ゾンビになりかけてもいいですか?3
遊園地で遊んだことがぼくにはない。
アトラクションなんかの映像を見ても、興味を持つことはできなかった。
地元にあるといってもそれなりに電車に乗らないといけないし、しばらくお父さんと二人だけの生活だったからそんなところにいこうとする気も起きなかった。
園内は思った以上に賑やかで、気を付けないとすれ違う人ともぶつかりそうなくらいだった。
アトラクションの待ち時間もあって、乗り物で楽しむというよりは行列に並んでいるほうが長かった。
芹沢さんと一緒に園内を歩き、いろんな乗り物に乗り、レストランでご飯を食べた。周囲にはどこにでもいる学生の恋人同士に見えたはず。
芹沢さんには感謝を伝えたい。
ぼくにもこうして普通の青春が遅れていることに。
もうすぐぼくは死んでしまうけれど、最後に学生の当たり前を知ることができた。
芹沢さんのためだったのが、いまではぼくのためのデートになっている。
芹沢さんと別れて自宅への道を歩いているとき、ぼくはふいにめまいを感じて立ち止まった。
ゾンビになりつつあるからなのか、体力は完全に落ちている。
遊園地には開園直後に入り、夕方になるまで遊んだ。ちょっとした遠足という感じで、電車で座席から立ち上がったときにはとくに疲労感を感じた。
「ちょっと休もうか」
ひとりでそう呟いたとき、前の方から誰かが歩いてくることに気づいた。どこにでもいそうな若い男性で、右手にはなにかを持っている。
それがナイフだと気づいたとき、ぼくはすぐに佐伯くんの言葉を思い出した。
ーー最近、通り魔が多く発生しているって。
ぼくはボンヤリと思った。
ああ、この人が噂の通り魔なんだって。そしてぼくのことをターゲットに狙っているって。
逃げる?そんな体力はない。それにどうせあとわずかの命。いまさら慌ててどうするというのだろう。
男性が近づいてくる。周りには誰もいない。
声をあげたところで助かる見込みなんてない。男性の目は向こうを見ているけれど、ナイフの切っ先はこちらに向いている。
ナイフからは殺意があふれでているような感じがした。
ぼくは恐怖は感じなかった。思ったのはただ、芹沢さんへの感謝の気持ちだった。
ぐさり、という音が聞こえたわけではないけれど、ぼくの頭にはあの日、公園でゾンビを殺したときの映像が頭に浮かんでいた。