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第74話 〜お兄ちゃんたちは引いたようです〜

「は……はははは、初め、まして……シラギク・クリザンテーム……と、ももも申し、ま、す……」


 肩まである白い髪に、黒い大きな帽子と装束を纏った、『魔女』もしくは『占い師』のような服装のシラギクと名乗る女性は、誰がどう見ても怯えながらそう答えた。

 それもそのはず。シラギクという女性は、店の床に正座させられた状態で、何故か睨みをきかせてイラついているロキにずっと見下ろされてるのだ。

 それはもう、蛇に睨まれた蛙……どころではない。もはや恐竜に睨まれた小動物のようだ。


「おいゴラァ、シラギク……さっきからなんで僕から目を逸らしてんだ? あ?」

「そ、そそそそそそ、そんな、こと……なっ、ななな、ない、ですよ……!」


 たしかに。先程からシラギクさんは、一度もロキと目を合わせていない。

 なんという徹底ぶりであろうか。


 ……まぁ、ロキの目つきは決して柔らかなものでは無い。ましてや、先程からどうしてだか機嫌が悪いのだ。俺がシラギクさんの立場だったら、きっとちびっちまうね。


「いやいや、ヒロくんの性格はかなり図太い方だから。これくらいじゃ、全然ちびったりなんかしないよ」

「ちょっと、おヒナさん? お兄ちゃんの心を勝手に読まないでもらえます? あと女の子が『ちびる』とか言ってはいけません!」


 俺の言葉に、妹はプイッと顔を逸らす。全く……そんなはしたない言葉、どこで覚えてくるんだか。……いや、原因は絶対俺だわ。


 一人で納得した俺は、異様に怯えるシラギクさんを見ながら、セージに耳打ちする。


「なぁ、セージ。どうしてシラギクさん……? は、あんなに怯えてるんだ?」


 俺からの問いに、セージは少し考えると口を開く。


「そうですね……理由は色々あるのですが、シラギク様はロキのように睨んだり怒鳴ったりと、威圧する人が怖いみたいです」

「おいゴラァ、セージ……テメェ、いい度胸してるな……?」


 セージさん、それは言ったらアカン。今まさに、機嫌が悪くなったロキの威圧が増しました。


 しかし、まぁ……たしかに、ロキは少し威圧的なところがある。威圧的な人間が得意な人間なんて、そうそういないだろう。それならロキみたいなタイプは、さぞかしシラギクさんには怖いタイプだろう。


「ですが、よく()()()()()()には、シラギク様の性格は『根暗』で『辛気臭い』らしいです。それでいて『執念深く』やり方が『陰湿』で、『ネチネチ』と『基本的に性格がねじ曲がっている』と言われてますね!」

「うぐっ……!!」


 多分、言葉の意味を分かっていないのだろう……そう笑顔で答えるセージの言葉が、容赦なくシラギクさんに突き刺さっていく。


「ストップ、セージ。刺さってる、めちゃくちゃ刺さってる。研ぎ澄まされたアサシンのナイフのような、鋭利な言葉のナイフがシラギクさんの心にグサグサと突き刺さってる」


 俺がセージを制止すると、さすがに引いたのだろうか……ロキが「お前……たまに容赦ねーよな」と小声で漏らす。


 純粋な奴からたまに放たれる悪意のない鋭い言葉ほど、心に突き刺さるものは無い。と、俺は改めて思った。


「そそそ、それで……今日は、その……どどど、どのような、ご要件……で……?」


 シラギクさんは胸を抑えながら震える声で、ロキにそう問いかける。

 ロキは小さく舌打ちすると、シラギクさんは『ビクッ!』と震える。


「……コイツらの魔力の量と、得意属性を調べに来た」


 ロキは後ろで控えていた俺たち三人を指さす。


「えっと……そちらの方たちは……?」


 シラギクさんはおずおずと俺たちへと視線を向ける。

 俺は一度、咳払いをすると自己紹介をする。


「あー、えっと。俺はこの二人の保護者の神崎八尋っていいます。この変なのがウチのいも…………いっっって!」


 俺がそう言いかけた瞬間、妹から無言で(すね)を蹴られる。


「いっ……妹の陽菜子と、こっちは幼なじみの伊織……っす」


 俺は脛を押さえながら、二人を紹介する。


「神崎、陽菜子……です」

「和泉伊織と申します」


 俺の脛を容赦なく蹴った妹は、思い出したように人見知りを発動しては伊織の後ろに隠れる。


「えっと、その……紙袋、は……?」


 シラギクさんは、首を傾げながら妹の紙袋を指さす。


「ヒナコ様はとても人見知りの方なのです」


 そう笑顔で答えるセージに、シラギクさんは「あ、そうなのですか……?」と、やや疑問を残しつつも納得してくれた。


「あ、改めまして。シラギク・クリザンテームと申します……」


 シラギクさんは、軽く頭を下げて挨拶をする。


「……で、コイツらは今、訳あって僕らが面倒見てる」

「えっ……ロキさんが面倒見てるんですか……?」


 シラギクさんは驚いたようにロキを見る。


「なんだよ、僕らが面倒見てるのがそんなに意外かよ?」


 その驚きに、ロキは不機嫌に眉を寄せる。

 するとシラギクさんは、「いや、だって……」と小声で震えながらロキを指さす。


「意外もなにも……あの大の人間嫌いなロキさんが、いかにもこんな訳ありそうなその人たちを! 一週間もなんの対価もなしに無償で保護して……その上、面倒なんか見るわけないじゃないですか!? バカにしてるんですか!? そんなの天地がひっくり返ってもありえないですよ! どこか頭でも強く打ったんですか!? なんのためにユーゼンさんのところに行ったんですか!? バカなんですか!?」


 捲し立てるようにそう言い切るシラギクさんに、ロキは「お前は僕をなんだと思ってるんだ?」と、引きつった笑みで額に薄らと青筋を立てている。


「だってあのロキさんですよ!? むしろ相手の身ぐるみを剥がして、問答無用で金品を根こそぎ奪ってこそでしょ!?」

「テメェ、僕に喧嘩売ってんのか……?」


 もはや怒りを通り越して呆れているロキのその姿を見て、俺は全てを察する。あー、あれかー。この人、自ら地雷源に飛び込んではタップダンスを踊って、相手の地雷をとことん踏み抜いていくタイプの人だ。


 それならロキのあの態度も、多少は頷ける。


(この人の場合、素で踏み抜いてるのか……それとも無自覚で踏み抜いてるのか……)


 どちらにしろ、めちゃくちゃ面倒臭いタイプの人間には違いない。俺はそう確信した。


「い・い・か・ら! さっさとコイツらの魔力量と属性を調べろ!!」

「イタタタタタタタタタ! 痛い! ロキさん! 凄く痛いです! ちょっ、これ以上は頭が割れますからぁぁぁああ!!」


 ロキにこめかみをグリグリと押さえられ、シラギクさんは泣きながら「ごめんなさい!!」と謝罪の言葉を叫んでいる。

 まぁ、ぶっちゃけ。さっきのは明らかに、シラギクさんが悪かったからやられても仕方ねーわ。


 しかし、先程のロキとシラギクさんの会話……どこが引っかかる。

 俺はふと、疑問をぶつけてみることにした。


「なぁ、シラギクさん。さっきのロキとの会話なんだが……なんで俺たちが『()()()()()()()()()()()()()()()()()』ってこと、()()()()んだ?」


 俺の質問に、シラギクさんはしどろもどろといった風に「えーっと……」と目を泳がせる。


「それはですね……いつでもロキさんから逃げ……身を隠せるように、ちょーっと……たまたま()()してただけで……」

「嘘つけ。テメェ、趣味は他人の『()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()』じゃねーか」

「そ、そんなことは……」

「現に、さっき僕たちがおっさんのところに行ってたことも。僕たちが来るのがわかった上で、『人払い』と『姿隠し』の魔法を使っただろう」

「いや、それは……」


 シラギクさんは、ロキの言葉にどんどん追い詰められていく。

 そしてロキは、次に()()()()()()を発する。


「何ならコイツ……お前ら三人がこの街に来てたこと、()()()()()()ずっと知ってたからな」


 ロキのその言葉を聞いて、俺たちは背筋が『ゾワッ……!』とするのがわかった。


「ちちち、違います! 街の平和と安全のために、私は自主的に街の様子を観察していただけで……! 決してロキさんの弱みを握って一泡吹かせようとか、新しい人の身辺を見て楽しんでたとか、たまたま着替えを覗いて『あ、このお兄さんたち、意外と体つきがいいな♡』とか! 全然! 全く! これっぽっちも思ってませんから!!」


 後半は完全に自滅である。

 俺と伊織は己の貞操の危機を感じ、後ろへと下がる。そして俺は伊織を……俺を珍しくも妹が両手を大きく広げて庇うポーズをする。


「シラギク様……」


 セージは困り顔で、シラギクさんの名を呼ぶ。


「人の着替えなどを覗くのは、限度があると思います。さすがに僕でもちょっと嫌……というか人としてそれは最低ですね」

「ふぐっ……!」


 セージからの、トドメの言葉だった。


「自業自得だ、ヴァーカ」

「うぅ……神官様の美しく純潔で清らかなそのお身体は、ロキさんと教会の加護が邪魔……じゃない。影響で、()()見れてないのに……」


 シラギクさんが、ボソッと小さな声で本音を漏らす。


(コイツ……隙あらばセージの裸を見ようとしてるのか……)


 俺たちはゴミを……いや、あえてここは『養豚場の豚を見る様な目』と言っておこう。

 そんな目でシラギクさん……いや、もう敬称はなしだ。なおもめげないシラギクを見下ろす。




 シラギクは床に突っ伏したまま、少しの間シクシクと涙を流していた。

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