表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

猿の夢

作者: 雉白書屋

 猿がいた。檻というよりかは託児所のように、オモチャなどが散乱している真っ白な部屋。

 猿はその部屋の天窓から空を仰ぎ、誰に聴かせるでもない溜息をついた。

 ここから出ること、自由が彼の望み。その物憂げな様子を見た誰もがそう思うだろう。


 だが違う。


 彼は空を飛びたかった。そして願わくばその向こうも。

 彼はあの空の向こうに何かがあることを理解していた。オモチャを投げ合う他の猿たちよりも少し賢かったのだ。それ故に孤独を感じ、夜は自分を抱きしめるように眠る。



「さあ、おいで」


 そんなある日、彼は部屋から出された。

 口に呼吸器をつけられ眠りにつく。

 抵抗はしない。また体をいじるだけだろう。何の目的かもしらないが、どうでもよかった。

 いつものこと。そしてそれは続く。あの部屋で朽ちる果てるまで……と、彼はそう思っていた。


 しかし、目が覚めると知らない場所に座らされていた。

 体には何か窮屈なものが着させられている。パニックにならずに済んだのは、声が聴こえたからだ。


『ファイブ』


『フォー』


『スリー』


『ツー』


『ワン』


 すさまじい轟音と振動。

 しかし、彼は一切の抵抗も恐怖もしなかった。

 これが何かは知っている。あの部屋の中に設置されたテレビで今と同じような場面を見たことがあった。

 これは……ロケットだ。

 そして向かう先は……。

 猿は口角を吊り上げ笑った。

 夢にまで見た光景をもうすぐこの目で、と。





「どうだ?」


「順調です。意識はあるようです」


「よしよし。ふーん、今、何を考えているのだろうな」


「さすがにそこまでは」


「だろうな。まあ、良い夢でも見ているといいのだがな。はははっ、しかし新天地に行くのはいつも人より猿が先だなぁ」


 水槽の中で機械に繋がれた猿の脳みそを眺め、博士は笑った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 賢い猿と聞いて、人間の言葉が理解できる猿を思い出しました。外国の猿ですが、ニュースか何かで取り上げられてました。猿も頭がいいですもんね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ