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サクラのかくしごと  作者: 華点
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1話 第4章 そとと、なか

「じゃあ行こうか」

「・・・うん」

 ミアは家の鍵を閉める。朝ごはんも食べ終わり、買い出しに出かけることになった。サクラになってからは二度目の外出だが最初の時とは状況が違いすぎる。ミアの優しさから比較的長めの丈のワンピースとなっているが今までズボンしかはいたことのない人間にスカートというのはなかなかの試練だ。絶対にめくれるわけにはいかないので必然的にずっと前を抑えているような形になる。

 それ以上に問題なのはワンピースの下に穿いている――おむつだった。テープタイプのおむつは基本的に立って歩きまわることを計算して作られていないため、歩きづらい。吸収体の幅も広く、少しがに股ある気になってしまう。それ以上に問題なのがおむつがワンピースとこすれてかさかさという音を立てることだった。おしりのふくらみとともにおむつがバレないか不安だった。

「大丈夫?ずっと前押さえてるけどもうトイレに行きたくなった?」

 ずっと前を抑えて歩いているサクラを心配してミアが声をかけてくれる。

「それは大丈夫なんだけど・・・ワンピース着るの初めてだから足元がすーすーして落ち着かなくて。おむつが見えるのは絶対に嫌だし」

「なるほど。じゃあ本当はちゃんとおむつの上に何か穿かせてあげればよかったね。黒パンとか」

「え?そういうのがあるの?」

「おむつ用というよりかは普通のパンツが見えないように穿くものだけどね。そこまで考えつかなかった」

 それを聞いた途端、ため息が出そうになった。家を出て今までの気苦労はちゃんと対策を取ればなかったのだと思うと嫌になってくる。それにちゃんとした対策グッズまで存在しているとは。

「・・・次から出歩くときはそれも貸してほしいんだけど」

「え?次もおむつ穿くの?」

「そうじゃなくて!普通にパンツの時も穿いたりするんでしょ?本当に落ち着かないからさ」

「覚えてたらね」

 全く何を言い出すのだろうか。今おむつを穿いているのはあくまでも万が一の時の保険であって常用しているわけではない。費用と精神的な面から考えて早くおむつを卒業したくなってくる。元はと言えばすでに卒業していたはずなのだが――どうしてこうなってしまったのだろうか。

 相変わらず前を抑えながらミアについて行くとたどり着いたのはドラッグストアだった。食材は傷みやすいので買い物の最後に買うのだろう。となるとここで買うものは決まっている。

「サクラも使うとすぐになくなっちゃうし、買い足さなきゃと思って」

 そういいながら向かったのはおむつコーナーだった。赤ちゃん向けだろう物から大人用まで対象に取り扱っている。元の世界にいたときもドラッグストアに母親等の付き添いで行ったことはあるがこんなにおむつの取り扱いは多くなかったような気がする。圧倒的に種類も多い。

「どんなのがいいとかある?」

「いや別に・・・」

「そうなんだ」

 おむつをつけるときに毎回横にならないといけないので正直テープタイプではない方が助かるのだが・・・漏れにくいなどのメリットを言われてしまうとテープから変えてとは言えない。

 数に圧倒され、何もわからずただサクラは立ち尽くす。そんなサクラをよそに慣れたように迷わず一つのパッケージをミアは手に取る。

「今使ってるのはこれなんだけど、どう?さくらちゃんが今つけてるのもこれなんだけど」

「どうって?特に何も思ってないけど」

「新しいパンツタイプのおむつで夜用のが出たんだけどどっちにしようかなーと思って」

「ぼ・・・私はどっちでもいいよ。確かにテープのおむつつけられるのは恥ずかしいけど漏れたりして迷惑かけるよりはいいし。それにパンツタイプの方が高いんでしょ?」

「若干、ね。あ、二人分になるのか。だったら結構変わるかも」

 冷静に考えてみれば当たり前のことだ。おむつの使用量が二人で二倍になっているのに単価を上げれば価格は二倍で収まらなくなる。そのことに気づいたのかミアはパンツタイプのおむつについて何も言わなくなった。

「二人分だし、二袋でいいよね。サクラちゃんも持って」

 そう言われておむつのパッケージを渡される。この世界の文字が読めないので何と書いてあるのかはさっぱりわからないが今穿いてあるのと同じおむつの絵が描かれており、ピンク色で女の子用なのがわかる。隣には水色の男の子用であろうものも売られている。残念ながら?二度と男物を着る機会はないと思うが。

 そのままレジへと向かい、すべてミアが支払う。お金もやはり始めて見るものだった。店員さんに外から見えないよう黒色の袋に入れてもらい、店を出る。

 持った記憶すらないおむつの袋。慣れない体と合わせて運びづらい。ミアはもう慣れているのか大変そうな様子もなく普通に運んでいる。

「この後は昼ご飯の買い出し?」

「うん。どうしたの?他に行きたいところでもあった?」

「ううん。聞いてみただけ」

 純粋に聞いてみただけだった。さすがにこの格好で長時間外を歩き回る自信はまだない。いずれ慣れるのかもしれないが今はまだ無理だ。

「そういえばトイレは大丈夫?」

「うん。まだ全然大丈夫」

「わかった」

 一瞬だけ心配そうな顔をしたがすぐに普段通りの優しい笑顔に戻り、前を向いて歩き始める。


 食材を買いにミアが到着したのは万能スーパーのような店だった。見たことのないものばかりでどれがどのような味がするのかなど非常に興味深い。当然調理法など分かるわけもなく買うものはすべてミア任せだ。ミアの判断で必要なものを買い込んでいく。それをもちろん二人で仲良く分けて

 食材の量もそれほど多くないはずなのだがその前に買った大きな荷物のせいで結果的にかなりの大荷物になってしまった。どれも生活には必要なものなので仕方がない。

「ミア・・・トイレに行きたい」

「ええ?」

 大荷物で身動きがとりにくい中、サクラは尿意を催す。ここから家までは多少距離があり、大荷物を抱えてすぐに帰ることのできる距離ではない。さすがに買い物もしないのに何かの店に寄るほどの覚悟もなく。近くの公衆トイレはどこだっただろうか。ミアは必死に思い出そうとする。だが商店街に公衆トイレは大量に設置してあるわけではなくまた、使った記憶もないので思い出せない。となるとやはり急いで家に戻るのが賢明だろう。

「・・・トイレ近くになさそうだし、家まで我慢できる?」

「・・・うん」

 今すぐ漏らしてしまうほどの尿意でもないのでミアの言う通り、急いで家に戻ることにする。もう用事は全て済ませたので帰っても一切問題ない。

 サクラの荷物のうち、大きな体積を占めて歩きにくくしていた原因のおむつの袋をミアが持ち、早歩きで家へと向かう。荷物が減った分歩きやすい。

 五分間ほど歩き続け、なんとかドラッグストア近くまで戻ってきた。だがそれと同時に尿意も増しており・・・

「ごめん・・・もう無理かも・・・」

 その直後急にサクラが立ち止まり前かがみになる。肩をわずかに震えさせ、頬は真っ赤に染まってしまっている。そんなサクラの姿を見てミアは慌ててサクラに駆け寄る。

「・・・ごめん。でちゃった」

「気にしなくていいよ。おむつしてたおかげで服も濡れてなさそうだし大丈夫。私こそすぐにトイレに連れてってあげられなくてごめんね」

 ミアはサクラのことを抱きしめる。水色のワンピース越しに膨らんだ温かいサクラのおむつを感じる。かなり頑張ったのだろう。泣きそうになっているサクラの頭をなでながら体を離し、ミアがすべての荷物を持つ。

「・・・あのさ、帰る前に寄りたいところがあるんだけどいい?」

「・・・うん」

「すぐにおむつ変えてあげるから気にしないで」

「・・・外であんまり言わないで」

「あ、そっか。ごめんごめん」

 サクラの手を取り、ミアは歩き始める。そして向かったのは先ほども来たドラッグストアだった。そのまま入店し、再びおむつコーナーへと向かう。

「・・・どういうこと?」

「今してるのって夜用でしょ?だから昼用を買いに来たの。サクラ用に。だから今度はパンツタイプでいいよ」

「え・・・」

「だって夜用って吸収力が高い代わりに値段も結構するから昼も同じのをするわけにもいかないでしょ?それに着られる服も限られるの嫌じゃない?」

「まあ・・・でも・・・」

「使わないなら使わないに越したことはないし、間に合わなかった時用にお願い!」

 そういわれると断るわけにもいかなかった。居候の身でこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。多少恥ずかしいのさえ我慢すればどうにかなる問題だ。「おむつをしなくても大丈夫だ」というのはおむつを濡らしている状態で言っても全く説得力がないだろう。

「・・・じゃあお願いしてもいい?迷惑かけるけど」

「うん。ありがと。また私が選んでもいい?」

「うん。私まだよくわかんないから。文字も読めないし」

「あ、そっか。全部私に任せて」

 そういうと大量にあるパッケージの中からまたまたピンク色のパッケージを持ってくる。表面に書いてある絵は先ほど買ったものよりも幼い気がする。昼のおむつも外れなくなってしまった自分が情けない。本来ならばこの描いてある幼い絵に何も感じない頃に卒業すべきものだ。

 濡らしたおむつも時間が経ちかなり冷たくなってきた。起きた時と同じ感覚。二度目の感覚。動いているせいか気持ち寝起きよりも冷たく感じる。

 その間にミアはさらに他のものも手に取り、レジに向かい、会計を済ませてドラッグストア内のトイレへと向かう。会計を済ませてしまえば何ら抵抗はない。

 個室に入り、ミアは鍵をかける。

「じゃ、交換するね。冷たいし気持ち悪いでしょ?」

「うん・・・」

「交換するからワンピース上にあげてて」

 そういわれるまま、自分のワンピースの裾をゆっくりと持ち上げていく――

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