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Noise~影の記憶/狐死兎泣~  作者: 桔梗館剥製室
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交差する思い

シンプルな造りの応接間。その中央で2人の人間…否、1人は獣人が高級そうな机を挟んで黒いソファに対峙している。部屋の雰囲気は重く、息苦しささえ感じられる。そんな空気をどうでもいいと、人間の男…八雲が口を開いた。


「お前には疑いが掛かっている」


八雲は能面のような表情のまま、淡々とそう告げた。相対するは九尾の尾と狐耳を持つ獣人の女、序列9位のユエだ。

ユエは不愉快そうに尾を揺らし、口元を覆っていた黒い扇を勢いよく閉じる。


「へぇ、疑いねぇ。アタシらは故郷を焼かれて傷心だと言うのに、随分と酷い言葉じゃないか」

「それはお前の怠慢が招いたことだ。私の知るところではない」

「はっ、世界の秩序維持のためなら犠牲になろうと、どうでもいいってかい?」

「お前と私では見ている視野が違う。その問答は不要だ。」


八雲の有無を言わさない口調にユエは低く唸る。


「相変わらず、いけ好かない野郎だ。不要だと?アタシが納得出来る答えをいいな、八雲!」


わなわなと怒りで震えるユエを見て、八雲は小さくため息をついた。


「お前が守るべきは獣人達の小さいコミュニティだが、私は違う。狭いコミュニティを一々気にする訳にはいかない。その程度の諍いなどよくあることだ。お前だけじゃない」

「よくあること、だと…?」


八雲の答えに、ユエは怒り心頭だった。

ミシリ、と鈍い音がする。見ると、ユエの前腕が獣の手に変わっていく。

彼女は机の上を乗り出し、鋭い爪がある獣の手を勢いよく八雲に振り落とした。


「手を降ろせ。私に八つ当たりするのは違う。」

「黙りなっ …!」


だが、それは彼に当たることはなかった。すんでのところで止まっている。ユエが寸止めをした、というよりは強制的に行動を止めさせているような…そんな感じだ。現にユエは諦めず爪を彼に突き立てようとしている。


「…はぁ、お前達獣人は人より筋力があったのを失念していた。」


調整を間違えたな、と八雲は思い、もう一度口を告げた。


「もう一度言う、手を降ろせ。話が進まない。無駄口を叩いている暇はない。」

「ぅっ……!…ぐっ!!」


八雲の言葉に、ユエの腕が反撥される。ユエはバランスを取れずに身体ごとソファに叩きつけられた。


「クソッタレ!!」

「…はぁ、話が進まん。…後で見舞金くらいは出してやる。さっきも言ったがお前には疑いがかかっている」

「……チッ。不愉快な野郎だ。」


ユエの恨みごもった視線は気にせず、八雲はスーツの内ポケットから袋を取り出した。件の会議でも話題に上がった違法薬物『新世界』である。それを見たユエは眉間に皺を寄せる。


「何だい、この見るからに胡散臭い薬物は」

「最近流通が確認された違法薬物だ。初出は中国。中国と言えばシエオとお前だ。知っていることは洗いざらい吐け。これは高位序列者の義務にあたる」


八雲の冷たい口調にユエは大きく息を吐いた。


「知ってるも何もアタシはその薬物を始めて見たし、知っていることは何もないさ。そもそもあんたも知っての通りアタシは獣人の保護と安寧を目的として動いている。そんな薬物なんぞに現を抜かす暇があったら実験台にされてる獣人を保護するために研究所を壊滅するね。」

「…最近壊滅に追い込んだ研究所はあるか?」

「そりゃあ勿論。あぁ、そこの研究データでも拾ってないかって?研究所ごと丸焼きにしたから残ってないさ。」

「…お前は…全く…はぁ」

「実験台にされたかされてないかが重要であって、中身の研究に興味はないからね。報告義務なんて言われてないしそんな面倒なことするくらいなら全部燃やしたほうが早いのさ」

「馬鹿め…」

「なら次からそういうルールでも作ることだね」


何故か得意気な顔をしながらカラカラと笑う。八雲は暫しユエの顔を見ながら考え込む。


「十中八九シエオがやったに決まってる。殴り込みにいくなら是非とも同行させるんだね。アタシらの故郷を焼いた罪、その身に味あわせてやる」

「ほぅ?シエオがやったと何故断定出来る?」

「出来るさ。確かにアタシらとアイツらは不仲さ。お互いの活動に邪魔だからねぇ。でもそれは勢力図の話で、アタシ個人とシエオはそこまで不仲でもなかったのさ。胡散臭い野郎ではあったがね。でもそれなりに話は聞く奴さ。少なくともどっかの誰かさんと違ってな。」

「そういう御託はいい。」

「そういうとこだよ八雲。アイツが取り引きを持ちかけてきたのさ。何処ぞの違法製薬会社を取り込みたいってね。どうやらそれなりに顔がきく違法会社らしくてねぇ、手を焼いたところ、そこに獣人達が実験台にされてるって話を聞いたらしい。」


ユエから製薬会社という単語を聞き、八雲の中で少しずつ話が見えてきていた。


「獣人達を全て保護し、そして彼らが休養出来るよう資金も渡す。だから手伝ってほしい、ってね。アタシからしたら悪い話じゃない。里の奴らも同じだった。だから一時的に手を組もうとしたのさ。」

「…それは初耳だな」

「今言ったからね」

「…続けろ」


ユエの余計な一言に八雲は僅かばかり眉を寄せる。


「アタシは口約束が嫌いな性分でね、どんなことも文書にしたいんだ。それでアイツに一時的とはいえ、同盟を結ぶことを認める文書にサインをしろ、そうじゃなきゃ手は組まないってね言ってやったのさ」

「お前はそうするだろうな。」


よく言えば慎重、悪く言えば警戒心が強すぎる。ユエは人間を信用していない。当たり前と言えば当たり前だった。


「そしたらね、アイツ約束すっぽかしやがったのさ。来もしないし連絡も取れない。馬鹿馬鹿しくなって里に帰ったら、里は丸焼きにされてたのさ。状況的にシエオしかいないだろうよ。中華圏の二大勢力はアタシとシエオだ。他の奴らはアタシを恐れて獣人に手を出さなくなってるからね。」


思い出すのも忌々しいよ、とユエは顔を歪ませる。


「なるほど。嘘は言ってないな」

「あんたに嘘を付く無駄な事なんてしないよ。」

「…追って沙汰は出す。くれぐれも余計な事はするな」

「それは向こうさん次第だろうよ。それで話は終わりかい?ならアタシはお暇させて貰うよ」


よっこいしょと呟きながらユエは立ち上がる。そして思い出したように八雲に手を出した。


「…何の真似だ?」

「見舞い金だよ見舞い金。あんた出すって言っただろう?」

「…がめつい狐め」

「金は大事さ。資本が無ければ里の復興は出来ないからね」


八雲はもう何度目になるか分からないため息をついて、それなりの金額を書いた小切手を渡す。


「確かに。それじゃあな。とりあえずアタシはシエオをぶん殴ってくるからね」

「お前は話を聞いていたか?…聞いてないな…、はぁ。」


八雲が口を開くころにはもうユエの姿は消えていた。


「…これから忙しいくなるな」


誰も余計なことをしてくれるなよ、と八雲は思いながら応接間から立ち去った。



*****



「それで、これからどうするんだ」

「どうするって何がですぅ?」


あの会議が終わった後、八雲邸から近いリン率いる組織直属のタワーマンションに拠った。帰るのが面倒だからとリンがただをこねた結果だ。

特に先の会議の話をすることはなく、気分屋なリンはとりあえずイノリにマニキュアを塗って欲しいと頼んだ。塗りながら、イノリはそう口を開いたのだった。


「今日の会議の事だ」

「あぁ〜。いいんじゃないですかぁ放置して。どうせ周りがやってくれますよぅ〜」

「あのなぁ」


事の重大さをあまり理解していないのか、リンはいつもの様に間延びした口調で答えた。


「んー、まぁそうですねぇ。まぁ薬を流したのはシエオで間違えないじゃあないですかぁ。八雲もそう言ってましたしぃ?」

「まぁユエさんが流すとは到底思えないしな」

「こういうお薬が出来上がるまでって、必ず実験とかする訳じゃないですか。そういうのに選ばれるのって獣人が多いんですよ。彼らは我々人間より頑丈に出来てますからね。だからユエがやるのは有り得ない。むしろ忌避するくらいですよ」


ユエの性格を考えるとむしろ疑われた瞬間に即決で研究所を潰して潔白を表明しそうだな、とリンは思う。


「まぁ何も私達がしなくたってユエとか、それこそ八雲とか伏とか動いてくれそうじゃないですかぁ。スルーでいいですよぉ。同調圧力って良くないと思うんですよね!」

「お前はそれでも序列4位か?もう少し考えてから発言をだな」


イノリの深いため息と共に何時もの説教が始まった。リンははいはい、と適当に受け流す振りをしながら、思考を巡らせる。


(と、まぁイノリは言ったものの、実際死人が出るようなお薬広まるのは困るんですよねぇ。ウチの士気にも関わって来ますし、何より…)


頬杖を付きながら、リンは目の前にあったマニキュアの瓶を勢いよく指で弾く。それは机から落ち、足元を塗っていたイノリの頭に当たる。


「お前なぁ」

「あは〜すいません。つい手持ち無沙汰でぇ」

「はぁ…」


イノリがぶつぶつ苦言を呈しているのを一切無視し、リンは思考に潜っていく。


(私の城が倒されるのは癪に障るんですよねぇ。そうなると、やっぱり邪魔ですよね。善は急げと言いますし、潰してしまいましょう。えぇ、そうしましょう。)


イノリにバレないよう、リンはほくそ笑む。バレたら口煩く言われるのを知っているからだ。


(それに、シエオって確か後継者いないですよね?もしかしてシエオ居なくなったら私が序列3位になれるのでは!?あぁ、何でこんな簡単なことに気が付かなったのでしょう!ふふ、私は4位で満足する女じゃありませんし、やっぱり余計に邪魔ですね、えぇ。今までは取る足らないと思ってましたから相手すらしてなかったですけど…)


閉じていた目を開け、リンは眼下にいるイノリに声を掛けた。


「私、1個決めました」

「何がだ?」


イノリが作業をやめ、リンを見上げる。リンはたまたま近くにあった紙とペンを持った。


「今からシエオにお手紙を書こうと思うんです」


顔はにっこりと効果音が付きそうなほど笑っているのに、言葉の温度は凍えるように冷たかった。

灰音のターンです。目標の今年中にNoise納をする、達成しました!!!

こんなご時世ですが、私達の作品、是非楽しんでお家時間過ごして頂けたら幸いです。

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