序章 終わりから始まる物語
…異世界ファイルNo.2、インストール完了――
これより、作業遂行プログラムを実行します――
薄暗さに満ち、静けさで溢れた空間を、事も無げな声が支配する。
ファイル解凍作業を実行――
・・・解凍に成功しました――
続いて、アップデートファイルのインストールを実行します――
・・・インストール完了、アップデートファイルのコピーを実行――
・・・コピーに成功しました――
カプセル型の装置に横たわる少女を気に留めることなく、声は淡々と。
アプリケーションを起動――
・・・起動に成功しました――
続いて、ヒューマンモデルの構築を実行します――
構築には、マスター自身の容姿データを要します――
――実行を開始してよろしいですか?
声の問いかけに、少女は答える。
了、構築を実行します――
…20%…53%…88%…――
・・・構築に成功しました――
続いて、最終システム起動前の数値解析を実行します――
・・・解析中・・・解析中――
・・・解析に成功、結果を出力します――
少女の顔前に出現したポップアップには、グラフやパラメータで構成された解析結果が表示されていた。
MMP 128%、CPL 22%、RS 平均値48、ATF -7から+9――
脳波干渉レート、最低値1041 最高値1273――
・・・値は有効な範囲、身体・精神共に正常です――
声は、横たわる少女に最後の質問をする。
これより、不可逆的領域に入ります――
故、本システム起動には、マスターの同意及び認証を要します――
――同意及び認証を許可しますか?
その時を待っていたかのように、一呼吸置いた少女はゆっくりと瞼を開き、つぶやいた。
「…はい。」
声は再び作業を始め、少女は再び瞼を閉じる。
マスターを認証します――
・・・認証に成功しました――
全システム、All Green――
転生システムcode.12、起動します――
時が止まる。
一瞬の静寂が流れた、その刹那。
「はじまる。」
少女の言葉は沈黙と暗闇の均衡を破き、声はそれに呼応するかのよう、眩い光を放つ。
天に昇る龍のように。
システム起動まで、3―――、
やっとはじまる、私の物語。
2―――、
さよなら――、世界。
1―――、
―――行ってきます。
「起動。」
光り輝く柱の中、世界から消えていく自分に、少女は恍惚とした笑みをこぼした。
そう、これは私が異世界に転生するまでの、たった1ヶ月間のお話。