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第83話 〜お兄ちゃんは腹パンされたようです〜

「なぁ、ロキっつあん。ものは試しに聞くんだが……あの水晶玉って、買おうと思ったらいくらくらいする? ……出来れば、俺でも分かりやすい例えでお願いします」


 俺は無謀なことだと理解してる上で、ロキにあの水晶玉の価値を聞いてみる。絶対高いのは分かっている……分かってはいるが、どれほどのものを、あんなにもあっさりと壊してしまったのか。当面の間この世界で生きていくのなら、冗談抜きで価値は知っておかなくてはいけない気がする。

 ありえないとは思うが、仮に国宝レベルとかだった場合。今後、もしそんなものをホイホイと壊してたら、即行で指名手配コースだ。そんなコースは当然、御免こうむる。


「魔力や属性を調べる道具は、基本的に高いからな。しかもあの水晶玉は、ババアの試作で作ったものの一つだ。試作だからもともと値段はついてないし、仮につけるとしたら……」

「つけるとしたら……?」


 ロキは顎に手を当てながら、「低く見積もったとして……」と少し考える。


「ババアほどはいかなくても、ババアより下の上位貴族連中の屋敷が一つ建つ上に、つりがくるな。まぁ頑張ってふっかければ、安い城も買えるんじゃないか?」


 ちょくちょくロキの口から出てくる『ババア』と呼ばれる女性の、貴族的立ち位置がどれくらい偉いのか凄いのか未だに分からない……が、これだけは分かる。


 日本の国宝がいくらかは知らないけど……この世界では屋敷を一つ建てておつりがきたり、安い城が買えるくらいにはかなり高い。俺の年収を一生費やしても返せない額、それだけは俺でもわかった。


「そっかぁ……頑張ったら城も買えちゃうのかぁ……」


 その事実に、俺はさらに深いため息をつく。

 そんな俺の服を、『ついつい』っと誰かが引っ張る。


 俺の服を引っ張った張本人は、我が妹であった。


「……どうした、ヒナ?」

「……ヒロくん……ヒナ、売られる……?」


 何故そうなる!?


 妹の謎の発言に内心では戸惑いながらも、俺の服を掴む妹の手が少し震えてることに気がつく。

 俺はしゃがんで、妹の顔をのぞき込むように首を傾げる。まぁ、当の妹はと言うと。紙袋を被っているので、直接顔は見れないのだが。


「……どうして、そう思ったんだ?」

「だって……シラギクさんにとって、すごく大事なもので……ロキロキの話を聞いてたら、すごく高いって……ヒナたち、お金も何もないから……」


(あー……なるほどな)


 シラギクの水晶玉を壊したことを、妹はかなり反省しているのだ。

 金も地位もなにも持たない俺たちは、シラギクに弁償する金も、詫びの代替品も……何も用意できないのだ。


 だから妹は自分が売られることで、少しでも弁償代の足しになればと考えたのだろう。


 そんな妹に、俺は――――――。


「ゔぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあか」


 と、言いながら頭にチョップする。


「いたぁっ!」

「お前、さてはバカだな? おバカさんだな? おバカさんだわ。やい、バーカバーカ、バーカバーカ、バーカバーカ」

「ば、バカじゃないもん!」

「いいや、バカだね。さんすう教室を受けるより、バカだわお前。バーカバーカ、バーカバーカ、バーカバーカ」


 怒った妹が『ポカポカ』と殴ってくるが、その間も俺は気にせずに「バーカバーカ」と繰り返し言い続ける。


「そもそもトラブルメーカーで引きこもりの、現代っ子なお前が売れるわけないだろ。仮に売れたとしても、少ししてから突き返される。最悪、引き取り料金とか取られるわ」

「ひ、ひどいっ……!」


 俺の容赦の無い言葉に、さすがの妹も『傷ついた』と言わんばかりに「ヒロくんのバーカ!」と、さらに殴ってくる。


「第一に、兄ちゃんが妹を売るわけないだろ」


 その言葉を聞いて、妹の拳がピタリと止まった。


「本当に……?」

「当たり前だろうが。この世界の常識は知らんが……少なくとも俺はお前を売る気はないし、売らせる気もない」


 てか、嫁に行かせる気もないしな。


「んなこと考えたり言うヤツは、兄ちゃんがボコボコにしてやんよ」

「ヒロくん、権力に弱いのに?」

「いやまぁ、権力はちょっと違う……あ、でも痛いの嫌だから、暴力的な怖い人もちょっと……」


 妹に痛いところをつかれた俺は口篭りながら、話の本筋に戻すために一度大きく咳払いをする。


「つまり! お前は俺の妹で、大事な家族だ。俺は家族を売るつもりはない! もちろん、伊織も同じだ!」

「本当に?」

「お兄ちゃんが、お前に嘘ついたことあったか?」

「この間ヒナのアイス食べたのに、食べてないって嘘ついた」



 あれは半年ほど前……疲れていたせいもあり、妹のアイスを食べたてしまったという事件があったのだ。

 どうやら妹様はその事件を、まだ根に持ってらっしゃるようだ。


 しかも妹のお気に入りのアイスだったということもあり、一週間ほど口を聞いてもらえなかったのはかなりキツかった。



「あの時は、マジですみませんでした……」


 人気がないということもあり、俺は妹様へ謝罪の土下座をする。マジで反省してるので、許してください。


 そんな俺を見下ろす妹はというと。

 腹を抱えながら、今にも笑い出すのを必死に堪えてるようだった。


「ふふ……あの後ヒロくん、ヒナが口を聞くまで……ふっ、毎日アイス買ってきたよね……! あははっ!」


 耐えきれなくなった妹が、近くにいたロキとセージに「聞いてよぉ〜!」と当時の詳細を語り始める。ロキはというと、何度も肩を叩かれる度に不機嫌そうな顔をするも、怒鳴ったり抵抗したりしないあたり……お前は本当にいいヤツだなロキっあん。


 あの事件を三人に話し終えた妹が、俺の元へと戻ってくる。

 土下座している俺をしゃがみこんで見ながら、妹は笑顔で言う。


「もう勝手にヒナのアイスを食べないなら、ヒロくんのことを信じてもいいよ!」

「あ、それは約束いたしかねます」




 こうして俺は、妹からの渾身の一撃を腹にくらったのだった。

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