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サクラのかくしごと  作者: 華点
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1話 第5章 ふたつのおむつ

「ほんと、漏れてなくてよかったよね」

「うん」

 小さなトイレの個室に二人が入る。体が小さく、基本的な荷物は外に置いてあるとはいえ先ほどミアが買ってきた荷物もありかなり狭い。サクラがワンピースの裾を上げると今まで隠されていたピンク色のテープ式おむつがあらわになる。中央の黄色のラインは下半分だけ青色へと変わって全体がややぷっくらと膨らんでいた。

 漂うアンモニア臭。だが慣れた手つきでミアはテープをびりびりとはがしおむつをサクラの下半身から外していく。おむつが外され、すべてが丸見えになってしまう。

「やっぱり夜用じゃちょっともったいないね・・・」

「それはよくわかんないけど新しいおむつ穿かせてよ・・・さすがに恥ずかしいからさあ・・・」

「だめ。綺麗にしないでおむつ穿いたりしてかぶれたりしても知らないよ?」

 そういってミアは先ほど買ったものの中からミアの小さな手でも両手には収まりそうな袋を出してきた。ウエットティッシュの袋のように上部をはがし、中から白い不織布のようなものを取り出す。

「ちょっと冷たいかもしれないかもしれないけど我慢してね」

 ミアは持っていた白い柔らかそうなものをサクラの股に当てる。

「ひゃぁっ!」

 文字は読めないがなんとなくこれが何なのかは分かった。赤ちゃんのおむつを交換するときなどに使うおしりふきだろう。変な声が出てしまったが恥ずかしいところもすべて知られ、秘密もすべて話してあるので今更恥ずかしいとも全く思わない。

「サクラちゃんってそんなにかわいい声出るんだ」

「もーからかわないでよー」

「ごめんごめん」

 そういいながら素早く汚れた部分をきれいにふき取っていく。そしておむつのパッケージを破り、新しいおむつを出す。今回のものはパンツタイプのもので、自分で穿こうと思えば今後は穿くことができる。

 だが相変わらずのピンク色の地におしっこラインもあり、何より今までのものには書かれていなかったキャラクターの絵が自分の歳にふさわしくないものだと思わせてくる。

「自分で穿く?」

「最初だし、履かせてほしい・・・」

「わかった」

 おむつを軽く広げ、両腕に通したミアはサクラが足を通しやすいように位置を下に下げる。手すりにつかまりながら片足ずつおむつに足を通し、ミアが引き上げる。最後はミアが腰と足の付け根のギャザーがしっかりと密着しているかを指をくぐらせて確認し、終了だ。

「もうワンピース降ろしていいよ」

 持っていたワンピースの裾を降ろし、再びおむつを封印する。やはりテープタイプよりもパンツタイプの方が体のラインに響きにくく、もっこりとしない気がする。

 とはいえ、まさか大丈夫だと思っていた昼間のトイレも我慢できなかった心の傷は深い。

「・・・やっぱり、間に合わなかったの心にきてる?」

 さすがにミアにも伝わっていたようだった。夜は失敗したとはいえ、昼間くらいは大丈夫だと思っていた。事実、昨日はちゃんとトイレに行くことができていたのだ。それがなぜできなくなっているのだろう。

 どう返事を返せばいいのかわからなかったので小さくゆっくりと首を縦に振る。

「そうだよね、おむつの柄も年に合わないしってなってる?」

 そこまでお見通しだとは。やはり彼女には敵わない。再び首を縦に振る。

「・・・しょうがないなあ。まあでも私がお姉ちゃんなんだから、可愛い妹だけにおむつをさせるのはだめだよね」

「え?」

「私もおんなじおむつ穿くからちょっと待って」

 そういうとミアは一切の躊躇なくパンツに指をかけて降ろす。薄ピンクのパンツを丸めてまた一枚おむつをパッケージから取り出して今度は先ほど下ろしたパンツの代わりに穿き始めた。状況が理解できない。ミアは昼間は大丈夫なはずだ。

 穿き終えると水色のスカートをめくってちょうどいまサクラが身につけているのと同じおむつを見せてくれる。

「・・・サクラちゃん落ち込んでるみたいだったし、だったらまだ私とおそろいだと思ったら気が楽になるかなーと思って。どう?似合ってる?」

 当たり前だがミアの歳で穿くものではない。少なくとも釣り合ってはいない。だが――

「似合ってる」

 サクラはミアに抱きついた。そして顔をミアの胸に沈める。そのまだ大きくないふくらみがサクラを受け止める。そしてすぐにサクラが泣き出してしまったことをミアは察し、サクラの頭をなで続ける。

 サクラの、たった一人の、大切なお姉ちゃんだ。この人には一生敵わないと思う。それでも彼女が許してくれるなら、自分のことを認めてくれるのならば――ずっと一緒にいたいと思った。


 †


 数分後、何とか落ち着いたサクラはミアと共に荷物をまとめ、ドラッグストアを出る。トイレをかなり長時間借りてしまったのがとにかく申し訳ない。その分いろいろ買っているのでよしとする。

 荷物がさらに増えたのでもう大丈夫なサクラも荷物を持つことになった。おむつのパッケージが三つ、それに昼と夜の分の食材。かなりの荷物だ。それを二人で分担して家まで運ぶ。

 新しいパンツタイプのおむつはテープタイプに比べてもこもこごわごわすることはなく歩きやすい。やはり普段つけるとしたらこっちだろう。そんなおむつを今はミアもつけている。――サクラに合わせて。ミアは優しさでサクラに合わせて穿いてくれたもので本来必要なものではない。いくら気を遣ってもらっているとはいえ申し訳なくなる。

「ん?どうかした?」

 不安な視線でミアを見続けていたせいだろう。ミアが声をかけてくれる。ミアはおむつの違和感を感じさせないしっかりとした歩きでおむつに慣れていることを実感させられる。

「・・・ごめんね、私に合わせてもらって」

「別に気にしなくていいのに。私だって少し前まではこうだったから。だから頑張ろ?」

「・・・うん」

「・・・にしても久しぶりだとさすがに歩きにくいかも。スカートでよかった」

 そう微笑むミア。彼女の笑みを見るとこっちまで暖かな気持ちになる。


 家までは尿意を催すこともなく、おむつを汚さずに済んだ。想像以上に大量に買い込むことになってしまったおむつを棚に補充しつつ、新たに横の棚を昼間のおむつ用に開け、そこにパンツタイプのおむつを入れていく。テープタイプのおむつは完全に一袋余ってしまったのでそれは押し入れの中に入れておく。ミア曰く、おむつのパッケージを見えるところに置いておくと使う頻度が高くなる気がするからパッケージから出して棚に入れておくのだとか。

 それにやはり恥ずかしいとのことだった。サクラもここ数時間でいかに恥ずかしいかがよくわかったので同意見だ。

 食材等も適当にしまいつつ洗濯や掃除など、基本的な仕事を片付けていく。家事があまり得意ではないことは昨日のうちにミアに見破られていたので誤魔化すこともできず。ミアも分かっているからこそできる仕事を振ってくれた。できないからと言って戦力外扱いをするのではなく、できる仕事を振ってもらえることがすごくうれしい。

「いいの?私迷惑かけるばっかりなのに手伝って」

「うん。だって最初からみんなできるわけじゃないし、ちょっとずつ経験を重ねてできるようになっていけばいいと私は思うから」

 そういいながらもミアの手は止まらない。この歳でどうやったらここまで悟ることができるのだろうか。見習いたいほどだ。

「そういえばトイレの方は大丈夫?結構時間経ってるけど」

「うん。それよりもミアの方は大丈夫?」

「私も大丈夫だよ」

 朝を除いて二人ともトイレには行っていない。サクラは先ほど街中で漏らしてしまい、おむつを交換した経緯があるので実質一回トイレに行っているようなものだがミアにはそれがない。ミアも昼間のおむつが取れているとはいえ、夜のおむつはまだ取れていない。そこまで膀胱の大きさは大きくないだろう。それなのに大丈夫なのだろうか。

 それ以上は聞くことはできなかった。ミアのためにも。考えるのを止め、渡された洗濯物をたたんでいく。

「これが終わったらご飯にしようか」

「うん。準備も手伝うよ」

「ありがと」

 渡された最後の服もたたみ終え、サクラと共に棚にしまっていく。これからは着替えたいときにどこにどのような服があるか分かる。

 ミアの服は基本的に明るいものが多く、特にスカートやワンピースが多い印象だった。これは昼間のおむつが取れてなかったときの名残なのだろうかというのも思いつつしまっていく。

「・・・そんなにじっと見て着てみたいのでもあった?」

「そういうわけじゃないんだけどね」

 さすがに不審がられたので慌てて誤魔化す。棚の扉を閉めてキッチンへと向かおうとする。

「あっだめ・・・」

 慌てて振り返るとミアがしゃがみ込んで股の部分を押さえていた。今にもこぼれそうな涙を浮かべ下を向いている。言われなくても今まで我慢していたのだろう。

 勢いよく放出されるおしっこの音。外観からはわからないが膨らんでいくおむつ。

「大丈夫?」

「・・・うん。私・・・我慢できなかった」

「私だってさっき失敗しちゃったもん。気にしないで。こういう日だってあるよ。おむつ替えよ?」

「・・・うん」

 サクラの手を引き風呂場へと向かう。

 やはり彼女は十二歳の少女なのだ。必死に努力して、一人暮らしをしていたとしても。歳の割にしっかりとしているというのは無理をしていたからだろう。

 たまには甘えられる人が必要だろう。そう自分がなれたらいいなと思った。

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