魔物と私と王子様
私の名前はロベリア。この世に生を受けて16年になる。両親は死んだ。だから小さい頃から祖父母と一緒に暮らしている。自分が不幸だとは思ったことは無い。だってこれが私のあたりまえだから。それに私にはお友達が沢山いるの。ジャッキーでしょ。メアリーでしょ。エリザベートでしょ。みんな素敵な子なの。小さい頃から一緒なのよ。ここの人達はみんな私のお友達と仲良しだわ。ここはなーんのしがらみもないの。人も種族も性別も年齢も。
でも、商人さん達はいったわ。『ここは捨てられた街だからな』って。『捨てられた街』ってなんだろう。
私はその意味を理解することは無かった。だってここはとても暖かくて優しい場所だもの。何故そんなことを言うのかしら。ジャッキーやメアリーが狩りをしてお肉をとってきてくれるからご飯にも困ったことは無いし、王都から離れているけど色んなモノが集まるから寧ろ王都より店はあるんじゃないかしら。だから、私は不幸だとは思わない。
この街に来た人は皆いったわ『嗚呼、可哀想に』って。『可哀想』ってなんだろう。
私もそろそろ年頃だからと祖父母が縁談を進めてきた。私は恋とかよく分からないから断ったんだけど。それに私はジャッキーが…でも祖父母のことを思うと無下にはできなかった。それにこの土地でみんなと一緒に暮らせればそれで良いし。
そんなある日、ここの街に何十年かぶりに王族の方が来るらしい。皆は何故かビクビクしている。王族って怖い人なのかしら。
この街に降りた王族は次の王太子様だった。王太子様は一瞬顔を顰めたけどな特に何か言うわけでもなくただ笑っていた。正直気持ち悪いと思った。王太子様はとても綺麗な人だった。金髪碧眼でスッとした顔立ち。でもそれだったらジャッキーの方がかっこいいわ。いつも仮面をつけてるけどジャッキーは優しいもの。王太子様は何故か私を案内係に指名してきた。他にもっといたのに。
そして王太子様はいったわ。『君はここで暮して辛いだろう』と。『辛い』ってなんだろう。
私は辛くはないと答えた。幸せだと。でも、何故か痛々しいものを見る目で見られてしまった。変な人。
次の日、私は王太子様に街を出ようと言われたわ。でも断ったわ。だって、私はこの街を愛してるもの。それなのに王太子様は私を王城へ連れ去ってしまった。私はあそこを離れてはいけないのに。何度も家に帰してと頼んだわ。でも王太子様は君は洗脳されているんだと全く聞き入れてくれなかった。ジャッキーやメアリーやエリザベートや祖父母に会いたい。もう2週間も会ってない。
そんなある時、ジャッキーが私を迎えに来てくれた。とても嬉しかった。やっと、やっと帰れるんだって。でも、ジャッキーはその場で斬られたわ。何故かって?それは王城に侵入したから。それにここは神聖な場所だから穢れた魔人が入るとこじゃないと。
血が流れる。真っ赤な真っ赤なまるでトマトのような真っ赤な血。私はそばに駆け寄りジャッキーを揺さぶったわ。王太子様はそんな魔物に触っては行けないと言ったわ。愚かな私はそこで気づいてしまったの。私にとってのあたりまえは当たり前ではないことを。
なんで…?なんでなんでなんでなんで???!なんでワタシたちなの!?ワタシたちは大人しく幸せに暮らしてきた!それなのになぜこんな仕打ちを受けなきゃならない!!!
すると今まで人間と何ら変わらなかった身体は変化をし始めた。白かった髪は黒く染まり、金色に近かった瞳は赤黒く染まった。王太子はひっと短く悲鳴をあげた。それもそうだろう。もうワタシは私では無いのだから。
ワタシはそこで残虐な限りを尽くした。ジャッキーを襲った兵を消した。次にこの国の国民の命を貪った。その次に王族を国民の上に晒した。最後に…
「ねえ、王太子様。」
「ひ、ひぃ」
「ワタシって『不幸で可哀想で辛い捨てられた街』で育ったの。」
ワタシは王太子に微笑んでみせる。そして瞳孔を細長くして獲物を捕らえるような目で王太子を見たわ。相変わらず怯えていて話にもならない。
「ねえ、その不幸って誰が決めたの?ワタシのどこが可哀想で辛そうなの?あの街はなぜ捨てられた街なの?」
王太子は口をカチカチならしながら答える。
「あ、あの街は、かつて魔人の国の王都だった。ゆ、勇者の一族であった王族はその魔人の国を倒した。だから、あ、あの場にいた君は住民の中でただ1人人間の形をしていた。だから…ひっ」
反吐が出る。そんな理由で私達を差別し、可哀想などとのさばったというのか。それにお前たちは勇者などでは無い。私たちにとってただの侵略者だ!!!何もしていない穏やかな暮らしをしてきたワタシ達をお前たちは災害が見舞われた年にワタシたちのせいだと攻めてきた!だから皆消して上げたわ!!!!商人も!街を訪ねた旅人達も!!!
「だから次はアナタの番だよ」
私は王太子の懇願も聞き入れずそのまま首を掻き切った。
…ねえ、母さん。父さん。この人たちはなんて自分勝手なんだろう。ただ、種族が文化が見た目が違うだけだった。なんでこんな馬鹿な奴らのためにワタシたちは殺されなくてはならなかった。そしてその殺された理由が天変地異によることだった。確かに私たちは魔法というものを使えた。だが天候までを操るようなそんなものはどこにもなかった。友好国であったこの国に攻められたとき、最後の王族として逝ったのは大変名誉ある行動でございました。ですが、ワタシを置いて行かないで欲しかった。願わくば両親の魂が静かに眠れますように。
私は愛する人の骸を抱えながら血塗れた道を歩いた。私は泣き叫んだ。父のことも母のことも全て思い出してしまった。そして、あの人達と同じことをしてしまったことに強い嫌悪感を覚えた。
ふと道端に咲いていたロベリアに目がいった。ロベリアの花言葉は確か…「いつも愛らしい」ジャッキーはご両親はきっと君のことをとても愛していたんだね。それにとても君に似合っていると頭に花を飾り言ってくれた。とても嬉しかったのを覚えている。
でも、ロベリアの花言葉にはもうひとつ意味がある。
それは『悪意』ロベリアに毒性があることからきてるらしい。ねえ、ジャッキー。本当に私に似合っていると思うわ。だって、私はこんなに『悪意』に巣喰われていたのだもの。
私はまた歩き出し愛する町へと愛する人と共に歩き始めた。
ご覧頂きありがとうございます。
思いついてサクッと書いたので色々ぐちゃぐちゃになっているところがあります。
ちなみにジャッキーやメアリー、エリザベートはジャッキーはジェイソンからメアリーはブラッディーメアリーからエリザベートは西洋の吸血鬼と言われたエリザベートバートリーからつけました。
勇者と悪役で言ったら悪役目線側で書いてみました。
人ならざるものと人果たしてどちらが正しいのか。