始まり
ーーー22xx年、冬ーーー
僕は混乱していた。目を開けた瞬間に入ってきた景色を見て一瞬でそう判断した。
僕が立っている場所はどこかの公園だった。砂場には幼児達が山のようなものを作っていて、広場では若い女性がランニングウェアを着て犬と一緒に走っていた。キャッチボールをしている少年たちもいた。
しかし、違う。違うのだ。その違和感の原因はすぐにわかるものだった。
僕はかつて就活生だった。過去形だからといって無事に就職先を見つけることができたわけではない。
ことの発端は面接会場であるビルに向かう途中に起こった。歩行者が歩きやすいように、あるいは自転車が快適に走れるように舗装された当たり前の道から突然枯れ葉で一面を覆い尽くされた地面に変わった。
201x年、この時代では小説や漫画のジャンルで一番人気だったのが「異世界転生」や「異世界転移」と呼ばれるファンタジーものだった。
だから僕にもすぐにわかった。何者かに誘拐された記憶もないし、死に直面する事態にも遭っていない。突然山の中にいたのだ。
もうこれは確定的であろう。
僕は異世界転移してしまっていた。
この山の中で師匠達に出会わなければ僕は間違いなくのたれ死んでいただろう。
学校で学んだ程度のサバイバル知識があったとはいえ限度があるというものだ。
とにかく日が沈まないうちに五感を頼りに川を見つけた。
次に食糧だが目視で魚を確認できるので問題ないだろう、そう思っていた。
ガサガサと複数の足跡が聞こえてきた。この地点で僕は身を潜めるべきだった。現れたのはボサボサの髪、汚れた服を着て片手に剣を持った盗賊達であった。
既に囲まれていた。僕は身体を震わせるだけで何もできなかった。盗賊の一人が「珍しい服を着ているから売れば高く付くだろう」と言いながら剣を横長に振るったのを見たのを最後に気絶した。
目が覚めたら山小屋だった。
「気がついたようだな。賊に囲まれて寝るとは肝が座っているな。若人よ。カカッ。」
着流しを着た少年が年寄り口調でそう言った。
「お主からは妙な気を感じる。初めて見た。のう、お主、この世のものではなかろう?
それに仙気もある。魔力も感じる。それ自体に何ら問題はないがわしにはわかる。この世のものならざるものの気配だ。であろう?答えよ。若人よ。」
これが僕と一人目の師匠の出会いだった。