遊園地に行ってもいいですか?
弘人は間違いなく三人でのデートと言った。
莉子と真依を含めた三人。
莉子にとっての初めてのデートなら、自分が少しくらい犠牲になってもいいという覚悟が真依にはあった。
しかし、待ち合わせの駅前に到着してみると、そこにはすでに三人。見知らぬ男子がいて、親しそうに弘人と会話をしている。
「はじめまして。ぼく、倉田透って言います」
真依が近づくと、その見知らぬ男子が挨拶をしてくる。
聞けば同じ学校に通う下級生だという。真依は顔も名前も知らなかった。
「やっぱり三人だとなにかと不自然だろ。だから昔からの知り合いを呼んだんだ」
「先輩からお願いされたんです。盛り上げ役を頼むぞって」
弘人にとっては少しでも莉子との時間を増やしたいのだろうな、と真依は思った。流れで自分の参加を認めざるを得なかったのだろうけれど、本音としては二人だけのデートを希望していたはず。
まあ、二人だけの時間を邪魔するつもりは最初からなかったので、これはこれで構わないのだけれど、ダブルデートみたいになるのはちょっと照れ臭い。
しかも相手は見知らぬ男子。ある程度の会話も覚悟をしなければならない。親友のデートよりも自分の振る舞いに不安になる真依だった。
目的地は地元にある遊園地。
これは莉子からの提案。行き先を話し合っているとき、どうしても行ってみたい、と莉子は繰り返していた。
それは真依にとっては意外なものだった。
これまで真依が休日にどこか遊びに出掛けようと誘っても、莉子が選ぶのは近場ばかり。
まだ事件の後遺症が残っているのか、無理に遠出はしたくないようだった。
なにか思い入れがあるのかも、と真依は思った。例えば遊園地に誰かと行ったことがあるとか。もしかしてあの高木という男子?
記憶が戻りつつあるとか?
どうであるにせよ、莉子の願望は叶えたかった。
電車を使えば比較的簡単に行き来はできる。
とはいえ、休日だとやはり混んでいる。
その多くが遊園地に向かうお客さん。
どのアトラクションから回ろうとか楽しそうな会話が聞こえるなか、莉子の表情は晴れやかとは言いがたかった。
自分から望んだ場所にいくようには見えなかった。さっきから俯いていて、無理やり連れてこられたという感じすらした。
「どうしたの、莉子。あんまり楽しそうじゃなさそうたけど」
「え、そう見える?」
「うん。病気とかじゃないよね」
「なにか、さっきから胸がザワザワするの」
莉子は自分の胸を押さえて言った。
「緊張してるんじゃない?一応、初めてのデートなんでしょ」
「……そうかな」
「きっとそうだよ。みんなが通過する儀式みたいなものだよ」
実際に遊園地についたら、その気持ちも変わるのかもしれない。アトラクションに乗ってワーキャー騒げば、暗い過去すら洗い流せるのかもしれない……。
遊園地の名前を冠した駅に電車が止まり、ぞろぞろと乗客が降りていく。
遊園地までは徒歩で十分も歩けばたどり着くので、そのままの行列がほぼ同じ方向に進んでいく。
事前に打ち合わせなどはしていなかったので、まずはそれぞれどのアトラクションから楽しみたいかを聞いた。
莉子はよくわからないといい、真依はなんでも構わないと答え、弘人はみんなに任せると言った。
「あ、じゃあ先輩方、ぼくに決めさせてくださいよ。ここはもう何度も来てるんで」
透が先導する形で四人はアトラクションを回った。
何度もここを訪れているとあって、透はアトラクションの待ち時間にも精通していた。休日ならどういう順番で回るのがいいのか、それを熟知していた。
「列の長さがすべてじゃないんですよね。たくさん並んでいても、すいすい行くところもあるんですよ」
確かに透の言うように四人はスムーズにアトラクションを楽しむことができた。
いや、楽しんでいるかどうかは定かではなかった。莉子の表情がやはり、ずっと冴えないからだ。
「ねぇ、莉子。やっぱりどこか悪いんじゃない?」
絶叫系のアトラクションでも叫ばす、可愛らしいキャラクターが近づいてきても無視。
最初は賑やかな場所に慣れていないだけなのかと思ったら、どんどんと顔色は悪化しているように見える。
ちょうど昼食の時間帯だったので、遊園地に併設されているレストランに四人で行くことにした。
その途中。
「莉子!」
がくっ、と崩れるようにして莉子が倒れた。