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第69話 〜お兄ちゃんは怒涛の二日目を終えるようです〜 ★

 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁




 ……と、まぁ。こういった経緯があり、俺たち三人は目の前にいる二人から、それぞれ怒られているのだ。




 ちなみに、俺はロキがたまたま買ってきた痛み止めの薬のおかげで、腕の痛みはだいぶ治まっている。

 今日は魔獣騒動で、どこの診療所もいっぱいらしく。自業自得ということもあり、反省の意味を込めて……とりあえず今夜は薬で痛みを誤魔化して安静にし、明日の朝一で医者に見せることになった。




 そして、かれこれこのお説教は、昨日泊まっていた宿に戻ってから、小一時間ほど続いている。


「あまりこういう事は言いたくは無いですが……ヤヒロさんは私とヒナにとっては、唯一の社会人で年長者なのですから。もっと慎重に考えて、行動してください」

「いやぁ、もう本当に。全くもって、イオリ様のおっしゃる通りですわー」


 俺は適当に相槌を打っては、伊織をこれ以上怒らせないように務める。伊織はそんな俺の思考を、読んでか読まずしてか……眉間に皺を寄せながら『本当に分かってるのですか?』と、目が語っている。いやいや、勿論ですとも。


「それとヒナ。アナタはもっと、団体行動というものを学んでください。私たちにとってこの世界は、未知でしかないのですから。これ以上、私やヤヒロさんを困らせないでください」

「我は自由を愛し、束縛を嫌いし者……何人(なんぴと)たりとも、このヒナちゃんを縛ることは出来ない! ……というか、ぶっちゃけ好奇心には抗えません!!」


 立ち上がってポーズを決める妹は、清々しいほどそう断言する。

 いや、お前はマジでこの世界に来てからこれまでの行動、全てを反省しろ。


「アナタはもっと反省してください!!」


 俺の言いたかった言葉を、伊織が代弁する。本当だよ。


 しかしまぁ……伊織にこれだけこってり怒られても、悔い改めるどころか、むしろ開き直った妹。そんな妹に、俺は逆に敬意を示す。お前は本当に、己の欲に忠実だな。


 俺は妹を引っ張って半ば無理やり座らせると、伊織が頭を抱えながらため息をつく。


「はぁ……ヒナ、別に私はアナタの自由を奪い、縛りつけたい訳ではないんですよ? まだまだ分からないこの状況で、せめて『()()()()()()』だけはしっかりして欲しいんです」


 伊織は妹を諭すように、できるだけ優しい口調でそう言う。

 きっと伊織は、これ以上俺や妹を説教するのも、そろそろ終わらせたいのだろう。ここで妹が少しでも反省……または、納得さえしてくれれば、今にだって終わりそうな雰囲気だ。


 ……しかし、そんな伊織の精一杯の優しさを、知ってか知らずか。妹は少し考え込むと、『ポン!』と手を合わせては納得したように頷く。


 ――――――盛大な解釈違いで。


「なるほど、分かったよ! 元の世界に帰ったら、()()()()()を買ってくるよ! ……ヒロくんが!!」

「俺かーい!」


 俺は思わず「なんでやねん!」と、ツッコミを入れてしまう。

 一方の妹はというと、『タララタッタラ〜♪ タララ、タッタラ〜♪』と、どこぞのパイプをくわえた船乗りのパワーアップした時のBGMを歌いながら再び立ち上がり、俺を指さす。コラ、人を指さすんじゃありません。


「だってヒロくん、仕事の帰り道の途中でスーパーあったでしょ?」

「確かにあるな。あるけど、なんで俺なんだよ!」

「昔の人だって『もののついでに』とか言うじゃ、あーりませんか!」

「話の流れ的に、絶対意味が違うんだよ! なぁ、チャーリー!?」


 俺たち兄妹の、突然始まった不本意なコントに、伊織のお怒りパラメータは再び上昇する。


「『()告・()絡・()談』です!! ヤヒロさんも、ヒナのペースに乗らないでください!!」


 妹のせいで収まりかけていた伊織のお怒りが再び爆発し、俺はとばっちりを食らう。ホンマ、なんでやねん。


 最早ここまで来ると、わざとなのではないかとさえ思えてきて仕方ない。

 まぁ、ウチの妹は変なところで常識がないただのアホなので……素でボケてるということも、大いに有り得る。


「とにかく! コレからも、どんなことが起こるかわからないんです! 今日みたいに危ないことやトラブルには、首を突っ込まないようにしてください!!」

「はい、先生! トラブルからやってきた時は、どうすればいいですか!?」

「関わらないようにしてください!!」


 妹のアホな質問に、伊織は半ばやけくそに答える。一方の妹と言えば、「なるほど、かしこまっ☆」っと返事している。


 そろそろ伊織の胃とか血圧が心配になってきた俺は、左手で妹の頭を無表情でチョップする。


「いぃぃ……〜っっつたぁ〜!!」


 妹は頭を押え、ゴロゴロと床を左右に転がる。


「ヒロくん……っ、左を使うとは卑怯だよ……!」

「バーロー、右が負傷してんだから左でやるしかねーだろうが」

「だからといって、加減なしは……」

「十分加減しとるわ、アホ。それとも、もっと全力で頭をカチ割ったろーか?」


 そう言って俺は、風を切るように素早く素振りをする。

 それを見た妹は「ひぇっ……」と、小さく声をこぼしては、みるみる顔が青ざめていく。


「いいから今すぐ伊織に謝って、多少なりとも反省しろ。じゃないとな……」

「じゃ、じゃないと……?」


 俺は妹を冷ややかに見下ろしながら、()()()()()()()()()()を口にする。


「お前が今までやってきた携帯ゲーム、固定ゲーム、ソーシャルゲーム……全てのゲームのデータ、アカウントを抹消します」

「それはあんまりだぁぁぁぁぁぁぁああっ!!」


 妹は俺のTシャツの裾を掴んで、首を全力で横に振る。


「レベル上げとか、隠しルート攻略とか、期間限定キャラとか! 鬼畜仕様のゲームとか、無課金なりに頑張ったんです! それだけはやめてください!!」

「お前はそれだけの重罪を、昨日からずっと起こしてるんだ。情状(じょうじょう)酌量(しゃくりょう)の余地なしだ」

「そんなぁ……」


 妹は涙目で、助けを求めて伊織を見る。


「うぅっ、イオ……」

「うっ……!」


 さすがの伊織も、ここまで妹が落ち込むとは思わず……良心が痛むのだろう。俺は伊織に、『ここで絶対に折れるな』という意を込めて首を小さく振る。


 伊織は眉間の皺を掴むと、深いため息を吐く。そして少し考えた後に、妹と目線を合わせるようにしゃがむ。


「いいですか、ヒナ。私も鬼では無いので、アナタのこれまで頑張ってきたゲームのデータを、そう簡単に消したくはありません」

「ううっ……」

「ですので。元の世界に帰れるまで、三人でルールを決めましょう。これはアナタを縛るためのものではなく、アナタを()()()()のルールです」

「私を守るためのルール……?」


 伊織は「そうです」と、頷く。


「この世界は私たちにとって、まだまだ分からないことだらけです。……今はセージさんやロキさんが居てくれていますが、お二人とずっと一緒というわけにもいかないでしょう」


 確かに、伊織の言う通りだ。いつまでも二人に甘えて、迷惑をかけるわけにもいかない。どこかで、あの二人とも別れなければいけない日も来るのだ。


 妹はセージとロキの、二人を見る。


 セージは少し困り顔に、ロキはそっぽを向いていて表情は上手く読み取れない。


 そして見上げるように、俺へと視線を向ける。


「ヒナ、みんなとお別れしたくない……!」


 妹の瞳には、涙が溜まっていく。


「二人にだって帰る場所や、まだまだやることがあるんだ。いつまでも俺たちと一緒には居られないんだよ」


 俺は妹の頭を、わしゃわしゃと撫でる。


「……別に、今すぐ別れるってわけじゃねーんだ。そんなシケたツラしてると、不細工な顔がさらにブスになるぞ」


 ロキはそう、ぶっきらぼうに言うが……妹のことを気遣った、ロキなりの優しさだと俺は感じた。


「まぁ、僕らがこの街に留まってる間までは……もう少しだけ、付き合ってやってもいいよ」

「ロキロキぃ……!」


 そう頬を赤らめながら言うロキに、妹は思わず抱きつく。


「ばっ……! 暑苦しいから離れろ、アホヒナ!!」

「やだよー! 優しいロキロキからは、離れないよー♪」


 妹からしっかりホールドされたロキは、逃げ出す隙がなく……力尽くで離さないあたり、本当に分かりにくい優しさである。


「ふふっ、ロキは本当に素直じゃないですよね」

「うっせー、バカセー……って、なんでお前もくっ付くんだよ!?」

「ロキが僕以外の人と、こんなにも楽しそうにしてるのが嬉しいからです♪」

「な……っ!?」


 図星をつかれたのか、さらに顔を真っ赤にしたロキは、魚のように口をパクパクとする。


「よーし、これはノっとくしかないなー」

「ちょっ、ヤヒロさん!?」


 俺は伊織の腕を引っ張って、ロキたちを囲うようにホールドする。


「お……っ、前ら、なぁ……!!」


 とうとうロキの堪忍袋の緒が切れ、俺とセージはそれぞれ頭突きと腹に膝蹴りをお見舞される。

 だいぶ加減はされていたはずなのだろうが……なんということだろうか。俺の世界が、ものすごい勢いで回転する。


「ちょっ、ヒロくん!?」

「ヤヒロさん!?」


 フワフワする意識で、俺は床に倒れる。


「おい、バカ兄貴!」

「ヤヒロさん、しっかりしてくださ……」


 妹や伊織たちの、慌てるような声が遠くから聞こえる。


(あー……コレは、マジでやべーやつだわ……)



 

 今日一日の疲労もあり、俺の意識はそのままロストしたのだった。

こんにちは、斐古です。


更新が遅くなり、申し訳ございません。


「お兄ちゃんは『妹が!』心配です」は、先月の10月24日をもちまして、2周年目に突入しました!


こちらはその際に描いた記念イラストです。


これからもよろしくお願いします!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] みんな重症ですね! やり取りは楽しそうなのに内容の凄まじさよ! 更新お疲れ様です。次回も楽しみにしてます!
2021/11/28 16:26 退会済み
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