第92話 〜お兄ちゃんは名前をつけたようです〜
「それじゃあ兄ちゃん、サクッとコイツに名前をつけてやりな」
「そんな『ちょっとお使いに行ってきな』みたいなノリで……」
俺は苦笑いしながら、木刀を受け取る。
実は今日まで、色々悩んでいた。
いの一番に思いついたのは、天然パーマな銀髪主人公の使ってる木刀の名だ。確かにあの名前なら、実際の地名としてもあるからなんかお偉いさん辺りにつつかれてもごまかせるだろう。
だが、そんな安直な考えでつけていいものだろうか? いいや、違うね。
これからこの異世界を無双する(予定)の俺の相棒だ。もっと愛着を持って決めなければ、コイツに失礼だ。
そんなこんなで結局、今日まで決められずにいたのだ……。
「ん〜、やっぱりなんかかっこいい名前にしてやりたいよなぁ〜……名刀の名前から取るか……それとも偉人の名前から取るか……」
名づけとは、こうも難しいものなのか。あの時『キミーなんて雑にも程がある名前』と、妹をバカにしたことを後悔する。なんだかんだで迷わずに名前をつけるって、案外難しいものだ。
試しに妹につけさせてみるか? いや、あの妹様のことだ。まともな名前になる気が全くしない。
伊織ならどうだろうか? 頭がいい分、色々と語彙も単語も知ってそうだ。
しかし、俺でさえここまで悩んでるんだ。あの真面目な伊織に頼んだら、それこそ真剣に考えすぎて変な責任を感じてしまうかもしれない。伊織の精神衛生もかね、これは却下だ。
「どうしたものかなぁ〜……」
「ヒロくん、ヒロくん。どったの〜?」
そうこう考えていると、妹がひょっこりと顔をのぞかせる。
せっかくだから俺は、妹の意見も聞いてみることにした。
「兄は今、この木刀の名前を決めかねているのだよ」
「ほへぇ〜」
「この異世界生活で、俺の相棒となる木刀だ。どんな名前がいいと思うよ?」
「ん〜、そうだねぇ〜……」
妹は木刀……俺の相棒を見ながら、少し考える素振りをする。
一分ほど考えた末に、ポンと手をならし……。
「閃いた!」
「おぉ」
「このこの名前は、ズバリ……」
そして相棒を指さして、こう叫ぶのだ。
「いつも『疲』れたヒロくんに、太郎の『郎』と『丸』で……『疲郎丸』! 今日からアナタは疲郎丸だよ!」
「色々とひでぇ名前だな!」
相変わらず妹の壊滅的なネーミングセンスの無さに、ツッコミを入れていると……木刀が淡く光りはじめる。
それを見たロキとカゾさんは……。
「あっ」
「おっ」
顔を突き合わせて、なんとも言えぬ表情をする。
「な、何? 二人してそんな顔して……」
「あー……なんだ、バカ兄貴……」
「おめでとうと言うか、なんと言うか……」
なんとも歯切れの悪い言い方に、俺は嫌な予感を覚える。
「ま、まさか……!?」
「ソイツの名前、その……『ヒローマル?』ってなったぞ」
俺は直ぐに、相棒の柄を見る。
そこには、見覚えのある字で『疲郎丸』と書かれていた。
「うっそぉーん!?」
「……? どうしたの三人とも?」
状況のわかっていない妹が、まぁ呑気そうに聞いてくる。
「ヒぃー、ナぁー、コぉー……」
「えっ、ヒロくん……どうしてそんなに怒った顔してるの……!?」
「ほっぺたムニィーの刑だぁぁぁぁぁ!!」
俺は妹の両頬を掴んで、引き伸ばす。
「イヒャャイヒャャャイッ! にゃにひゅんにょ!?」
「まぁ……今回はご愁傷さまってやつだな」
「にゃんれ!?」
俺は半ば泣きながら、気が済むまで妹の頬を引っ張り続けたのであった。






