1話 第6章 あたらしい生活のために
風呂場に到着すると今まで拡散されていたアンモニアの粒子が逃げ場を失い空気中を漂う。一旦ミアのスカートを脱がせる。そこに現れたのは彼女の歳にはふさわしくないピンク色のおむつだった。彼女のおもらしをしっかりと受け止めたおむつは膨らみ、股の下のラインは半分より下が青色に変わっていた。
「まだ出ちゃいそうだったら出しちゃって」
「・・・うん」
なんだか立場が逆転したような気がする。ミアは恥ずかしそうに胸の前で服をいじりながら目を閉じる。そして聞こえてくる「しょわー」という音。膨らむおむつ。完全に音が聞こえなくなるのを待ってからおむつのサイドを破り、おむつを外していく。今までミアが我慢していたおしっこを全て受け止めたおむつは黄色く染まり、ずっしりとしていた。
「・・・今まで私がサクラちゃんの立場だったのに逆になっちゃったね。うぅ・・・恥ずかしい」
「私だって恥ずかしかったんだからお互い様だって。お湯掛けるよ」
「ん」
お湯を出し、温度を調節してからミアの服が濡れないようにシャワーをかけていく。きれいに洗い終えたらタオルで優しくきれいに水気をふき取る。
そのままの状態でしばらくミアを待たせ、その間にズボンと新しいパンツを先ほどの棚から持ってくる。
「自分で着替える?」
「・・・あのさ、私もおむつじゃダメかな?」
「え?」
「・・・さっき失敗しちゃったし、サクラちゃんだけおむつっていうのは可哀そうだし」
「そんなの気にしなくていいって。大丈夫だよ」
「・・・それでも心配だからおむつがいい!」
おむつがいい!ミアのこの発言はサクラにとっても衝撃的なものだった。まさかミアからこのような言葉が出ることになるとは。また漏らしてしまうのではないかという不安はサクラ自身も同じだった。
「・・・わかった。自分で穿ける?」
「うん」
おむつだけサクラが持ってきてあげる。そのおむつを慣れたように穿いた。そして全身をひねりながら自分のおむつの様子を確認する。時にはサクラの方におしりを突き出すような形で。
持ってきたジーンズはまたしまっておいた方がいいだろう。二人とも風呂場を出る。ジーンズの代わりに今まで穿いていたスカートを穿けばいいのではないかと思い見てみるとわずかに漏れてしまっていた。
「・・・さすがにこれは穿けないね」
「うん。だいじょうぶ、自分で新しいの持ってくるから」
というとサクラは下半身におむつしか纏っていない状態で部屋を出て行った。特に気にする光景ではないはずだが今までとは違う意味で気恥ずかしさを覚える。
戻ってきたミアは今までと対照的にピンク色のロングスカートだった。これならおむつが見えることもないだろう。ある意味羨ましい。
「あ、そうそう見て!」
そういうと無邪気にミアはスカートをめくりあげる。反射的に目を逸らすがゆっくりとミアの方を向く。ミアは男子が穿くような黒色のボクサーパンツのようなものを穿いていた。どうしたのだろうか。
「言ってたカバーパンツっていうのはいて見たんだけどこれで安心でしょ?サクラちゃんのもあるよ」
そういいミアから一枚のパンツを渡される。見た目だけなら完全に男子のボクサーパンツだった。だがそれよりも生地が分厚いような気がした。サクラもおむつが見えてしまうのが恥ずかしかったので渡されてすぐに着用する。かさかさというおむつと布がこすれるような音も密着してくれるおかげで少し小さくなった気がする。いいことだらけだ。改めて自分のスカートをめくってみる。もう直接おむつは見えない。風でめくれてももう安心(?)だろう。
「ありがと」
「どういたしまして。遅くなっちゃったけどご飯にしようか」
「うん」
改めてキッチンへと向かう。
†
二人で昼ご飯を食べ、その片付けもする。時間が経ち、少し気が楽になってふと今日の出来事を思い出す。朝失敗してしまい、そのまま穿くことになってしまったおむつ。パンツタイプではなくテープタイプだ。朝も二回目(真相は不明)が仮にトイレに間にあっていたとしてもどうすればよかったのだろうか。テープタイプのおむつで用を足しにトイレに向かった場合、どうするのが正解なのだろうか。わずかな余裕を使ってなんとかパンツのように下ろすのが正解なのか、テープを全部はがしてからするのが正解なのか。冷静に考えると謎だった。
今は心配する必要はないような気がする。今穿いているのはパンツタイプだし、昼の短時間でさえ我慢できなかったのに一晩おもらししない自信はないからだ。なんとかおむつは吸収してくれるので最悪トイレに行こうとして間に合わなくても床を濡らすことはない。
「そういえばサクラはまだ働いたことないんだよね?」
二人暮らしになって洗濯物が倍になったのまではいいが両方お漏らし癖があるので洗濯物が多い。午前に引き続き洗濯物を片付けていたミアが唐突に言った。あまりにも唐突過ぎてほとんど反動で返事をしてしまう。
「う、うん」
「そうだよねーその歳だとぎりぎり働き始めるかどうかっていう年だもんね。あのさ、私と同じところでよかったら働いてみない?」
「え?」
働くとはどういうことなのだろうか。この歳で?見た目だけで言えば十歳。どうやったら働くという結論になるのだろうか。元の歳でも十四歳なので働いたことはない。働けというのだろうか。
不思議がり、わずかに嫌な反応をしたサクラに対し、ミアが続ける。
「私って一人暮らしでしょ?だからお金も自分で稼がないといけなくて、働いてるの。おむつ代だってただじゃないんだし。別に今すぐに働けとは言わないけどずっと一緒に生活することを考えると私の稼ぎだけじゃ厳しいからさ」
「この歳で働くの?」
「うん。みんな働いてるよ」
考えてみれば当たり前なのかもしれないが、いざ現実になって働かないといけない状況の前に立たされると働きたくないという気持ちが表に出てしまう。世の中の大人はこんな気持ちなのだろう。
「・・・一応聞いてみたいんだけど、どんな仕事?まさか変なことじゃないよね?」
「変なこと?よくわかんないけど私が働いてるのは服屋だよ。普通に私と同じくらいの歳の人向けの服を売ってる」
「ミアって服屋なの?」
「まあ、いち店員だけどね。仕事先のみんなも優しいし、多分サクラちゃんもそうなると思うから先に言っておくけどおむつして働いてる人もいるからおむつしてても大丈夫だよ」
言わないうちから外堀を埋められている気がする。生活費を今ミアにすべて出してもらっていることを考えると自分も出すべきだろう。それよりおむつして働くのが前提なのが少し心に刺さる。
「どう?悪くないと思うけど?女の子ばっかりだし。あ、別に私と一緒に働かなくてもいろんな仕事はあるけどね」
「・・・せっかくだったら私はミアと働きたい。初めてで怖いっていうのもあるし、ミアだったら何かあっても助けてくれるでしょ?」
「もちろん!じゃあこの後早速面接?じゃないけど顔出しに行こうよ!明日には私も働かないといけないし」
「そうなの?」
「うん。昨日と今日は休みだったけど明日から仕事。夕方までだから頑張ろうね」
「う、うん」
「そうと決まったら準備しなくちゃね。あ、おむつどうする?念のため穿いてく?」
「・・・うん。あと予備も」
「わかった。カバン持ってくるね」
そういうとミアは隣の部屋にカバンを取りに行ってしまう。追いかけるわけにもいかないのでとりあえず畳みかけの洗濯物をたたんでおく。元男の自分に女の子の服を売る仕事ができるのだろうか。たまに漏らしてしまうような人間が。
プレッシャーは大きかった。それでも一人で働きに行くよりも二人の方が心強い。
ミアがカバンを持って戻ってくると、気持ち今までよりもしっかりとした服に着替えさせられる。おむつはまだ汚れていないのと、万が一のことがあるのでこのままにしていく。午前の反省を踏まえて予備のおむつもカバンの中に入れる。
「・・・不安?はじめての面接は」
「うん。何言えばいいのか分かんないし」
「大丈夫大丈夫。私が何とかしてあげるから」
ミアに手を繋がれ、そのまま家を出る。見た目重視でかぶらされた帽子のつばが下がっているせいでミアの顔が見にくくなるのが少し寂しかった。それでもしっかりと手を握っていてもらえるのがうれしかった。そのままミアの職場まで歩いていく。尿意はまだない。不安だがミアがいるから大丈夫だろう、そう自分に言い聞かせ続ける――