第1話「0日目」
ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ―――
鳴り響く音。鳴りやまぬ警告。
部屋には医療用酸素カプセルが一つ、ぽつりと置いてあり、中には高校生の女の子が眠っている。
そのそばに、少女の両親らしき人物が慌てた様子で駆け寄る。
――何だろう。何か、音が聞こえる。
煩わしい音、騒然とした様子を感じ取った少女は目を開ける。
――視界がぼやけて、何も見えない。
「ぁ。…せ。」
「…な…。なせ…。」
――声。声だ。でもわからない。誰の声だろう。
「…ぁせ…ないで。」
さっきとは違う、声。優しい、暖かい声。でもわからない。
「…なせ、みなせ、まだっ…。」
聞こえる、お父さんの声だ。
「みなせ、お願い…!」
お母さんの声。
「みなせ、まだだめだ…!」
「お願い、死んじゃやだよ…!」
――そっか、私、死ぬんだ。
「みなせっ!」
「お願い、返事をして。」
だが、少女は反応しない。
――あれ、声が出ない。
ピピピピ、ピピピピ―――
――声が。なんで出ないの…!
ピピピピ、ピピピピ―――
音は加速する。しかし、それがまた少女の想いを強くする。
――なんで、声が。お願い、出て。声を出して、私…!
少女の目に涙が浮かぶ。
「お願い…!」
母が泣き崩れる。
「頼む…!!」
崩れる母に父が寄り添う。
――言わなきゃ。ごめんね、ありがとうって。
ピピピピ、ピピピピ―――
――大好きだって。言わなきゃ…!
ピピピピ、ピピピピ―――
だから、神様、お願い。
――私の声を届けて。
「…っ、ぁ。」
少女の願いは届く。
「か、母さん、みなせが!」
「…ぉ、とお、さん。ぉかあ、さん・・・。」
懸命に声を出す。
――言わなきゃ。
「ごめ、んね…。ずっと…い、っしょに、いられなくて…。」
涙が流れる。
「めいわく、かけ…て、ごめん、ね…。」
涙が頬を濡らす。
「いま、まで…そだ…てて、くれて…。」
涙が溢れ落ちる。
「ありがとう…。」
頬を伝った少女の涙が枕を濡らす瞬間。
「だいすき…だよ。」
少女はにっこり笑った。
2022年7月7日、18歳の誕生日。
桜川みなせは亡くなった。