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国東零音は褒められたい  作者: KanaMe
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第09話 変化

今回は新キャラ登場回です。

よろしくお願いします。

 

【琴ノ葉学園】【3-A教室】


 12時44分。午前中の授業を終え、お昼休みが始まった。私は、唯と机を合わせ七海が来るのを待っている。普段は、お昼休みが始まるとすぐに七海は私たちの席へ来る。だけれど今日はまだ来ない。いつもならもうとっくに来ている頃なのに。


「あーもうマジムカつく。」

「まだ言ってるの?」

「だってさ、たった1ページ丸付け忘れてただけで、呼び出して説教とかマジあり得ない。ホントあいつの神経質なところ嫌い!」


 昨日言われた通り、唯に朝一で石井先生のところへ行くように、昨晩のうちに連絡を入れておいた。どうやら課題の不備とは、答え合わせを忘れていた事らしく、唯は朝一番からお説教を受け、現在に至るまで御覧の通りご機嫌斜めなのであった。


「授業中も、テスト返却も、毎回毎回私に対して当たりきついんだよ。」

「それだけちゃんと見てくれてるんだよ。」

「んな事頼んでねぇっての!」


 唯はふんっと鼻を鳴らす。確かに彼女の言う通り石井先生は、唯に対して少し厳しいように感じる。実のところ唯は、あまり成績がよろしくない。全体的に勉強そのものが苦手なようだけれど。特に数学に関しては、他の追随を許さないほどに壊滅的であった。


「ところでさ、アンタはさっきから何読んでんのよ。」

「これ?」


 私は30数枚からなる400字詰めの原稿用紙で出来た()()を唯に手渡した。


「南戸楓の桜餅の所感と国東彩音の桜餅との比較…って、なんだこれ?」

「ええっと…感想…文?」

「桜餅の?」

「う、うん…。」

「彩音が書いたの?」

「い、いや…。」


 この()()の作者は薫である。今朝、通学路で渡された時には、この原稿用紙の束が何の原稿なのか見当もつかなかった。確かに感想を教えてほしいとは言ったが、まさか一万文字を超える原稿用紙の束で渡されるとは、夢にも思わなかった。事の経緯を説明すると唯は「アイツバカだろ。」と言い、お腹を抱えて笑い始めた。


「唯ちゃんそんなに笑ってどうしたの?」

「あ、七海。」


 気が付くと私の後ろに立っていた七海は「ごめん。ちょっと遅れちゃった。」と、両手を合わせて少し申し訳なさそうな顔をしている。そんな七海の隣には、見慣れない子が少し頬を赤らめてやや俯きながら並んでいた。


「彩音ちゃん。唯ちゃん。今日から二葉さんもお昼一緒に食べてもいいかな?」


 七海は、いつも通りの満面の笑みで私たちに訊ねる。二葉麗奈(ふたばれいな)さん。昨日の自己紹介で話していたので、名前は憶えている。初めて同じクラスになる子だけれど、名前順で前の席が七海なので、昨日と今日で仲良くなったのだろう。


「もちろん!唯もいいよね?」

「ひ、ひぃ。お腹痛い。」


 笑い疲れた唯は、息も絶え絶えにお腹を押さえている。


「もう。」


 少し呆れ交えに私が言う。そんな私たちをよそに、七海は唯の隣に椅子を持ってきて座る。私も空いている席の椅子を借りると、自分の席の隣に置いた。


「二葉さん。ここに座って。」

「…プ、プリンセスだ。」

「?」


 二葉さんが小声で何かをつぶやいた気がしたけれどうまく聞き取れなかった。




「しかし薫はさ、彩音の事になると見境なくなるよな。」

「確かに。薫さんは彩音ちゃんの事になると必死になるよね。」

「そうかな?」

「ほら、前に一度アンタが体育の時間に熱中症で倒れた時あったじゃない。」

「そんな事もあったね。」

「あの時の薫の顔。真っ青になってアイツまで倒れるんじゃなかってその時はひやひやしたわよ。」


 そう言いながらも唯はゲラゲラと笑っている。


「早坂さん。薫さんという方は。」

「隣のクラスの南戸薫さんだよ。去年は同じクラスだったんだ。」

「…やっぱり。」


 二葉さんは何か納得したようだった。


「ところでさ、アンタの事麗奈って呼んでいい?」

「えっ、あっ、その。」


 唯に唐突に話を振られ、二葉さんはたじろぐ。


「私の事は唯でいいからさ。」

「あー!私も麗奈ちゃんって呼びたーい!」

「ええっと…。」


 二人が二葉さんに詰め寄る。どうしていいのか分からないのか二葉さんはプルプルと震えていて、まるで子犬のようだ。流石に可哀想なので二人を止めることにした。


「コラ、二人とも。二葉さん困ってるでしょ。」

「あ、ありがとうございます。国東さん。」

「どういたしまして。因みに私は彩音でいいからね。麗奈。」

「あ、彩音ズリィ!」

「彩音ちゃん、ズルい!」


 叱責する二人を横目に私は少し悪ぶって笑って見せた。


「ふ、ふふ。」

「どうしたの麗奈?」

「い、いえ。皆さん本当に仲が良いのですね。」

「いやいや、それほどでも。」

「なんでアンタが照れてるんだよ。」


 照れる七海に唯がツッコむ。しかしそう言う唯も満更でもないようであった。


「あ、次の授業って移動教室じゃん。」


 私が言うと、みんな時計を見る。既にお昼休みは半ばを超えているにもかかわらず、私たちのお弁当はまだ半分も減っていなかった。おしゃべりをしているとつい時間を忘れてしまう。名残惜しいけれど、私たちはお弁当を食べることを優先することにした。




【律明大付属】【2-2教室】


 12時51分。お弁当を食べていた私が、周囲の異変を察した時には、既に手遅れというほかない状況に陥っていた。


(何でこんなことに…)


 いつもながら、私、国東零音には苦手なものがたくさんある。という話から始める。例えば人混み。縁日や初詣、都会の交差点など。そこに風情の有無を問わず、私は人混みが苦手だ。


 人混み以外にも、人に注目されることも苦手である。幼いころより背の高かった私は、否応なく他人から注目され続けてきた。もしこの二つの状況が重なったのなら…。そんな考えたくもない状況の渦中に私はいた。


「国東さんのお家って料亭かな何かなの?」

「昨日も大きなお弁当においしそうな料理たくさん入ってたよね?」

「国東!俺の卵焼きとそのミートボール交換してくれ!」


 そう。正確に言えば私と言うよりは、彩音さんが作ってくれたお弁当にクラスメイトが群がってきたのである。


(こんな時どうすれば…。)


 まさか、今更お弁当に注目されるとは思ってもみなかった。確かに1年生の頃は、学食で済ませていたから気にはしなかったけれど、これだけ大きなお弁当を持ってくれば注目されて当たり前だろう。


 周囲のクラスメイトは、次から次へと質問を投げかけてくる。何故お弁当への質問を私が答えなければいけないのだろう。お弁当が答えてくれればいいのに。そんな訳のわからない思考になるほど私は、パニックになっていた。


「っち。おい、どけ。」

「イテッ。何すんだおま…」

「あ?」

「ゲッ。香川。」


 香川。その名前が聞こえた途端、お弁当に釘付けだったクラスメイトの視線は、香川さんの方へと向けられた。


「何の騒ぎか知らねえけどな、アタシはテストのせいでイライラしてんだ。これ以上イライラさせんなよ。」

「お、おう。ワリィ。」


 香川さんに睨みつけられ、釘を叩き込まれた男子生徒は、一目散に自分の席に戻った。彼が席に着くと堰を切ったかのように、私の周りにいたクラスメイトは散り散りになっていった。人混みの息苦しさから解放されたものの、胸を撫で下ろす暇もなく、今度は台風が私に近づいてきた。


「お前、相変わらず食うの遅えな。」


 開口一番いきなりのデッドボールである。出来ることなら敬遠球くらいの距離感で勘弁してほしい。


(そもそも言葉のキャッチボールなんて望んでいないんだけど…。)


 そんな私の心の声など聞こえるはずもなく、香川さんは私のお弁当に手を伸ばし、さも当たり前のようにミニハンバーグの串を摘まむと口の中に放り込んだ。


「うお、このミートボールめちゃくちゃうめぇな。もう一個くれ。」


 再び香川さんの手がミニハンバーグへと伸びる。


「…ダメ。」


 直後、香川さんの手が止まる。と、同時に私の思考も停止する。ダメ?私が言った?自分の口から出た言葉に驚く。止まっていた香川さんの手が再び動き始める。その手はお弁当ではなく、香川さんの方へと戻っていった。


「ケチくせぇな。」


 そう言うと香川さんは、自分の席の方へ体を向けて歩き出す。良かった。安心していると信じられないことに、またしても口から勝手に言葉が零れた。


「これ、ミートボールじゃない…から。」

「あ?」

「これ、ミニハンバーグ…だから。」

「…あっそ。」


 そう言うと香川さんは、自分の席に戻っていった。ホッと胸を撫で下ろす。何事もなく終わったことに対して、心からため息が零れだす。それにしても何故私の口からあんな言葉が出たのだろう。まるで会話を繋ごうとしているかのように。一人理由を模索していると、肩に誰かの手が触れる。驚き振り返ると「わっ!」と森川さんの驚嘆の声があがった。


「びっくりしたぁ。」

「ごめん…なさい。」

「うんうん。こっちこそ急に肩に触ってごめんね。」


 どうやらまた私は周りの声が聞こえなくなっていたらしい。自分の癖を反省しつつ森川さんの要件を訪ねると一枚のプリントを渡された。


「これなんだけど。国東さんの道着って結構傷んできているよね?」

「…はい。」

「試合用の道着もちょっと袖が足りなくなってきていると思うし、そろそろ買い替えた方がいいかなって思ったから。」

「ありがとう…ございます。」


 渡されたプリントは柔道着の注文用紙であった。流石は敏腕マネージャーと言ったところか。ライバル校のデータ収集。部員の練習メニューの考案。部長や顧問の先生たちと、練習日程の組み立てまでやっているのは知っていたけれど、まさか一人一人の道着の状態まで把握してくれているとは知らなかった。


「期待してるぞ!未来の律明大付属のエース!」


 そう言うと森川さんは香川さんのもとへと向かった。エース…。私が?この学校の?きっと森川さんなりの激励なのだろう。そう納得すると私は、やっとお弁当の続きを食べ始めた。

うまく表現できているかは別として、キャラクター同士の掛け合いは書いててとても楽しいですね。

次回は遂に前半の締めにあたる10話。

今回のサブタイトルにもある通りこれまで書いてきた日常に変化を入れ始めようと思います。

よろしくお願いします。

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