ウツメ 壱
何で―――
聞き覚えのある少女の絶叫で覚醒した。口の中が鉄の味がする。
やけに怠い身体を無理矢理起こす。
明らかに異常な血の濃い匂いに俺は眩みながらも進む。そこへ進んではいけないと第六感が告げるが、無視して進む。
確認しなければいけないのだ、こんなのは馬鹿げていることを――笑い飛ばされるただの悪夢であることを。
そんな俺を嘲笑うかのように、赫色の気配は次第に強くなっていく。
目的の場所へと進んで行くと、その惨状が像を結んでいく。
嫌だ、嫌だ――嘘だ、あれは――
膝をつく、赫色の水たまりか跳ね返り、制服を汚す。
赫の中心には変り果てた姿の親友が横たわっていた。
惨い。
全ての関節が無茶苦茶な方向に捻じ曲げられ目玉は原型がなく潰されておまけに腹に大穴ときた。
これでは、最早――
横には俺と同じ様に唖然とし、座り込んでいる少女がいる。
「あ――」
少女が俺に気付いた。
「ウツメ…ウツメですが?」
「リン…」
自慢の服が鮮血で汚れるのも気にせず、リンは彼を抱く。
「“これ”はアオイじゃないですよね…?アオイがこんなところで…」
悲痛な祈り――
「リン、それはー」
そんな姿になってしまっても、そいつは――鳴海アオイなんだよ。
口に出すことが出来ない。
俺の勘が当たっているならば、彼女はアオイの事が好きだった。そして――俺も―
認めたくないだろう。
否定したいだろう。
嘘であってほしいだろう。
痛いほど分かる。
「――!」
突如、アオイが咳き込み、血を大量に吐く。ボロボロの体が今にも崩壊しそうに痙攣する。
「何だ…どうしたんだアオイ!」
肩を掴み、切り裂かれて変形した口に耳を寄せる。
聞き逃すまい、
「―――――――――
*****
「ウツメ、大丈夫かい?」
「ああ――、ぼおっとしてた」
伏―俺の主であり恋人が心配そうに俺のことを覗いていた。
「ならいいけどさ、これから会議なんだからしっかりするんだよ」
伏がにこりと笑う。いつもならつられてしまうところだが、今はそのような余裕はなく、俺は出来損ないの笑みで返す。
今更、過去のフラッシュバック程度で動揺はしないようにはしている。しかし、あの出来事で全て変わってしまった。
「おやぁ。ウツメじゃないですか。今日はいつにも増して冴えない顔ですねえ」
「リン…」
最も変わってしまった奴が、にこやかに話しかけてくる。
これで良かったのだろうか。
結局俺は、誰も救うことが出来ず、
流されるままにここまで来てしまった。
親友が死の間際に言った不可解な言葉を秘したまま――
―彼女をどうか、覚えておいてくれ、―――許してやってくれ―
【空目アキツ編・了】