ゾンビを殺していいですか?
ぼくの意思がどうかというよりも、芹沢さんは誰かにゾンビを殺すところを見せたいらしかった。
自分がどうしてこのような危険を犯してまでゾンビ殺しに手を染めるのか、その意味を伝えたいようだ。
ぼくはどうしても芹沢さんとデートをしたかったわけではないけれど、芹沢さんはデートの引き換え条件としてゾンビ殺しの現場を目撃することを要求した。
ゾンビを殺せば芹沢さんのなかにあるゾンビを殺すという衝動は一時的にやむので、街に出掛けることもできるそうだ。
ぼくには意見を言うような暇は与えられず、その日はすぐにやってきた。
芹沢さんはとくに狩場となる場所を決めてはいないけれども、ゾンビを探すときはまずは公園を訪れてみるという。
公園は身を隠すところが多いし、しばらくそこにいても不審には思われない。
ゾンビも公園が好きらしく、他の場所よりも発見する確率は高いという。
「世の中に受け入れられているとはいえ、ゾンビは異質な存在。一人になりたいと思うことも多いというわけよね」
実際、公園のベンチには一人のゾンビが座っていた。
顔はすでに判別できないほど崩れてはいたけれど、お年寄りだと思った。
服装がそんな感じだったし、背中は丸まっていた。なによりもベンチには杖が置かれていたから。
ここは高校近くにある公園で、それなりの規模がある。
近くにはスポーツ施設や図書館があって、夏にはお祭り会場となるなど街ではこの公園は公的な意味合いが大きくなっている。
とはいえ、平日の放課後の時間帯は比較的閑散としていて、人影はまばら。梅雨時というのもあるのかもしれない。
ゾンビは脆いので殺す方法はいくらでもあるらしいけれど、芹沢さんは常備しているナイフを多用するという。
首の辺りをサクッとやってもゾンビは痛いなんていわず、芹沢さんがその場を立ち去った辺りで倒れることが多いという。
「ちょうど周りに誰もいないみたいだし、さっさと済ませましょうか」
ゾンビはさっきから動かない。死んでいるんじゃないかっていうくらいに。
顔を上げているから意識があることは間違いないようだけれど、遠くから見ていると置物のようにも見える。
「高木くんはしっかり横を歩いてちょうだい。あくまでも普通の恋人が公園を散策しているふうを装うのよ」
「露骨に殺すことはしないんだね」
「それが芸術というものよ」
ぼくは芹沢さんがナイフを持っていないほうに立ち、芹沢さんの歩幅に合わせて歩き出す。
周囲に人影がないことを確認しながらベンチに近づいていく。
ゾンビの前を通りすぎるときも一切止まることはせずに、その場を通りすぎる。
しばらく歩いて振り向いたとき、ベンチに座っているゾンビはまだそのままだった。
変化が起こったのは何度か瞬きを繰り返したあとで、ゆっくりと眠るようにベンチに体を横たえたゾンビはやっぱり、人のそれとは違っているように思えた。
なんというか一種の芸術品という感じがして、本来なら感じるべき恐怖は一切沸いてこなかった。
芹沢さんはちらりと後方を見ただけで、なんでもないような顔をして歩いている。
ぼくたちは恋人らしさをアピールするために手を繋いでいたけれど、その手にはちっとも汗は滲んでいなかった。




