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第94話 〜お兄ちゃんは親近感を覚えたようです〜

「ヒイラギ、と申します」


 (とび)色の髪に無精髭のはえた、ウサギ耳の男はそう名乗った。


「人の姿にウサギ(その)耳……もしかして、獣人(じゅうじん)……?」


 ヒイラギと名乗る男は、少しだけ口元を緩める。


「ご名答。噂通り、聡明なお方のようで」

「いやまぁ、見たまんまを直感で当てただけだけど……」

「ご謙遜を」


 ヒイラギさんはそう言うが……すみません。マジでただのオタク知識なんで、そんな風に言われると少し恥ずかしいです。


「じゅ、獣人風情(ふぜい)が調子に乗りやがって……!」

「ロキ様、並びに御三方。少々お時間をいただいても?」

「分かったよ」

「あ、あぁ……」


 そう言ってヒイラギさんは、リーダーの男の元へと近づく。


「貴殿が、この隊の指揮官で?」

「気安く話しかけるな、獣風情が!」


 一瞬、ヒイラギさんの眉が『ピクッ』と動い気がしたが、気のせいだろうか?

 ……と考えていれば、ヒイラギさんは胸元から一枚の手紙を取り出した。


「こちらは我が主から領主様へ宛てた、同じ内容のものが書かれたものでございます。どうぞ」

「……くっ!」


 リーダーの男はヒイラギさんから手紙を奪い取ると、裏返して顔を真っ青にする。そしてヒイラギさんと手紙を交互に見ながら、震えた手で恐る恐るという風に手紙の中身を読み始めた。


 そして……。


「……ひ、退け! お前ら、今すぐ退け!」

「ですが隊長、まだ魔族のガキが……」

「そんなガキなんて、どうでもいい! さっさと逃げ……引きあげるぞ!」

「はっ、はいっ!」


 そう言って、兵士たちは逃げるようにその場を去っていく。


「……ここは目立ちます。一旦、人気のない場所まで行きましょう」

「え? あ、はい……」




 何が起きているのかさっぱりな俺たちは、黙ってロキとヒイラギさんの後をついて行くしかなかった。




 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁




「改めまして。フレイファイア家の使用人が一人、ヒイラギと申します。以後お見知りおきを」


 ヒイラギさんは美しい所作で、丁寧に挨拶してくれた。


「あ、はい。神崎八尋です。こっちが妹の陽菜子で、そっちが……」

「和泉伊織と申します」


 俺たちは互いに名乗ってから手を出す。ヒイラギさんは一瞬驚いた顔をしてから、俺たちの手を握ってくれた。


「詳しいお話は我が主……それとロキ様とセージ様から伺っております」

「ロキとセージから?」


 俺は首を傾げながらロキを見る。

 ロキは少し気まずそうにしながら、わけを話してくれた。


「お前たちが魔獣騒動で、暴れまくったからな。良くも悪くも悪目立ちしすぎだ。……それに異世界人のお前らには、色々と助けてもらった恩もあるしな……」


 それはつまり――――。


「つまり『俺らの今後が心配だから、なんか偉い人にかけあってくれた』……ってコト?!」

「ロキロキ、やっさしぃー!」

「ち、ちげーよバカ!」

「照れんなよぉ〜、ロキっつぁん」

「照れてねーわ!」


 俺と妹がニマニマとしていれば、ロキは顔を真っ赤にして抗議し始める。


「ロキ様にセージ様以外の、良き友人ができたようで何よりです」


 ヒイラギさんがそう言うと、ロキは「けっ!」と睨みつける。


「おい、ヒイラギ。テメー、いつまでも猫かぶってんなよ」

「何をおっしゃいますか、大切なお客人の前です。失礼があっては……」

「あ、俺らそんなに身分とか立場とか全然高くないんで。ヒイラギさんも気楽にしてください。そっちの方が俺らも落ち着くんで」


 セージは仕方ないとして、こんな丁寧にされてばかりいると逆に恥ずかしくなってくる。


「ですが……」

「お願いします」

「……かしこまりました」


 そう言うとヒイラギさんは近くにあった木箱の上にドカッと座り、胸ポケットからタバコとマッチのようなものを取りだして吸い始めた。


「よぉ、ヒイラギだ。ってことで、よろしくな。旦那たち」

「わぁー。この世界に来て、ここまでキャラ変するヒト初めてだわー」

「変わり身がが凄いですね」

「大人って怖いね、ヒロくん」


 ヒイラギさんは『スパーッ』と吸った煙を吐き出す。


「正直、俺も堅苦しいのは苦手なんだ。お嬢の使いとして来たからには、それ相応の礼儀をしなくちゃならなかったからな。アンタが気を使うなって言ってくれて、本当に助かったぜ旦那」

「それはいいんだが……未成年たちの前で、そのタバコを吸うのだけはやめてもらえないか? 色々と悪影響を与えかねない」


 俺も非喫煙者だが仕事上、多少は慣れている。しかし子どもたちに何かあったら、保護者として困るからな。


「『タバコ』……? ……あぁ、この魔法薬のことか。悪いな、俺は体質的にコレを定期的に摂取しないといけないものだから……今後は気をつけよう」

「定期的にって……まぁ理由があるなら仕方ないけど、そこだけは頼んだわ」

「善処しよう」


 そう言ってすぐに携帯灰皿のようなものを取り出して消してくれるあたり、このヒイラギという人物はいいヒトなのだろう。


 俺のクソ上司は非喫煙所なのを注意すると、逆ギレこそすれば謝ることはなかったからな。

 当たり前だが、タバコの煙が苦手な人やアレルギーの人もいるんだ。紙でも電子でも、マナーはしっかり守ろう。


「ところで、さっきの手紙……なんって書いてあったんだ? なんか隊長とか呼ばれてたヤツ、読んですぐ逃げるように去ってったけど……」

「あぁ、あれか。あれは……」


 ヒイラギさんは一瞬だけ渋い顔をすると、「そうだな……」と口を開く。


「内容的には『ウチの子がかなりお世話になっているようで、大変助かってますわ。つきましては、どのくらいお世話してくださったか詳しくお聞きしても宜しくて? 是非とも、今度こちらからお礼に参りたいと思います。もちろん、こちらが勝手に参ることですので、もてなしは不要でございます。存分にお礼させてくださいませ♡』って感じだ。……が」

「『が』?」

「ロキさま風に要約すると『ウチの可愛い子どもたちが()()()お世話になったようで。どんな風に可愛がってくれたのか、詳しく聞かせてみろや? 内容によっちゃあ、テメーらの屋敷がどうなるか分かってるだろうな? お礼参りにいくから覚悟しとけや、クソッタレども♡』って感じだな」


 俺はそれを聞いた瞬間、この一週間の出来事が走馬灯のように流れた。

 手紙の内容に書かれた『ウチの可愛い子どもたち』は、恐らくロキとセージのことだろう。

 そしてロキの扱いがどんな風だったかなんて、先程の騒動でヒイラギさんは大体のことは察していることだろう。


「お嬢はたまに冗談なのか本気なのか、分からねぇことを言うからな……」


 先程渋い顔をしたのは、手紙の主であるフレイファイア公爵をどう止めようかと考えたからだろう。




 お互い、困った上司を持つと大変だよな。そう思うと俺は、自然とヒイラギさんに対して親近感を覚えたのだった。

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