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新しい家族でいいですか?

ぼくとお父さんの関係は以前よりもずっとよくなった。

前までは妙な緊張感が家の中に漂っていたけれど、いまではすっかり和らいでいる。


お父さんが再婚してぼくに新しいお母さんが出来たのはいまから一年ほど前のことだった。

新しいお母さんの名前は遥といって、三十を過ぎたばかりのふんわりとした柔らかい雰囲気のある女性だった。


お父さんが遥さんをぼくに紹介したときはすでに結婚の話は出ていて、ぼくとしても遥さんに悪い印象は持たなかったから話はトントン拍子に進んだ。


実際に遥さんはいい人で、母親としても文句のつけようがなかった。

料理は上手だし、その他の家事だって怠らない。遥さんもかつては結婚していたので、その辺のことにはだいぶ慣れているらしい。


ただひとつ困ったことがあるのは前の奥さんのこと、つまりぼくを産んだお母さんについてたまに知りたがることだ。


どうやらお父さんからはすでに亡くなっているくらいの情報しか得ていないようで、ぼくの本当のお母さんがどんな人で、どういう亡くなり方をしたのか、そんなことをたまに質問してくる。


そういうときはぼくは必ず「お父さんに聞いたほうがいいよ」と曖昧に誤魔化すのだけれど、実際によくわからないという部分も現実にはある。


ぼくにはお母さんの記憶というものが一切ない。

それも当然のことで、ぼくを産んだときのぼくのお母さんは亡くなったからだ。


新しい命をお腹に宿したと知ったとき、お母さんはすでにゾンビになりかけていた。


ゾンビとしての出産というのは必ずと言っていいほど失敗するので医者からはさっさと堕胎したほうがいいと言われたらしいけれど、お母さんはぼくを産むことを決意した。


ゾンビとして死ぬ前にこの世界になにか自分の欠片のようなものを残したいと願ったそうで、無理だ諦めろと周囲から繰り返し言われても中絶はせずに自分の命と引き換えにぼくをこの世に送り出した。


周囲の心配をよそに、ぼくの体に悪いところは見当たらなかった。


ある意味ではぼくは奇跡の子という風になったのだけれど、お父さんにとっては納得のいかない部分もあって、お母さんが死んだ原因でもあるぼくのことを素直に受け入れることはできなかった。


お母さんはゾンビになっていたのだからぼくを産もうと産むまいと遅かれ早かれ死んだのだけれど、ぼくを産みさえしなければもう少し長く生きられたことは確実だし、その短い期間が必ずしも無意味とも言い切れないからお父さんの気持ちもわからなくはない。


お父さんはそれだけお母さんが好きだったということは、ぼくにとっても誇らしい部分があることも否定できない。


ぼくのなかにはゾンビアレルギーみたいなものがあって、それはもしかするとこういった出産の経緯があるからかもしれない。


ぼくはゾンビから産まれたわけだから幼い頃からゾンビの意識みたいなものが頭のどこかにあって、同族嫌悪みたいなものが生まれたのかもしれないし、お父さんからはとくに幼い頃にお前もいずれゾンビになる、と言われ続けたことへの反発も影響しているのかもしれない。


そんなぼくだから佐々木先生に死ねと言えるのだろうか。

ゾンビへの抵抗感があるからこそ、人の死に向き合えるのだろうか。


そんな背景が芹沢さんと付き合うきっかけを作り、担任の女性教師を自殺へと導く。そのような運命なのだろうか。


ゾンビとして死ぬことを受け入れている他の人たち大勢とは違ってぼくはゾンビに違和感を抱き、他人ならともかく身近な人間ならそのままゾンビになることを見過ごせない性質を抱えている。佐々木先生とぼくの距離は芹沢さんの発言でぐっと近づいたようにも思えた。


「優太くん、どうかした?さっきから難しい顔をしてるけど」


新しいお母さんである遥さんはに話しかけられると、ぼくはつい学校で起こったことを話したい衝動にかられる。

でもこれはだめだ。出生のあれこれについても語らなくてはいけなくなるし、食事中の親に相談をするべきようなことでもない。


「今日の食事、口に合わなかった?」


お父さんが再婚してからの食事は賑やかなものとなっている。

遥さんが加わったことで会話が生まれ、淡々とご飯を口に運ぶような時間は終わった。


遥さんは女性らしくお喋りが好きで、毎日のようにぼくに話を振ってくる。この日の夕食もそう。ぼくのことを観察してるから、微妙な変化にも気づけている。


「優太は好き嫌いがないから、具合でも悪いんじゃないか」


こんなふうにお父さんがぼくの体のことを心配してくれるようになったのも遥さんのおかげだ。

いまのお父さんはお酒を飲んで上機嫌で、酔って怒鳴り散らすこともなくなった。


「もしかして、好きな人ができた?」


遥さんが冗談っぽく言うということは、いまのぼくからはそんな気配が感じられないということだろうか。


確かに芹沢さんとの交際は普通のそれとは違うような気がする。ぼくたちはまだ恋人といえるような段階ではなく、好奇心が先行した関係でしかないのかもしれない。


ここで「うん、そうだよ、彼女ができたんだ」と認めればより一層関係は良好になるのかもしれない。男女問わず恋の話は盛り上がる。


それでもぼくはなにも言わなかった。遥さんの手料理を黙々と食べ続けた。

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