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吸血鬼でもいいですか?

千花ちゃんが夕御飯をひとりで食べることは珍しくない。

今日もそうだった。ノックをしても返事がないのもいつものこと。


入るよと大きめの声で言いながらドアを開けると、ヘッドフォンをつけた横顔が目に入る。その正面には大きめのテレビ。コントロールを握る手は絶えず動いている。


「食器、持っていくね」


千花ちゃんの前に置かれたテーブルには空になった食器。トレイに乗せられたままなので、持ち運びは楽。


「あー、また負けた!」


千花ちゃんはそんな声を上げると、コントローラーを床に投げ捨てた。こんな光景、ぼくは何度も見ている。


「そんな乱暴に扱ったらすぐに壊れちゃうんじゃない?」


ヘッドフォンを取り外した千花ちゃんに、ぼくは改めて声をかけた。


「大丈夫だよ、お兄ちゃん。頑丈なやつ買ってるから」


千花ちゃんは遥さんのいわゆる連れ子で、ぼくの妹に当たる。

まだ中学生の女の子だけれど、あまりファッションなんかには興味がないらしくて、ゲームをしているときは大抵ジャージ姿。髪も自宅ではボサボサにしている。


「これって本当に楽しいの?」


ぼくはあまりゲームのことには詳しくない。

千花ちゃんがよくやっているのは対戦型のゲームで、世界中の人を相手に武器を使って殺しあっている。それくらいアバウトな知識しかない。


実際にプレイしているところを何度も見たことがあるのだけれど、なにが面白いのかもよくわからなかった。同じことの繰り返しが続くだけで、達成感があるように思えなかった。


「お兄ちゃんもやってみる?自分で試してみないとわかんないんじゃない?」


千花ちゃんはコントローラーを拾い上げてぼくのほうに差し出すようにする。


「遠慮しておくよ。どうせすぐにやられると思うから」

「最初はみんなそうだよ。だからこそ、少しずつ上達するのが楽しいんだよ。攻略法もあたしが教えてあげるからさ」


こんなふうにゲームに誘ってくれたりするから、ぼくはあまり千花ちゃんとの間に壁は感じない。一緒に暮らすようになってそんなには経っていないのだけれど、元々の兄妹みたいに気軽に話すことができる。


「そんなにゲームばっかりやってると、遥さんに怒られるよ」

「仕方ないじゃん。こっちにきてまだ日が浅いんだし」


千花ちゃんは遥さんの結婚によってこちらへと引っ越してきた。それに伴って転校も。友達と離ればなれになった不安からゲームに逃げ込む気持ちはよくわかる。


「あ、でも、いじめとかは受けてないから安心してよ。あんま友達とかはいないけどね」


気丈に振る舞っているように見えなくもない。千花ちゃんはいつも明るいけれど、学校ではそうではないのかもしれない。


「思いきって同級生を家に呼んでみたら?家だとゲームとかできないって子もいるよね」


千花ちゃんは通っているのはいわゆる進学校で、この辺りでは一番偏差値が高い。千花ちゃんは元々頭が良くて、こっちに来るまでは勉強ばかりしていたそう。


「誰でもいいの?」

「別に構わないけど」

「男子でも?」

「え?」

「男子を家に呼んだら、お兄ちゃんは嫉妬するかな?」


千花ちゃんはソファーから立ち上がって、ぼくに近づいてきた。

ぼくを挑発でもするかのような笑みを浮かべている。

千花ちゃんが同級生の男子を連れてきたとしても、ぼくにとってはなんの問題もないし、嫉妬をする理由もない。


「冗談だよ。男子なんて家に呼ばないよ。だって」


そう言いながら、ぼくのほうに腕を伸ばしてくる千花ちゃん。ぼくが後ろに下がろうとしたのは千花ちゃんに抱きつかれた後のことだった。


「そんなことをしたら大変なことになっちゃうから」

「大変なこと?」

「近くに異性がいると、血を吸いたくなっちゃうから」


耳元でささやかれた言葉。

チヲスイタイ。

血を、吸う。確かに千花ちゃんはそう言った。


「ごめんね、お兄ちゃん。あたし、実は吸血鬼になっちゃんったんだ」

「……え?」

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