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国東零音は褒められたい  作者: KanaMe
19/32

第18話 涙 

今回はすごく短いです…。

ちょっと色々と多忙だったので…。

【国東家】【リビング】


 18時18分。対面に座るお父さんと私の間に流れる空気はいつも以上に重たい。奏さんは台所からこちらを見ていてくれるものの、近づく様子はなかった。それもそうだろう。これは私とお父さん…。国東家の問題だからだ。


「零音。先日僕に武本先生から連絡が入ってね…。君が部活動に一時的にだが参加できないようにしているとね。それは本当かい?」

「…はい。」

「ではその理由も…。」


 お父さんは武本先生から伝えられた経緯を話す。何一つ訂正する箇所はなく、私はただ頷くのだった。


「そうか…。」


 お父さんは腕を組むと眉間に皺を寄せながら黙り込む。再び沈黙が訪れた。ふと台所に目をやると、先ほどまでそこにいた奏さんの姿は無くなっていた。




【国東家】【玄関】


 18時25分。事の経緯をお母さんから聞いた私は、リビングのドアのガラス越しに中の様子を窺う。ステンドグラス風のガラスからはほとんどリビングの中は見えない。辛うじて食卓に零音ちゃんと弦さんが座っているだろうことは確認できた。


「ねぇお母さん。弦さんは…怒ってるの?」

「どうなのかしら…。難しい表情だったけれど…。今のところ怒鳴ったりはしていないわ。」


 武本先生から伝えられたことは二つ。一つは部活動参加停止の件。もう一つは…。


「もしかしたら零音ちゃん…。柔道をやめることになるかもしれないわね…。」

「そんな!」

「もちろん強制はしないと思うわ。だけど無理をして続ける理由はないでしょう?勉強の方だって遅れてきているようだし…。」


 もう一つの件は零音ちゃんの成績に関するものだった。今まではスポーツ推薦と言うこともあり、あまり問題視されていなかったようだけど、零音ちゃんの現状を鑑み、成績に関しての注意が学校から武本先生を通して弦さんに伝わったそうだ。


「…零音ちゃんは続けたいんじゃないかな。」

「…どうして?」

「だって…。あんなに頑張ってたんだよ?確かに今はちょっと問題があって部活には参加できていないけど…。でも今だって必死に頑張っているんだ。」

「彩音…。あなた何か知っているの?」


 私は零音ちゃんが抱えている問題と、その問題を解決するために今たくさんの人が協力していること。そして零音ちゃん自身も変わるために歩き出そうとしていることを伝えた。


「そう…。そんなことになっていたのね。」

「お母さん…。私、零音ちゃんに柔道を続けさせてあげてほしい。」

「そうねぇ…。でも肝心の零音ちゃんはどう思っているのかしら。」

「…え?」

「零音ちゃんは柔道を続けたいのかしら…。」

「それは…。」


 分からない。南戸家でお世話になってから今日にいたるまで、結局零音ちゃんが柔道を続ける理由はまだ不明であった。


「お母さんたちには零音ちゃんが無理して柔道を続けているように見えちゃうのよ。」

「…だけど。…でも!」


 言葉がのどの奥に詰まって出てこない。


「彩音。あなたの気持ちも分かるわ。だけど、一番大切なのは零音ちゃんの気持ちよね?」

「…うん。」

「これは私たちが決めることではなくて、零音ちゃんが自分で決めなきゃいけないことだと思うの。」

「そう…だね。」

「ここは弦さんと零音ちゃんの話し合いに委ねましょう。」


 私は返事を返す事が出来なかった。一番大切なのは零音ちゃんの気持ち。分かっている。だけれど納得できない。零音ちゃんは全力を出す事が怖いと言った。そんな彼女から柔道を取り上げることが本当に正解なのだろうか。大好きだった柔道を取り戻そうと頑張ることは間違いなのだろうか。嚙みしめた唇の痛みで少しだけ冷静になった頭の中で、楓さんの言葉が蘇った。


(あなたにとっての正解が、相手にとっての不正解。そういう事もよくあるって事をね)


 やはり私が間違っているのだろうか。零音ちゃんは柔道を続けたくはないのだろうか。南戸家の皆や冴子、美琴がやってきたことは全部迷惑だったのだろうか。零音ちゃんは柔道を辞めたいのだろうか。


「そんな事…。ある訳ない…!」

「彩音!?」


 私は呟くと勢いよくリビングのドアを開いた。




【国東家】【リビング】


 驚いた表情の弦さんと目が合う。


「彩音さん…?」

「ご、ごめんなさい。弦さん。ほら彩音。今は二人だけに…。」


 お母さんが慌ててドアを閉めようとする。けれど私はドアに手をかけてそれを止めた。


「ちょっと彩音。手をどけて!」

「嫌だ!」

「彩音…。どうして…。」

「奏。構わないから。彩音さん。零音の隣においで。」


 弦さんに言われて私は零音ちゃんの隣に座った。お母さんはと言うと心配そうにこちらを見ていたが、私が席に着くと台所へ向かい、姿を見せなくなった。弦さんは少し機嫌が悪そうな顔つきで腕を組んでいる。私がリビングに突入してから隣に座るまでの間、零音ちゃんは下を向いて沈黙を守っていた。


「さて…。零音。そろそろどうしたいか教えてくれないか。」

「…。」


 零音ちゃんは相変わらず下を向き、無言のままだ。おそらく先程からこの状況が続いているのだろう。返事をもらえぬままでいた弦さんは「はぁ。」とため息を吐くと零音ちゃんへ視線を再び向けて話し始めた。


「なぁ零音。もう…柔道を辞めてもいいんじゃないか。」


 一瞬ビクッと零音ちゃんは反応したが、再び沈黙する。構わずに弦さんは続けた。


「中学に入る時も聞いたよな。本当に柔道を続けるのか?って。だけど、あの時もお前は何も言わなかったな。」

「…。」

「お父さんな。武本先生に教えてもらって内緒で何度か試合を見に行ったんだ。零音。お前は勝っても負けてもいつも表情を崩さなかったな。」

「…。」

「なぁ…。柔道をやってて楽しいか?」

「…。」

「もっと他に出来ることがあるんじゃないのか?友達はいるのか?勉強だってついていけてないんじゃないのか?他にも…。」


 零音ちゃんは何も答えない。ただただ弦さんの言葉だけが宙を漂っていた。そんなやり取りがもう何分続いただろう。窓ガラスから見える外の景色は既に黒一色であった。


()()()()()。」


 そう呟いた弦さんの視線は、零音ちゃんと同じく下を向いていた。


「零音。柔道…辞めないか。」


 呟くようにいった弦さん。零音ちゃんはようやく顔を上げると、とても悲しそうな顔で弦さんを見ていた。小刻みに震えながらも少しずつ開かれる唇。零音ちゃんの口から肯定の言葉が出掛かった時、私は自分でも驚くほど大きな声で叫んだのだった。


「待って!」


 零音ちゃんは再びビクッと身体を強張らせて、沈黙する。弦さんも驚いた表情ででこちらへ視線を向けた

 。


「本当にそれでいいの…?」


 零音ちゃんは何も答えない。ただいつものように虚空を見つめている。だけど、私にはどうしても零音ちゃんが柔道を辞めることが根本的な解決になるとは思わなかった。だって…。


(あんなにいっぱい練習して…。迷い続けていたけど…。それでも歩むことを辞めなかった。)


 答えてくれないかもしれない。だけど、私は踏み出す。零音ちゃんとの壁を超えるための一歩を。


「答えて…。()()。」


 震えた私の声に反応し、ゆっくりと零音は視線をこちらへと向けた。


「柔道…辞めていいの?」

「…ぃゃ。」


 それは小さな声だった。だけれど、初めて聞く零音の心の声。やっと聞けた彼女の声に、私は微笑みを返す。


「お義父(とう)さん。…。」

「彩音さん…。」

「零音に柔道を続けさせてあげてください。」


 私は深く頭を下げた。よほど驚いたのだろう、弦さんは慌てて立ち上がる。


「し、しかし…。」

「お義父(とう)さんだって零音がずっと頑張っていたことは知っているでしょう?」

「それは…。その通りだが…。」

「勉強なら私が教えます。だから…。お願いします。柔道を続けさせてあげてください。」


 少しの間沈黙が訪れる。心臓の音だけがバクバクと私の身体の中で反響していた。


「…零音。武本先生から聞いたが、来週の土曜日にこの前の実力テストの再試験があるんだろ?」

「…はい。」

「それで全教科合格点を取る事。出来るか?」

「…はい。」

「分かった。分かったから…。顔を上げてくれないか。彩音さん。」


 気が付けば私は食卓の上に数滴の涙を溢していたのだった。

今回短かった分次回は1万文字超えそうです()

本当は今回で書きたかった分も次回一気に書くので…。

物語はそろそろ終盤です。

次回もまたよろしくお願いします。

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