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第2話目「黒服」

雲一つない、透き通った青空の下、仰向けで伸びをする制服姿の少女が一人、満面の笑みを浮かべている。濁りのない、きれいな空気の中での深呼吸はどんなに心地がよいだろう。


疲れ果てた心を癒してくれるような空模様。心地よく吹く爽やかな風。優しい気持ちであふれる温もり。平和を感じさせるこの静けさもまた良い味を出している。

今日は日向ぼっこに最適だ。

柔らかくふわふわしていて、寝転ぶと体の形に合わせて沈み込み、包み込まれるような寝心地を感じる地面も素晴らしい。


まさに最高の気分だ。


少女は快楽に浸る。そして、とろ~んとした瞼を閉じ、「すやぁ…」っと、今にも長く深い睡眠へ入ろうとしている。

が、しかし。

ふとした疑問が少女の脳裏をよぎり、駆け巡り、少女の安らぎを妨害する。


――地面がフワフワ…?


少女は思う、「地面とはこんなに柔らかいものだったか」と。


ええぇぇぇぇ……。

これって本当に地面…?

なんでこんなに柔らかいの?


少女の脳内コンピュータが熱を帯び始める。


…おかしいよね、普通固くない?

柔らかすぎん?普通コンクリとか土とかだよね?

大丈夫?私今変なところで寝てたりしないよね?

ト〇ロの上で寝てたりしないよね??

あれ?地面って、地の面だよね?

地って万物の存在する基盤としての大地だよね?

ってか、地面の地って、「し」に点々?「ち」に点々?

は?ぢめんって何なん?

「まじ」を「まぢ」って言うやつやん。「もぅマヂ無理。。。」の「ぢ」やん。

ってか、地面って…マヂなんなん??


地面とは何か、「地面」の概念がガ〇レオの数式のように少女の脳内を食らいつくす。

地面とは何からできているのか、地面とはこんなに柔らかいものなのか、地面の地は「じ」なのか「ぢ」なのか。

少女は悩み、考え、思考する。眠りの小〇郎が如く。

そして、思考の末、少女の脳内コンピュータにある一つの答えが浮かび上がる。

それは…


見ればいい!!!!


そう、見ればいい。

といういか、最初から見ればよかったのだ。目を開けて、自分が寝転んでいるものが何なのか、きちんと己の目で確認すればよかったのだ。それだけの話であった。

しかし、少女はそれをしようとはしなかった、否、できなかった。

なぜならば、気持ちよかった。心地よすぎて瞼が上がらなかったのだ。

そう、そうなのだ。

この少女は阿呆、めちゃくちゃのアホウなのである。


覚悟を決めた少女はうつ伏せになる。そして顔を上げ、ようやくその重い瞼を上げる時が来る。


――――


「きれい…。」


予想外だった。ト〇ロもサ〇キもメ〇もいなかった。

少女の眼前に広がるは、地平線のかなたまで続く真っ白い広大なキャンパス。

美しくも幻想的であり、不思議と神秘さも感じさせる、透明感のある白。

傷も汚れもない、完璧なホワイトカラーが少女を感動させる。


「うわぁ、雲の上にいるみたい…。」

先ほどの眠たそうな表情はなくなり、少女の眼差しには憧れのアイドルを見ているかのような輝きがあった。

「でも、ここどこだろう…?」

感動していた少女だったが、再び疑問を抱く。

「さっきまで、病院のベッドに…。」

少女がそうつぶやいたとき、1人の男の声が聞こえてきた。


「あの~…お客様?」


…はい?お客様?


少女は後ろを振り返る。

そこには185cmはあるだろう長身の男が立っていた。男は光沢のない深みのある漆黒のスーツを着ており、胸元に黒無地のネクタイを締めている。いわゆる喪服だ。

左手でタブレットのようなものを抱え、右手で画面を操作している。

髪の色は青めいた黒で、重要な顔立ちは俳優の吉〇亮に似ている。さらに声は声優の諏〇部順一に近い、まさに少女の“ド”タイプイケメンお兄さんであった。


「お客様、このような場所で寝られては困りますよ。」

黒服の男はにこやかな表情で少女に話しかける。


ズキュゥゥゥンッ!!!


少女のハートが射抜かれた。


――こ、これが恋…?


「…ぁ。」

自分好みのイケメンお兄さんに微笑まれた少女は、爆速でビートを上げる鼓動に耐え切れず、言葉を失う。

「お客様…?どうされました?」

男は唖然とした少女に近づき、心配そうな顔で見つめた。

「あ…ちょ…。そんなに見つめられたら…。」

「あ、お客様もしかして…。」

何かに気づいた男は顔をそらす少女にさらに近寄り、ゆっくりと顔を覗き込んだ。

男のこの突然の行動に驚いた少女は、これほどにもない恥ずかしさを感じ、たじろぎ始める。


――あわわわ…!ち、ちかいって~~~!


恥ずかしさのあまり、少女は顔を隠すが、男は彼女の紅潮する様子などお構いなしに静かな口調で問いかけた。

「お客様もしかして…、桜川みなせ様でしょうか?」


ご名答。そう、この少女こそ「桜川みなせ」本人である。


男が発した言葉にみなせは驚いた様子を見せる。

「な、ど、どうして私の名前を…!?」

先ほどまでこのイケメンに心躍っていた彼女であったが、見も知らない男に自分の名前が知られているという事実を知ると、少しばかりか恐怖心を抱き、即座に立ち上がった。

みなせは戦闘態勢に構える。

だがその刹那、突風が彼女を襲う。それも正面ではなく下から。偶然にもほどがあるとはまさにこのこと。


男の視界はピンク一色に染まった。


みなせは顔を赤らめる。

男は一瞬の出来事に戸惑いを見せるかと思いきや、一つも表情を変えずつぶやいた。

「…ふむ。」

感想はその一言のみ。

男は何事もなかったかのように立ち上がり、みなせに話を続けた。

「やはり、桜川みなせ様だったのですね。申し遅れました、私天国入国管理局のバトラと申します。」

さらに続ける。

「仮登録は済ませております。」

そう言うと、バトラは左手に持っていたタブレットをみなせに見せた。

そこには「No.125,625,102桜川みなせ、仮登録完了」と表示されていた。

「本登録はまだですので、ひとまず受付の方にお越しください。それではご案内いたしますね。」

そう言うとバトラは颯爽と振り返る。が、ここで上の空にあるみなせに気づいた。

「…みなせ様?」

バトラは首を傾げ、再び顔を覗き込む。

「私の…勝負ピンク…。」

みなせは失望していた。この男にではなく、己の魅力のなさに。

「みなせ様?どうかされました?」

バトラはさらに顔を近づける。


ハッと我に返ったみなせは、赤らめていた頬を叩き、平然を装った。

「は、はい!だ、だいじょうぶです!」

ぎこちない笑顔でみなせは笑った。

バトラはにっこり優しく微笑むと、

「そうですか、ではご案内しますね。こちらです。」

そう言った。


前を歩く男の後ろ姿に、みなせはちょこちょことついていく。


先ほど抱いていた恐怖心は不思議と消えていた。

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