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エピローグ

ぼくーー高木優太は目覚めるとき、いつも不安に襲われる。

気づいたらまた別人になっているのではないか、そんな恐怖にかられてしまう。 


顔を洗うとき、洗面所の鏡をじっと見つめてしまう。

そこにあるのは見慣れた顔でほっとするのだけれど、これが毎日のように続く精神的な負担はかなりのものだった。


それでも、両親や妹の千花ちゃんの顔を見るとほっとする。

何気ない時間がとても貴重なものだと実感する。


死神の監視下に置かれていた千花ちゃんもすでに解放されている。真祖に血が吸われたことで、普通の人間に戻ったようだった。


そんなメカニズムは誰も把握はしていなかったらしいのだけれど、ついこの前まで血ばかりを求めていたのに、いまは朝食を元気に食べているのだからそれ以外には考えられない。


肝心のぼくはというと、正直いまのところはわからない。

ぼくは元々変異吸血鬼で、一度真祖に取り込まれ、そこから真祖の体を乗っ取ったという形になっている。


でも、ぼくには真祖らしさどころか、吸血鬼としての欲望も感じてはいない。


これは完全にコントロールが出来ている、ということなのだろうか。

吸血鬼としての力はまだ使えるので、普通の人間に戻ったわけではないようなのだけれど。


とにかく、周囲に危害を加えるような状態でないぼくは学生として再スタートを切ることになった。


ぼくは今日、久しぶりに登校する。

失踪扱いになっていたので、いろいろと調整が大変だったようだ。


その辺りは死神の組織がなんとかしてくれたようだけれど、一年ぶりくらいの学校はやっぱり緊張する。

夏休み前の一日、要するに今日は終業式なのですぐに帰れはするのだけれど。


支度を終えて自宅を出ると、家の前には誰かが立っていた。同じ高校の女子であることはすぐにわかったので「芹沢さん」と声をかけたら、まったくの別人だった。


「高木優太くん、だよね」

「そうだけど」

「わたし、安藤真依。莉子ちゃんの親友なんだけど」 


そういえばそんな名前を芹沢さんから聞いたことがある、とぼくは思った。

ぼくが真祖に取り込まれている間に親しくなった同級生がひとりだけいて、それが安藤真依という人だったはず。


「少しお話ししたいんだけど、いいかな」

「別に構わないけど」


芹沢さんの自宅はうちよりも学校に近いので、ここで待つ必要はない。ぼくは安藤さんと並んで歩き出した。


安藤さんはぼくに聞きたいことがあるわけではなくて、一方的に自分のことを話していた。


彼女自身の過去、ぼくがいなかったこの一年に何が起こったのか。

あの件についても結構細かく。芹沢さんから聞いたものもあれば知らないこともあり、ぼくは純粋に興味を引かれた。


なぜぼくにそんな話をするのだろうという疑問はあったのだけれど、口を挟むことはしなかった。

一通り話終えると、安藤さんはふいに立ち止まった。


「わたし、不安だったの」

「不安?」

「高木くんが復帰したら、莉子ちゃんをとられるんじゃないかって」


安藤さんは遠くの方をみつめている。

そこには芹沢さんが立っている。いつもの待ち合わせ場所でぼくのことを待っている。


「だって、莉子ちゃんが高木くんのことを話すとき、とっても眩しそうな笑顔を見せるから」


安藤さんはわかってない。そういう表情を見せることそのものが、信頼の証だということを。いや、わかっていないのはぼくも同じかも。

だって似たような感情を抱いたことがあるから。


「……それはぼくも同じだよ」

「え?」

「芹沢さんが安藤さんのことを話すとき、他の人とは違う暖かさみたいなのを感じるんだ。それを聞いていると、相手が女性だってわかっていても嫉妬みたいな感情を感じるんだよ」


ぼくたちはそれが悪いと思っているわけじゃない。

恋人と親友がいる芹沢さん魅力的に感じている。

それまでとは違う関係性を築いているだけで、それが前よりもきっと良いものになることを信じている。


ぼくたちは歩き出す。芹沢さんの姿が近づいてる。

不可解そうな顔を芹沢さんしている。

ぼくたちの関係を疑っているのかもしれない。

ぼくと安藤さんはまだ友達と言えるようなレベルでもない。


そんな説明をしなくてもきっとわかる。

だってぼくと安藤さんは芹沢さんを通して繋がっているのだから。

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