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デートに誘っていいですか?

「今度、デートとかしてみない?」

「え?」


ぼくと芹沢さんは彼氏と彼女という間柄なので今度デートしようよと誘うのはそんなに無茶苦茶な要求というわけでもないのに、芹沢さんはかなりぎょっとした顔をしていた。


表情があまり変わらない芹沢さんだからぼくは「芹沢さんもそんな顔をするんだね」と言うと、すぐに元に戻ったけれど。


「小学生じゃないんだから、通学路だけの関係ってどうなのかなと思って」


これまでにぼくたちは二人だけでどこかに出かけた、というのがない。

いまみたいに自宅と学校の往復の間に話すだけ。

まだ付き合って一月も経っていないというのもあるけれど、芹沢さんは普通の女子みたいに買い物なんかにはあまり興味がなさそうだった。


「なにか理由があるの?」

「理由っていうか、恋人同士ならそれが普通なんじゃないかな」


告白をしてきたのは芹沢さんのほうなのに、まるでぼくが強引に誘っているような感じになっている。

通学路の往復だけじゃ友達と変わらないし、そろそろデートでもしようかと考えるのもごく当然の発想だと思ったのだけれど。


「わたし、街のほうにはあまり行きたくないの」

「どうして?」

「だってゾンビに出会ったら殺したいって思ってしまうでしょ」


ゾンビは街に溶け込んでいる。

買い物をしていても誰も不思議がらない。


わざわざ写真に撮らなくてもいいくらいに普遍的な存在になっている。

人の多いところに行けば必然的にゾンビの遭遇率は上がることは間違いない。


「それだと就職したときとか困らない?社会人になったら学生とは違っていろんな人と触れ合わないといけなくなるよね」

「安心して。ゾンビハンターは学生の特権だと思ってるから、いつまでも続けるつもりはないの。つまりここ数年間がこの国の未来を左右するというわけ」


芹沢さんはそう言うけれど、そう簡単に割り切れるものなのだろうか。

一度はまったら抜け出せそうもないような気もする、ゾンビ殺しは。



「芹沢さんは普段、どんなところでゾンビを殺してるの?」

「とくに決めてないわ。監視カメラとかは気にするけど。人通りの多いところでも殺したことあるし」


女子高生の移動できる範囲なんて限られている。

それでも芹沢さんが捕まらないのは、警察がいまだにゾンビ殺しを軽く見ている部分があるからだとは思う。


警察としてはむしろ、ゾンビを殺してくれる存在があることを歓迎しているのかもしれない。ゾンビ関係のもめ事も少なくはないから。


「よかったら、見てみる?」

「なにを?」

「わたしがゾンビを殺すところ」

「どうして?」

「高木くんはもっと、死というものに鈍感になったほうがいいと思うのよね」


芹沢さんはぼくのことを心配しているという。

ぼくが本当に佐々木先生に自殺をしろと宣告することができるのかということをだ。


誰かの命を間接的とはいえ奪うということは例えゾンビ相手でも悩ましいこと。

その躊躇いを吹っ切るためにも一度死ぬところを目撃してもいいのではないのかという提案。


「そうすれば佐々木先生が本格的にゾンビ化したときに一気に行けると思うのよね」


すでに芹沢さんのなかではぼくが佐々木先生に自殺宣告をすることは決定しているらしい。

不思議とそれを真っ向から否定することはできない。


「ゾンビって死ぬときどんな感じなの?」

「なにもないわね」

「なにもない?」

「全体的に鈍いのよ。まともな抵抗はしてこないし、悲鳴をあげることもない。地面に倒れるときだってぐちゃっていうよりもふさって感じなのよ」

「ふさっ?」

「そう。アスファルトが優しく受け止めてくれるみたいに。人はゾンビとなった時点で無機物の仲間入りをしているのかもしれない」


芹沢さんはぼくのことを考えてそんなことを言ってくれているのだろうけれど、ゾンビが死ぬところも芹沢さんがゾンビを殺すところもぼくはできることなら見たくはない。


ぼくはゾンビが嫌いだけれど、ゾンビに殺意を抱いているというよりは、なるべくそれを視界から外しておきたいという感じだし。


「一度目撃してみればわかるわよ。高木くんはこれまでにゾンビが死ぬところを見たことはないんでしょ」

「うん」

「なら、決まりね」


芹沢さんは反論を許さないとでも言うように、キッパリと言い切った。

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