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Noise~影の記憶/狐死兎泣~  作者: 桔梗館剥製室
3/5

集いし強者達


"絶対会議"


それは序列持ちに関する全ての事柄を定めるものであり、上位20位以上が参加権を持つ会議である。

そこで決められた全ては"絶対"であり、例外を除き覆すことは不可能なのだ。


序列システムが正しく機能するまではこの会議は極めて重要であり、序列持ちが出席したいと願うほどのものであった。それはそれは苛烈な序列争いが繰り広げられたという。


だが、それは既に数百年昔の話であり、序列システムや裏社会の構造が一定の落ち着きを見せると徐々にその熱は収まっていく。それでもこの世界に何かあれば"世界を動かすことの出来る20人"には変わらないので今でも一定の動きはあるようだ。


今宵の会議はどうなるのか。踊るのか?進むのか?

それは当人同士にしか分からないことである。


****



「…揃ったな」


薄暗い、20人が座れるほどの広さの部屋の中央で序列1位の男が静かに口を開いた。彼の名前は八雲。

威圧的な鋭い眼光に一切の乱れを感じさせない身だしなみ、いっそ能面のようにすら見える感情を読み取れない表情をしている。全ての序列保持者の最高位に君臨するだけのものは持っていると言える。

普通なら話しかけるだけで腰を抜かしそうな雰囲気を持っているが、ここに揃うは上位20位までの人物。揃いも揃って曲者揃いなのだ。


「揃ったってまだ半分も居なくないですかぁ?」


あまり興味なさげに半数が空席の席を眺めながら序列4位、水城リンは口を開いた。それに対して八雲は短く鼻をならすだけで答えず、代わりにその隣に座っている序列2位の女がリンの問いに答えた。


「皆持ち場で色々あったみたいよぉ。何時もこの時期は出席率も低いし、仕方ないわね。あ、もしかして4位ちゃんは5位ちゃんが居なくて寂しいのかしらぁ?」

「はぁ!?誰があんな魔痴女ババアを恋しく思うって言うんですか!むしろ居なくて清々しますね!あんまり巫山戯たこと言うと私も怒りますよリリス!」

「あらあら恥ずかしがらなくてもいいじゃなぁい」


リリスと呼ばれた女は豊満な肢体をくねらせてクスクスと笑う。魔痴女ババアとリンが呼んだのは空席になっている序列5位の女だ。リンとは相性が悪い…というよりリンが勝手に噛み付いている、というのが会議での正しい認識である。


「確か日本の諺に喧嘩するほど仲が良いってあるし、仲が良いのはいい事だと思うの!」

「フローレンス、違います。仲良くありませんから!」


リリスとリンの応酬に茶々を入れたのは序列11位の席に座る愛らしい雰囲気の女…フローレンスだった。金糸のような柔らかいプラチナブロンドの髪がフローレンスの動きに合わせて揺れる。だが、フローレンスの言葉にリンは完全に臍を曲げたのか頬杖を付いてそっぽを向いた。


「…あれまた面倒な…」

「ウツメ!何か言いましたか!」

「うわっ」

「うわっじゃないだよなぁ…。やぶ蛇つつくの止めてくれウツメ」


皺寄せ食らうの俺なんだから、と序列14位に座るイノリが序列13位のウツメに嫌そうな顔で呟いた。


「相変わらずだね、君達は」

「見てる分には愉快だが、そろそろ本題に入ろうぜ」

「…話を脱線させたのはお前たちだ」


序列7位の伏と序列6位のロドルフォの苦笑い気味の軌道修正に八雲は嘆息する。会議が始まらないのはある意味何時ものことである。


「この人数だからいつも通り定例報告会、といきたい所だが…。リリス」

「はぁいボス。ここからはあたしが説明するわね」


八雲に促され、リリスは白衣のポケットから小さい袋を取り出した。真っ黒な色の袋に、天使がラッパを吹いている可愛いらしいイラスト、その上に『新世界』と書かれている。中々に可愛いらしいデザインにフローレンスがわぁと声をあげる。


「あら素敵!可愛いらしいデザインね」

「デザインわね。中身は何か分かるでしょう?」

「勿論。こういう胡散臭いデザインは違法薬物って相場が決まっているわ」

「そう、違法薬物よ。まァ違法薬物が出回るなんて良くある話だけれどこれは普通のとはワケが違う。」


リリスはおもむろに袋を破り、中身の粉を指で擦り合わせ遊ぶ。その様子に近くに座っていたリンが座っていた椅子ごと10cmほどリリスから遠ざけた。粉塵には巻き込まれたくないらしい。


「これはあたしの身体ですら酷い状況にさせたのよ。普通の薬物なら数時間で抜けるのにね……。」


リリスの一言にそれまで朗らかな雰囲気だった室内が一気に張り詰めたような空気に変わる。

序列2位、リリス。別名を『毒婦』リリス。あらゆる毒に異常な耐性を持ち、このような薬物の調査を一手に引き受ける毒のスペシャリスト。そんな彼女が比喩もなく、酷い状況にさせたとハッキリと言い切ったのだ。


シン、と静まる室内に八雲が再度口を開いた。


「この薬物によって死者が出ている。故に、何としても流通を阻止しなければならない。まだ裏側でとどまっているからいいが、これが表沙汰になれば…分かるな?」


毒に耐性を持つリリスでさえ耐え難い毒なのだ。表社会に出ればどうなるか想定はつくだろう。


「何でもいい。これについて知っているものは?」

「最近何個か押収した記憶はあるけど、死人が出たって話は今初めて知ったかな。」


伏が答え、部下のウツメも頷く。


「リンはどうだ」

「あー、どうでしたっけ?ヤクには興味ないんですよねぇ」

「…はぁ。うちも伏と同じく何個か押収して化学班に解析をしてもらっているが…可笑しいな、リリスの話と化学班の話が全然違う」


ことの重要性を対して気にしていないリンに代わり、イノリが思い出しながら語る。


「…お前たちの化学班は何と?」

「少なくとも成分上は今まで出回っている違法薬物に比べて依存性が低く、大した効力も持たいないと思われるって話だな。ラットにも実験したが特に何か変わった効力は見つからなかった。」

「…何だか、きな臭い話になってきたな」


イノリの言葉にロドルフォが眉をひそめた。八雲は何か考えこみながらも今度はロドルフォに視線を向けた。


「お前のところは?」

「うちのシマではそのパッケージは見たことないな。新種の違法薬物が出たという話も聞かない」

「イタリアなんて薬物の流通ルートにありそうじゃないですかぁ。意外ですね」

「おいおい、偏見はよしてくれよ。地中海とかいい所もいっぱいあるんだ」


ロドルフォが呆れ顔でリンに言った。最後に八雲はフローレンスに目線を向けた。


「少なくとも私自身はそういった話は聞いたことないの。あと、今の話を聞いて思ったのだけれど、その新世界?っていう違法薬物、あまり欧州では広まってなさそうに見えるの。ロドルフォさんが知らないって相当なことよ?」

「フローレンスは俺のこと買いかぶりすぎだな…。まぁ、各地を転々としているフローレンスが知らないっていうなら欧州にはまだ来てないのかもな。」


ロドルフォがフローレンスに視線を向ければ、彼女は彼にふふっ、と可愛らしく微笑む。


「…バカップルの話は置いといて。八雲、これは一体どこで流通してるんだい?」


俺達は別に付き合っちゃいねーぞ、と呟くロドルフォを無視し、伏は八雲に目線を送る。


「最近は極東……日本、朝鮮、中国での流通が確認されている。だが初出は中国だ。」

「中国って言うと…シエオとユエが良く知ってそうだね」


八雲の言葉に、伏は空席の序列3位と9位の席を見渡した。


「今日に限って2人とも来てないわね」

「初出が中国ってことはぁ、中国で二大勢力構えてるどちらかが流したんじゃないですかぁ?だってほら、あの二人、仲が悪いじゃないですか」

「昼ドラじゃないんだぞ、リン」


修羅場の予感ですぅ〜とリンは大層愉しそうに想像を膨らませている。


「近いうちにあの2人からも話は聞く手筈をとっている。今やるべきことは流通を広げない…否、止めることだ。リン、伏、ウツメは再度流通元を探れ。イノリ、さっきの化学班の話だが詳しく聞きたい。リリスもそれに同席しろ。ロドルフォは欧州の各要人に今日の話を共有し流通をさせるな。フローレンス、お前は今受けている依頼よりもこちらを最優先に探れ。ついでに外で待っている弟のロベールを後で呼んでこい。個人的な話がしたい。」

「了解、ボス」

「ま、こうなりますよねぇ。やる気はないですけどぉ、とりあえず伏とウツメと情報のすり合わせしましょうかぁ」

「何かわかり次第また連絡いれるな八雲」

「とりあえずリンのとこと共同作業になるのかな」

「任せて八雲さん!私、頑張っちゃうわ!ロベールも暇してるから捕まえてきちゃう!」

「えー、俺もロベちゃんと個人的な話したかったなぁ」

「馬鹿なことを言うなウツメ。リンを頼んだぞ」


各々それぞれの反応を八雲にみせる。八雲は再度口を開いた。


「今日の会議はこれ迄。わかり次第開催とする。連絡を待て」


*****


同時刻、中国、とある焼け果てた里にて。


「こんな、こんなことってあるのかよォ!!!」


焼け果てた里に、声を荒らげる人達がいた。否、人のように見える違う生き物である。人間によく似た彼らはよく見ると動物の耳や尻尾が身体から生えている。

彼らは獣人と呼ばれる、種族のものだ。他の言葉でいうなら亜人、というべきか。異能力が生まれた影で、遺伝子の突然変異で成り果てた人ならざるヒトモドキだ。


「ユエの姉御ォ!!全部、全部あいつのせいだ!!あいつがやったんだ!!里が、アタイ達の故郷が無くなっちゃった!!」

「許せねぇ、許せねぇ!!俺達獣人が、何をしたっていうんだよ!!人目につかないよう、こうしてひっそりと生きてるのに!!ちくしょう、ちくしょう!!」


獣人は人ならざる見た目をしているため、差別の対象になりやすい。表社会では馴染めず、裏社会では被検体として扱われやすい。彼らはそうなりたくないからひっそりと秘境とも呼べる地で身を寄せあって暮らしている。そんな里が、焼け果て変わり果てた。

緑の自然豊かな土地は全て灰になり、逃げ遅れた獣人の焼死体らしき塊が少なくない数転がっている。


「なぁ、ユエの長!悠長なことはもう言ってられねぇ。あいつらは俺たちを騙したんだ!!同盟を結ぶ話をチラつかせて、俺たちをおびき寄せて残った力のない獣人を皆殺しにしたんだ!!」

「そうですよ!アイツらがその気なら、あたし達だってやってやる!!」

「長!今こそ決断を!!」


嘆く獣人に扇動され、今まで黙って里を見つめていたユエが口を開いた。


「皆、よく聞きな。どちらにせよ、まずは同胞達を手厚く送り出すことが先だ。あとは救助活動、…これは望みが薄いかもしれないがね」

「殺されたアイツらだって今は先に報復を望んでる!」

「放置しろとお前は言いたいのか…?」

「そ、れは…」

「刃を研げ。今はまだ、その時じゃない。」

「見損なったぞ!!ユエ!!」


憤怒にかられる獣人達にユエは無言で見つめる。強い風がユエの九尾の尻尾と狐耳を揺らす。


「いずれ報復はする。怒りに任せていたら勝てるものも勝てない。そうだろう!!」

「姉御…」

「スイラン、お前がリーダーになって里を回って息があるもの、助かりそうなものを救助しな」

「はい、姉御!!」


スイラン、と呼ばれた若く元気な猫耳をもった女は獣人を引き連れて焼け果てた里に足を踏み入れた。


「リィ、あんたは情報収集を。悪いね、人間のあんただからつい頼ってしまう」

「ユエ、夫婦は助けあうものだ」


狐の仮面を被った男はユエにそう短く告げると一瞬で姿を眩ませた。ユエはそっと空を見上げる。焼け果てた里とは違い、憎いほど晴れていた。太陽の眩しさに目を細めながら、拳にユエは力をいれる。入れすぎて、強く握った手から血がぽたぽたと垂れている。


「…覚えていろよ、イ・シエオ…。この怨み、絶対に忘れないからな…」


低く、唸るようにユエはそう言い捨てた。

お久しぶりです、灰音です。久しぶり更新です。誤字脱字等ありましたら再度修正いたします。

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