第99話 〜お兄ちゃんは駆け出したようです〜
ドアの前に立っていたのは、俺たちをここへ連れてきた張本人であるヒイラギさんだった。
「聞いてよ、ヒイラギ。このお客様に、それはもう酷い辱めを受けたんだ。姉様が」
「聞きなさい、ヒイラギ。このお客様に、恥辱の限りを尽くされたのよ。兄様が」
そう言いながら、俺を指さす。いや、全く覚えがないんだが!?
「アンタら……相変わらず、人を弄り倒すのが好きだな……」
半ば呆れながら、ヒイラギさんは俺に近づく。
「悪いな、あの二人が。お嬢のお気に入りだから、ちょっと…………いや、だいぶ元から口と性格が悪いんだ」
ヒイラギさんの言葉に、二人は少しムッとしたように返答する。
「失礼だね、ヒイラギ。お前はいつの間に身体だけでなく、態度までデカくなったんだ」
「失礼だわ、ヒイラギ。アナタはいつの間に耳だけでなく、性格まで捻くれたのかしら」
「それくらいにしくれないと、お嬢に言いつけるしかなくなるんだが……」
その言葉を聞いて、二人は顔を見合わせる。
「『はいはい、わかったわ』って、姉様も姉様もきっと反省しているよ」
「『はいはい、わかったよ』って、兄様も兄様もきっと反省しているわ」
「うん、わかった。全く反省していないな、この二人!」
「すまない、もう慣れてくれとしか言えない……」
ヒイラギさんは頭を抱えながら、大きなため息をつく。なんか……お疲れ様です……。
「改めて……フレイファイア公爵家が使用人、ヒイラギ」
ヒイラギさんの改まった挨拶に、子ども二人も続く。
「同じく、使用人のアランと」
「同じく、使用人のリリィよ」
そう言って丁寧なお辞儀をする。
その洗礼された所作に、俺もつられて挨拶をする。
「俺は神崎 八尋だ。よろしく」
俺が手を差し出すと、二人はキョトンとした顔で互いを見る。そしてそのまま、ヒイラギさんに視線を移す。ヒイラギさんは黙って頷くと、二人はそれぞれ握り返してくれた。
「……お客様って、聞いていた通り不思議な人だね」
「……お客様って、聞いていた通りおかしな人だわ」
「それって、褒めてるの? 貶しているの?」
俺的には不本意だが、後者の意味合いに一票を投じる。
「もちろん、褒めてるんだよお客様」
「もちろん、褒めてあげてるのよお客様」
うん、これでハッキリした。この二人、アランよりリリィの方が口も態度も悪いな!
「ところで、さっきから気になっているんだけど……結局君たちは、どっちが上で、どっちが下なの?」
二人とも互いに『兄様』、『姉様』と呼ぶので、ちょっと気になってしまった。
「それはもちろん、アランが姉様の兄様だよ」
「それはもちろん、リリィが兄様の姉様よ」
「うん、全然わからん」
これはアレかな……どちらも互いを上だと、頑なに認めないやつなのだろうか?
それともどこかの童話に出てくる兄妹みたいな名前の双子みたいに、互いをそう呼ぶ仲なのだろうか。
「……まぁ、この二人は少し特殊だからな。深く気にする事はないぜ、旦那」
ヒイラギさんに言われ、俺は「わかった」と頷く。まぁ、呼び方なんて人それぞれだしな。お言葉に甘えて、深く考えないようにしよう。
「……それよりアンタ、凄く元気そうに見えるけど……どこも痛くも、なんともないのか?」
ヒイラギさんの質問の意図に、一瞬ピンと来なかったが……確かに倒れる前のことを考えると、そりゃあ心配もされるわな。
「そうだな……ちょっと寝すぎて、身体がなまってる感じはするけど……それ以外は特にないよ」
「……それだけ?」
「そ、それだけだけど……?」
「本当に……?」
「ほ、本当に……」
俺がそう答えると、三人は無言のまま俺をジッと見る。
「えっ……と、なに?」
「失礼だけど、お客様」
「は、はい?」
「お客様って、普通じゃないの?」
「いやいや、いたって普通ですけど!?」
俺がそう返すと、三人は信じられないと言った顔で互いに見あわす。
そして何かを悟ったのだろう、ヒイラギさんが眉間に皺を寄せながら口を開く。
「あのな、旦那……信じられないと思うんだが、よく聞いてくれ。結論から言うとだな。旦那があの日倒れてから、ちょうどひと月たつんだ……」
「へぇー、ひと月かぁー……え? ひと月?」
なにかの聞き間違えかと思い、もう一度確認する。
「誰が倒れてから、ひと月?」
「旦那が倒れてから、ひと月だ」
「またまたぁ〜、嘘が下手だって〜」
「…………」
「……マジで?」
静かに頷かれて、俺は顔を真っ青にする。
「ちょっ……旦那!?」
「お客様!!」
「お客様!!」
(ヒナコ……っ! イオリ……っ!)
気づけば俺は部屋を出て、長い廊下を走っていた。
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