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第68話 〜お兄ちゃんは折れたようです〜

 腹の痛みが引いた俺は、立ち上がってセージへと顔を向ける。


「……なぁセージ、今のってお前の魔法か?」

「えっ?」


 首を傾げるセージに、俺は「いや、だって」と続ける。


「今のって『風の魔法』だろ? セージは『風属性』だってロキが言ってたし。それにさ、屋根から落ちたヒナを……」

「『屋根から落ちた』……?」


 伊織の呟きに、俺は「あっ、ヤベェ」と内心焦る。これはまだ、説明してなかった。


「えーっと……ほら! その時セージが何か『風よー』って唱えて、そしたら……」

「『落ちた』?」


 伊織からの「それは初耳ですよ?」という圧に、俺と妹は視線を逸らしながら「……えっと、後ほどご説明させていただきます」と言って、話を無理やり戻す。


「……まぁ、あんな感じでさ。今俺が倒れないように、魔法使ってくれたんだろ? 助かったよ」

「えっ? いえ、僕は魔法は……」


 セージが何かを言いかけた時、妹が突然叫び出す。


「ピッコーン! ヒナちゃん閃いた!!」


 天に向かって指を突き出した妹が、そのままピースサインを額に当てては『きゅるん』と効果音がなりそうなキメ顔を決める。

 そんな妹を、俺は無表情に妹を見る。どうせろくな事じゃないだろう。


「おー、絶対ろくな事ではないだろうが、一応は聞いてやろうぞ、妹よ」

「酷いですぞ! お兄様! この超絶美少女で、可愛い妹の天才的発想! とくと聞くがいい!!」

「お前……自分で言って、本当に虚しくないのか?」


 俺の言葉を無視した妹は、腰に手を当てて「ふっふっふーん!」と笑い出す。いいからはよ言え。


「ズバリ! この世界には魔法がある……だったらいっそのこと、()()()()()()()()()なんてどうでしょうか! お兄様!!」


 妹からの予想外の提案に、その場の全員が固まる。

 一人は怪訝そうに、一人は驚いたように。


 そして、俺はと言うと……。


「その発想は……なかった……!」


 妹の発想に、悔しさを滲ませる。


「どうだい、ヒロくん。この賢い妹の、発想力は!」

「そうだ、ココは魔法の存在する世界……ちょっと考えれば、分かる事じゃないか!!」


 俺は突っ伏して、地面を殴る。


「それをこんな……おバカで、ちょっと……いや、かなり残念な妹に気付かされるなんて……!」

「おいコラ、ふざけんなですわよお兄様」


(ヒナが黒い剣に刺されて、気を失っていた時……確かに、()()()()()()()()()()()()()、よな……?)


 俺はチラッと、()()()()に視線を向ける。その人物は俺の視線に気づくと、『ビクッ!』と肩を跳ねさせる。すかさず俺は、その人物の肩を掴んで『逃さん』ばかりの眼力で顔をのぞき込む。


「……なぁ、セージ……お前たしか、妹に治癒魔法をかけようとしてたよな……?」

「あの、その……」

「もしかしなくても。治癒魔法、使えたりするか……?」

「えーっと……」


 必死に、顔を逸らそうとするセージ。しかし、セージの逸らした先には、妹の姿があった。


「セージさん、治癒魔法使えるの……?」


 瞳をキラキラと輝かせた妹、そして目の前には俺。

 セージは俺と妹を交互に見ながら、どうしたものかと考える。




 ――――冷静に考えた時、『あの時のセージは、かなり困ったのだろうな』と、後の俺は語る。




 当然、この時の俺は何も気づかず、妹と共に期待の眼差しをセージに向ける。

 ……そんなセージに唯一気づいた伊織が、俺と妹を止めに入る。


「待ってください、二人とも。セージさんが困ってますよ。……それに、魔法とか……そんな非現実的で科学的根拠のないものが、本当に存在するとでも!?」


 伊織の言葉に、俺と妹は反論する。そういえば、伊織は魔法道具は見ていても、実際に魔法を使うところを未だに見てはいないのだ。


「いやいや、待ちたまえ伊織くん。この世界は確かに、魔法が存在する世界なのだよ。なぁ? 妹よ?」

「そうだよ、伊織くん。この世界は本当に、魔法が存在する世界なのだよ。ロキロキだって、魔法を使ってたんだから!」


 伊織は眉間に深いシワを刻みながら、確認するようにセージへと視線を移す。


「セージさん……本当に、魔法なんて存在するのですか?」

「え、えぇ……昨夜お話した通り、魔法自体は存在します。僕も多少なりとも、魔法は学んでは……」

「やっぱりセージさんも、魔法が使えるの!?」


 妹からの期待と尊敬の眼差しに、セージの表情がどんどん曇っていく。


「で、ですが、その……僕はあまり魔法は……」

「魔法、使っちゃダメなの……?」


 シュンとする妹に、セージはうろたえる。どうしたものか、考えているようだ。


(……そういえば。魔法って、人によってたまにスゲー反動があったりするんだよな)


 例えば、普段大人しいやつがいざ戦闘をすると、何かの拍子にスイッチが入って戦闘狂になってしまい、歯止めが効かなかったり。

 はたまた、魔力が少ない状態で魔力を振り絞って戦うと吐血したり、身体中から血が吹き出したりとか。


「もしかしてセージ……魔法を使ったら、なんかスゲー身体とか、精神に影響とか出る体質だったりするのか?」


 もしそうだとしたら、セージのこの反応も納得がいく。


「い、いえ、そういう訳では無いのですが……」


 どうやら、そういった心配はないらしい。よかった、よかった。


「じゃあ使えるんだね!」


 妹は再び、キラキラと目を輝かせる。その眼差しが、セージにはとても辛いものだった。


「ううっ……で、でも、ロキが……」


 ロキの名を口にするセージに、俺は何かが引っかかって首を傾げる。


「なんでロ……」

「大丈夫だよ!」


 俺の質問を遮るように、妹が口を開く。


「ロキロキだって、セージさんがヒロくんのケガを治したって知ったら、ビックリして褒めてくれるよ!!」

「ロキが、ですか……?」

「きっとそうだよ!」


 妹は鼻息を荒らげながら、何度も頷く。セージも、少し考える素振りをすると「そう……ですかね?」と呟く。その顔は『ロキに褒めてもらえるかも』という、期待に満ちた表情だ。


「ぼ、僕……頑張ってみます!」


 両手で拳をギュッと握り、セージはやる気満々だ。


「その意気やよし!」と、どうしてだか偉そうな妹は「頑張れー、セージさん!」と、セージを応援し始める。

 セージは俺の元に近づくと、怪我している右腕に向けて、そっと手をかざす。

 どこか緊張しているセージは、一度深く息を吸い込むと、ゆっくりと吐き出す。


「で、出来るだけ失敗しないように頑張ります……!」

「あぁ、頼んだぞセージ……って、え? 『()()()()()()()()()()()()()』……?」


 何やら不穏な言葉が聞こえた気がした。

 そこで俺は、所々とある会話を思い出したのだ。




『ロキ! 今、回復魔法を……!』

『止めろバカセージ、これくらいほっといてもすぐ治る。……それに、お前がやると悪化するだろうが』




 とか。




『僕の魔力が暴走する前に』




 とか。




『いいかセージ。絶対に、()()()()()()()()()()()?』




 ……と、言う会話。


 何となく、魔法への興味が勝ってしまい、忘れかけてたが……俺はすごーく嫌な予感がした。


「な、なぁセージ。ちょっと、待っ……」

「《ヒール》……!」


 セージは集中するようにまぶたを閉じると、そう唱える。すると、淡い光がセージの手のひらから発せられる。それと同時に――――。




 ――――ボキッ。




 ……『ボキッ』?


 鈍い音がした。まるで何かが、折れたような。そんな音だった。

 何より恐ろしかったのは、その音が一度では止まらずに、何度も何度も鳴り響いたことだ。




 ――――ボキッ、ゴキッ。


 ――――ボキゴキ、ガキッ!!




 約一名を除き、その場にいる全員の顔が、一気に真っ青になる。


「せっ、セージさん! ストップ、ストップぅぅぅッ!!」

「セージさん! もういいです! それ以上はダメです!!」


 慌てて妹と伊織が、セージを止める。

 それはどうしてか?

 なぜなら、それは――――。


()()()()! めっちゃ()()()()から!!」


 妹がセージの肩を掴んで、前後に揺らす。

 そこでようやく、セージは瞼を開いて魔法を解除する。


 そう、俺の右腕は今、関節が数え切れないほど増え……否、バキバキに折れている。


「あっ、えっと……」


 気づいたセージが、口元を両手で押えて同じく顔を真っ青にする。


 人間とは、何と不自由な生き物か……。

 予想外の出来事が起きると、驚きすぎて思考回路が停止し、反応が遅れる。そして、一瞬の間を置いて思考が周り、認識してしまうと、遅れてやってくる。


「いぃ……っづ!?」


 遅れてやってきた痛みに、俺は右腕をおさえながら前方に倒れる。激痛すぎて、全身から脂汗が出る。まともに声も出ない。


「ぜッ……セージ……っ!?」


 何が起きたのか整理するために、俺は絞り出すようにセージの名を呼ぶ。セージは「本当に申し訳ない」と言うように、何度も頭を下げる。


「す、すみません、ヤヒロさん! その……」

「何やってんだ、お前ら?」


 セージの言葉を遮るように、路地の入口……俺たちの視線の先に、一人の子供が立っている。

 外見が子供ということもあり、普段高めの声は、今は驚くほど低い声へと変わっている。

 暗くて表情は分からないが、声色だけで十分分かる。かなり()()()()()


 俺は「何と最悪なタイミングで、戻ってきてしまったのだろう……」と、内心思いながらも、この後どうなるのかが簡単に想像がつく。

 そのため、痛みを我慢しながら、必死に声を絞り出そうと口を開く。


「待て、ロ……」

「何やってんだ、クっソバカセージがァァァァァァァァ!!」


 ロキは容赦なく、セージの顔面に拳を叩きつける。

 そのままセージは数メートルほど吹っ飛び、空の木箱を破壊してはクッション代わりにしてようやく止まった。


 それでもロキの怒りは収まらず、自分で吹っ飛ばしたセージの胸ぐらを掴む。


「おいコラ、バカセージ。僕は言ったよな? 『絶対に、()()()()()()()()()()()?』……って? なぁ? 言ったよなぁ!?」


 ロキは俺を指さしながら、セージに怒鳴る。


「なのに、なんであのバカ兄貴のケガが悪化してんだ!! アァ!?」

「うぅっ……ゴメンよ、ロキぃ……」


 セージは今にも消え入りそうな声で、ロキに謝る。


「ロキロキ、落ち着いて……セージさんは悪くな……」

「黙れアホヒナ」


 ロキが人を殺せそうなほど鋭い目で、妹を睨みつける。さすがの妹も、その鋭い眼光にたじろぐ。


「テメーら全員、後で覚えてろよ」


 セージの胸ぐらを離し、ロキの舌打ちが路地に響き渡る。


「木を見て森を見ずとは、こういうことですね……」


 伊織の眉間のシワとため息が、さらに深くなる。


「楽をしようとするから、こうなるんですよ。ロキさんに便乗する訳では無いですが……これを機に、私も色々と問いただしたいと思います。……いいですね?」

「「はい……」」




 俺と妹、そしてセージの三人は……こうして冒頭の、二人からのお説教を受けるのだった……。

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