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第67話 〜お兄ちゃんは妹ちゃんの攻撃を回避するようです〜

 セージとの会話を終え、俺たちは二人の元へと戻る。


 これはもう、完全にイジりに入ったのだろう。未だに止めない妹の視線を無視して、俺は伊織へと近づく。


「まぁ、あれだ……本当に大したことは無いんだ。そこのおバカな妹様のせいで、ちょっと傷口が開いちまったが……ほら、ちゃんと腕だって上がる上がる」


 そう言いながら、伊織に「大丈夫だ」とアピールするために、笑いながら腕を何度か回す。本当はまだ痛いけど……伊織を安心させるためならば、これくらいの痛みは全然大した痛みじゃない。


 伊織は怪訝そうな顔をしながらも、渋々納得したかのようにため息をつく。


「……分かりました、ヤヒロさんの言葉を信じましょう。……ですがヤヒロさん。本当に無理や無茶はしないでください。アナタの身に何かあってからでは、遅いのですから……」

「分かってるよ、イオ。次からは気をつける」


 ……というか、俺も次があるのは御免被(ごめんこうむ)る。俺はこう見えて、かなりデリケートな生き物なんだ。これ以上痛い思いや、辛い思いをするのは二度とゴメンだ。


「よし、とりあえず……ロキが戻ってくるまで大人しくするぞ。分かったかー? そこのおバカな妹よ」

「むむっ。『バカ』って言う方が『バカ』なんだよ! ヒロくん!」


 妹は猫のように「シャーッ!!」と声を出して、俺を威嚇する。


 いや、お前。疲れてる兄ちゃんに『腕ひしぎ十字固め』……しかも、怪我してる方の腕に決めるか? 普通決めんだろう。


「おバカな子に『バカ』と言って何がおかしい、我がおバカな妹よ。兄ちゃん危うくスキップしながら川を渡って、お花畑で花冠作るところだったぞ」


 俺がそう言うと、妹は「えっ!?」と、驚いた顔をする。


(おっ……? 珍しく素直に、少しはお兄ちゃんの心配でもしてくれるのか?)


 ……何て、一瞬思ったりもしてみが……。妹は口元に手を当て、それはそれは残念なものを見るように、これでもかと眉を寄せる。


「ヒロくんとお花畑とか……似合わなすぎるよ」

「……うん、まぁ……それは兄ちゃんも、ちょっと思ったわ……」


 この妹が少しでも心配してくれると、期待した俺が馬鹿だった。

 この妹は、悲しいくらいに通常運転だった。


「妹よ……兄は悲しいぞ。こんな薄情な妹に、育ってしまったことに……」


 俺は舞台役者のように、大袈裟にわざとらしくそう言っては、「およおよ」と涙を拭うふりをする。

 そしてチラッと妹を見れば……腕を左右交互に伸ばし、指を小さくポキポキと鳴らしている。あっ、ヤベェ。


「……とりあえず、もう一回右腕(その腕)……締めてみる?」


 妹は少し重心を落として構え始める。マジで、ヤベェぞ、コレ。目がガチだ。


「おいおい、我が妹よ。こんな優しいお兄ちゃんにそんな酷いことを……って、冗談です! 待って、怪我してる方はマジでやめろ。本当は凄く痛いから、ホント、マジで、やめてください!」


 俺は伸びてくる妹の腕を避けながら、懇願する。


 普段は運動なんかしないくせに、年一で行われる体力テストでは、何故だか毎回、敏捷性(びんしょうせい)だけは、異様に高い数値を叩き出している妹。


 そんな妹が……的確に俺の右腕だけを狙ってくる。この繰り出される素早い手の動き……俺でなきゃ見逃しちゃうね!


「待て待て、妹よ。兄ちゃんが悪かった……だから、な? 傷口に塩どころか、杭を打ち込んでえぐるようなことはせずに、ココは穏便に話し合おうじゃないか!?」

「はっはっはっ! 話し合いで和解しようなど……もう遅い!!」


 妹のその言葉に、思わず「お前はどこの『もう遅い系の主人公』だ!?」とツッこんでしまう。


 思い出して欲しい。ココは人気の少ない路地裏。そして明かりが少なく、全体的に薄暗い。

 妹の攻撃を(かわ)すことに集中しすぎて、足元がお留守になる。

 俺は何か丸くて硬いものを踏んでしまい、バランスを崩してしまう。


「ヤヒロさん! 危ない!」


 セージが慌てたように声を上げる。


「げっ……!」

「もらったぁ!!」


 俺が「倒れる!」と思った瞬間――――『フワッ』と、何かが身体を支えられる。それは手や壁などとは違う、柔らかな感触。そう、これはまるで――――。


「……うぉっ?」


 不思議な感覚に驚いているのも束の間、俺が倒れなかったために、妹が顔面から俺の腹に突っ込んでくる。


「ぎゃん!」

「ぐえっ!」


 ギリギリみぞおちや胃は回避したが、なにぶん勢いがそこそこあったがために痛い。

 俺は腹を、妹は顔を抑えて互いに悶える。


「何やってるんですか、二人とも……」


 その光景を終始見ていた伊織が、頭を抱えながら盛大なため息をつくのが聞こえてくる。


「いや、俺全然悪くない……」

「ノォン……! 鼻とデコがぁ……!」

「どっちもどっちです」




 伊織からの冷たい一言に、小声で「理不尽……」と呟きながら、腹の痛みが治まるのをじっと耐えるのだった。

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