マキシム1 嫉妬は緑色の目をした怪物なのでしょうか。
1話平均3000字、全7話にて完結します。
本日より朝と夜の1日2回投稿します。
こちらは熟女クエストⅡ‐②になります。
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野々原家 AM 7:15
最初に感じた異変は、妻・真佐江のアクセサリーだった。
「あれ? そのネックレス新しいのだね。買ったの?」
優介は朝食を食べながら、珍しくネックレスをつけている真佐江に何気なく聞いてみただけだった。
「へっ? ……あ! ああこれ? いや買ったっていうか、景品で当たったんだー。試しにつけてみたんだけど、金具が壊れちゃってね、あはは。外せなくなったからつけてるだけなんだー、参った参った!」
優介はなんとなく気づいた。おかしいと。
「安物だったんだね。あ、じゃあ今ペンチで切ってあげるよ。待ってて」
優介が席を立つと、真佐江はわかりやすく慌てた。
「あ! いい! 大丈夫! 実はモノはちゃんといいものらしいんだって! 切るのもったいないし! うん。ちょっと気に入ってるから!」
「ふーん、そうなんだ……」
(ねえ、まーちゃん。それは誰からもらったの? 景品なんて嘘だよね? まさか男の人からもらったとか?
もしかして、誕生日プレゼントとかじゃないよね……?)
優介は表面上はにこやかに微笑みながら、裏では激しく動揺していた。
真佐江が誕生日プレゼントにフラッシュライトとかいう軍用装備品をねだり、自分と軽い口論になったのはつい数日前のことだった。
(まさかのあてつけとか……?)
しかし真佐江が未だかつて、自分に当てつけのような嫌がらせをしてきたことはない。たとえケンカをしても次の日には何事もなかったかのようにスッキリしている。
良くも悪くも男気にあふれた女性なので、そういうネチネチしたようなことは絶対にしないのだ。
でも――どうしよう。
真佐江が『遅刻遅刻~!』といって走っていたら、曲がり角でどこかの多国籍傭兵部隊出身の男と出合い頭にぶつかって、その瞬間にお互いの戦闘力が謎のシンクロ率によって数値で視覚化できたりして、戦闘民族同士の熱い友情のようなものが芽生えてしまったら……。
そしていつしかそれが友情ではなく愛に変わったりしたら――!?
そんな展開が起きたら、真佐江といえども、もしかしたらもしかするのではないか……?
「あ、時間だ。優くん、私もう行くね。洗い物お願いしていい?」
真佐江が時計を見ながら慌ただしく席を立った。食器を流しに出すと、片手で謝りながら玄関に向かう。
「あ、うん。いってらっしゃい」
笑顔で妻を送り出したものの、優介は激しい不安に襲われていた。
「ママって、人でも物でも変なのに遭遇する率高いもんね〜。案外マジで破格のダイヤのネックレスゲットしたら、いわくつきの呪いのダイヤとかで、マジで外せなくなってたりしてね〜。ウケる〜。
でもママならそんじょそこらの呪いじゃ弱らないと思うし、心配することないと思うよ!」
自分の顔を見た娘の美緒が、フォローとも思えぬフォローを入れてくる。
優介は肩をすくめ、娘に曖昧な笑みを返した。
妻・真佐江の誕生日まであと12日の木曜日。
PМ 8:35
優介が美緒に今週土曜日の予定を確認すると、中間テストがあるので友人と図書館で勉強するということだった。
優介の頭の中に一つのプランが浮かぶ。
ここは久しぶりに真佐江と二人でお出かけをしよう。
そして誕生日プレゼントを選んだり、デート的なことをして、今こそ夫婦の絆を再確認するときだ。
そう優介は決意した。
美緒は自分の部屋にいるため、今リビングにいるのは優介と真佐江の二人だけだ。
優介はちょっと照れながら、妻に下の名前で呼びかけた。
「ねえ、まーちゃん。土曜日、どこか買い物行かない?
みーちゃんも友達と図書館行くって言ってるし。二人でご飯とかさ……」
「あー……、ごめん。土曜はちょっと予定があって」
まさかの真佐江は困り顔だ。
(嘘だろ? だって誕生日目前だよ? 誰と出かけるつもりだよ!
まさか……やっぱり、多国籍傭兵部隊の男とデート、なのか……?)
優介は動揺が顔に出ないようにするのが精いっぱいだった。
「……あれ? 社内研修だったっけ? あっれ~? 見落としてたかなあ?」
カレンダーにそんな予定は書かれていなかったことは確認済みだったが、優介はわざとそんなことをつぶやきながらカレンダーを確認しに行くふりをする。我ながら白々しくて嫌になった。
「……ううん。違う、私用なの……ごめん」
はっきりと用事を口にしないのがますます怪しかった。
どうしよう。悪い男にたぶらかされて、争いの尽きない戦地へ赴かされてしまうなんてことは……?
そのまま、まーちゃんは伝説の特殊部隊の母みたいな称号を抱かされて、家に二度と帰って来なくなったら――!?
いや、落ち着け。落ち着くんだ優介。
今は冷戦中でも戦争中でもない。そんなことがこの平和な日本の、善良な日本人を巻き込んで起きるもんか。
「ん……。わかった。いいよ。じゃあ僕は本屋でも行こうかな。また今度、あらためて二人で食事でもしようよ。ね?」
ここで根掘り葉掘り聞き出そうとするのはきっとマズいのだろう。優介はいったん引いて様子を見ることにした。
「ごめんね優くん……、せっかく誘ってくれたのに。二人でお出かけとか、久しぶりだったのに」
わかりやすく落ち込んだ真佐江の表情を見ていると、この人が自分以外の男性と浮気なんてするわけがないのにと思う。
でも、相手が戦闘職種かもしれないと思うと、妻への信頼が揺らぐ自分がいる。
そして、こんな素敵な妻がいるのに、その妻を疑う自分に強い自己嫌悪の感情が沸き上がっていく。
人を疑ってしまうのは、きっと自分に自信がないからだ。
自分が、真佐江の憧れるような強い男でもたくましい男でもないから。
こんなの、ただの疑心暗鬼だ。
しかし、頭では分かっていても、優介の不安はどんどん膨らんでいくのだった。