも参加者の名簿に目を通す。
「ふーん、主催者側の王族を含めても参加者はほぼ新成人ばかりだな、新成人じゃないのは
ギデオン国王に
アドニスを含んだ、東西南北の辺境伯 4人
あとは、王国軍の軍団長と各豪商のトップくらいか…」
「そうね、あとは各人が連れた護衛くらいじゃない?
とりあえず、挨拶をすべき相手は覚えたから君はメイド長から言われた事を忘れないようにね」
「…おまかせくださいお嬢様…」
「よろしい!
ところで、何で君はさっきから下ばっかり見てるんだ?
全く目を合わせてくれないじゃないか?」
「メイド長に、使用人が主人の目を直視する事は良くないと教えられましたので…」
「そうなのか?それでは前が見えなくて危ないじゃないか?
私が声で誘導してやろう
小さい頃やったスイカ割りみたいに」
「なんですか、そんな昔の事を…
止めて下さいよ
恥ずかしい思いをするのはお嬢様のほうですからね」
「言ってくれるね?
わかった、じゃあ今日帰ったら、メイド長にアッシュと目があった回数を報告しようっと」
「勘弁してくださいよ……」
軽い冗談交じりで揺られること十数分。
馬車が停まって扉が開かれた。
王宮に到着したらしい。
「よし、行こうか」
やや緊張した面持ちでルナが言う
馬車を降りると御者は冷ややかな目でこちらを見ていた。
(しまった、アッシュと軽口叩きあっていたのを聞かれたか?)
アッシュの方を見ると相変わらず少しうつむいたままだがなんとなく、表情が笑っている気がする…
「さぁ、参りましょう」
「あぁ」
王宮に入る
改めてみるとやはり王宮は美しい
跳ね上げ式の橋を渡ると会場の大広間まで綺麗にカーペットが敷かれており、身なりを整えた召し使いが丁寧に案内をしてくれる。
会場に入ると、既に半分くらいの参加者が到着しており、既に新成人による挨拶合戦が始まっていた。
「ふぅ……
さぁて、体力勝負だな
アッシュ
ちゃんと付いてきてくれよ」
「おまかせください」
食前酒を片手に荒波に飛び込むルナであった………
数十分は経っただろうか、
意外にも、ルナは上手く立ち回れている。
笑顔を崩さず、着々と挨拶を交わし様々な貴族達に囲まれている。
ルナ本人がかなりの美人であることに加え、リチャード王子の花嫁候補筆頭だという噂が後押ししているのだろう。
お近づきになりたいと言ってくる貴族が後を絶たなかった。
そんななか、ルナの事を快く思わない人物が1人
王国軍軍団長の娘の マーガレット・ハウエルが護衛を従えて背後に迫っている。
______「あぁら、危ない!」
突然声がして、振り返ると
ルナに向かって酒がグラスごと飛んできていた
周りを他の貴族達に囲まれていて、反応が遅れる_
これは当たると思い目を瞑る、
___ッヒュ! パリィン!!
とグラスが割れる盛大な音が響いた。
「お怪我はありませんか?」
目を開けると、アッシュが立っていた。
彼はどこからか、ウェイターが大量にグラスを運ぶ時用の巨大なお盆を持ってグラスと酒がルナ達に降りかかるのをふせいだのである。
「チッ…………………………………………まぁ、大変。
お怪我はございませんこと?
私としたことが、つい手元が滑ってしまいましたわ」
白々しい演技丸出しでマーガレット・ハウエルがルナに駆け寄る。
「あら、ボールドウィン家のルナ様ではございませんの?
私、マーガレット・ハウエルと申します。
この度は、大変失礼いたしました。
優秀な護衛を従えてらっしゃるのですね」
「あ__えぇ
これはどうも、怪我は無いのであまり気にすることはありませんよ」
「それはなによりですわ
私としたことが、お恥ずかしながら、少し酔ってしまったみたいで手元が………
___あぁダメですぅ」
魂胆見え見えのふらついた演技をして、あろうことか次はルナの足を踏みにかかる。
____シャッ!_____ガツッ!?
マーガレットの靴はルナの足を踏むことは無く、アッシュが投げたお盆によって阻まれていた。
アッシュをキッと睨み付けるマーガレット
彼女は怒りの表情を一瞬だけ見せ、すぐに真顔にもどる。
そして、周りの貴族達にも聞こえるようわざとらしく大きな声で言った。
「まあ、本当に優秀な護衛さんを雇っていらっしゃるのねルナ様は
しかし、ご主人様やそのご友人に向かってお盆を投げつけるなど、いささか無礼ではなくって??
私怖かったですわ。
少し酔ってしまっただけでルナ様にわざとこんなことしてるわけではございませんのよ?
ボールドウィン家ともあろうものがこのような、無礼物を従えてるとは行く末が心配になってしまいますわ」
完全な言いがかりではあるが
周りの貴族達が注目している。
アッシュはマーガレット達に対し頭を下げ言った。
「大変失礼致しました、マーガレット様。
まさか、酒を投げつけたり足を踏もうとするお方の事をハウエル家では友人と呼ぶとは思いもよらず、とんだ無礼を!
以後、気を付けますのでどうか御容赦を…」
周りの貴族からは小さくクスクスと笑い声が漏れる。
マーガレットは顔を真っ赤にして言った。
こめかみもピクピクしているのをみる辺り、相当腹が立っているのだろう。
「まぁ、なんて無礼な!!!
お前のような何処の物かもわからない馬の骨がごときが、私になんて口を聞くのかしら!」
「ご友人とやらに謝罪を申し上げているのですが……」
「よくもまぁ!!!!!!
カウギル! 礼儀を教えてやって!!!」
カウギルと呼ばれた男が前に出てくる。
大柄で、しっかりとした体つきに
胸には王国軍が持つ騎士養成学校の首席バッチをつけていた。
さすがはマーガレット
ハウエル軍団長の娘だ。
エリート騎士を護衛に従えているのも納得が行く。
ズンズンとアッシュの方に向かっていくカウギル
アッシュは頭を下げたまま動かない。
周りの貴族達も距離をとってざわざわしているなか
チラッと一瞬だけアッシュがルナの方を見た。
その瞬間を見逃さなかったルナは、苦い顔をして、アッシュに対して小さく頷いてみせた。




