プロローグ
初投稿です。
自分の読みたいと思った百合を書きました。
よろしくお願いします。
とても悲しい夢を見た。
ベッドの上で何本もの管が腕から機械につながれている女性は、一言。また一言と今にも消えてしまいそうな声を絞り出す。
彼女の手を取り泣き崩れる男性。その傍には同じく今にも壊れてしまいそうなほど酷く泣き喚く少女がいた。
彼女は男性に握られている手とは反対の手を少女に伸ばす。手が少女の頬に優しく添えられると少女は泣くのを必死に堪えて彼女と目を合わせた。
「ごめんね…」
彼女の最期の言葉を聞く前に私は夢から追い出されたのであった。
むかしむかしあるところにシンデレラと言う少女がいました。
この一文から始まるおとぎ話。シンデレラをあなたは知っていますか?
たぶん名前だけなら知らない人などいないであろうこのお話を私が初めて知ったのは小学生に上がる前だったと記憶している。
いくつものおとぎ話が西洋問わず混在する分厚い絵本を毎日のように母にせがんでは読んでもらうことが当時の私の大切な時間だった。
その本の中にはおとぎ話の数だけ違う世界があり、母の優しい声で語られるそれぞれの世界に私は幼いながらに胸をときめかせ思いを馳せた。
そんなある日、私はシンデレラに出会ったのだ。
シンデレラを読み聞かせてもらった私が初めに感じたのは心からの純粋な感動だった。人一倍気の弱かった私は舞踏会へ行くことを許されず悲しみ嘆く彼女にとても共感し、幸せになってほしいと願った。ほどなくしてその願いは叶い魔女の魔法によってシンデレラは舞踏会へ行くことが出来た。
しかし魔法には期限がありシンデレラはまた元のみすぼらしい生活に戻ってしまう。私はひどく悲しんだのを覚えている。だが魔法は解けてもガラスの靴を頼りに王子はシンデレラを探し続けた。そうしてついに王子との運命的な再会を果たし、二人はその後結婚し幸せに暮らし続けたという。
ここで幼い私には一つの疑問が残った。なぜ魔法が解けてもガラスの靴は残り続けたのだろう?と。母に尋ねると少し困った顔をしながら母なりの考えを答えてくれた。
「きっと魔女なんて本当はいなかったんだよ。シンデレラと王子様が結ばれるのは運命だったの。だからガラスの靴なんてなくったってシンデレラは幸せになったはずよ。」
幼い私にはその言葉の真意まで汲み取ることはできなかった。だがシンデレラと王子様が出会いそして結婚するのは運命だったのだと理解した私は深く感動したことを覚えている。
そんな私が自分をシンデレラに重ねる事は無理もない話だと思う。きっと私もいつか運命の王子さまと出会う。私は確信にも似た思いであった。
だが現実は母の語るおとぎ話のようにやさしい世界ではなかった。
シンデレラは手にした仮初の幸福を失うけれど最後には本当の幸せを手に入れたように、きっと世界はそういう風に出来ているのだと私は思っていた。
だけれど一度失った幸せは二度とこの手に戻っては来ないのだと、私が知るのはまだ幼さを隠す術を知らない10歳の夏の出来事だった。
これから始まるお話は仮初ではない本当の幸せすら失ってしまったシンデレラと、それでも彼女に幸せを届けようと足掻くガラスの靴達の物語
1話目は同時に投稿するのでもし宜しければ読んで頂けると幸いです。