表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/96

第66話 〜お兄ちゃんは心を痛めるようです〜

 どうにか頼みに頼み倒して、セージを黙らせることに成功した俺は、謎に疲弊していた。


 そしてうるうると瞳を潤ませながら、捨てられた子犬のようにしょんぼりとしたセージを、二人から少し離れた場所に引きずる。


「あの、ヤヒロさん、どうしたのですか? 僕は何か、変なこと言いましたか?」

「あーうん、君は何も間違ってない、間違ってはいないと思うぞ……? でもな、セージ? お兄さんの今まで頑張って築き上げてきたキャラ的には、とてもとーっても不自然なんだよなー……」


 見てみなさい、あの二人を。俺に対して不審な目を、未だにやめてないじゃないか! そろそろお兄さん本気で泣いちゃうから、二人ともその目をお願いだからやめなさい!!


 そんな俺のことなど露知らず。セージは困り顔だが、真っ直ぐに俺を見る。


「でも、ヤヒロさんもヒナコ様も家族ですし……家族が互いに心配し合うのは、なにも不自然なことではないと思います」


 セージの純度百パーセントの優しさとド正論に、ちょっと意地を張ろうとした、俺の不純度ほぼ百パーセントの汚い心には、グサグサと突き刺さる。


「そう、そうね……家族は大事にしないとね。……でもな、セージ。人は時に、貫き通さなくてはいけない『プライド』というものがあるのだよ」

「ぷ、『プライド』? ですか……?」


 俺は腕を組んで、力強く頷く。


「そう、『プライド』。あの二人の保護者としての、言わば誇りだよ。保護者……いや、年長者というのは、常に下の子たちにとって、頼りになる存在であるべきなのだ。だからな、もし俺が弱さを見せてしまって、それであの二人に不安な思いをさせる訳にはいかない……。これは所謂、俺にとっては責務であり、義務なんだよ」


 俺は『グッ!』と親指を立ててセージを説得……否、この際正直に言えば、社会の荒波で汚れきった俺の心に、セージのこの純粋さは色々と来るものがある。よって、この会話を強制終了するために、俺はそれっぽい理由と理屈でセージを丸め込もうと考えた。頼むセージくん。お兄さんの為にも、ここで引き下がってくれ。


 しかしまぁ、セージくん。予想通りというか、なんと言うか……『パーッ!!』と顔を明るくしたかと思えば、両手を合わせて納得したように頷く。


「なるほど、流石はヤヒロさんです! ヒナコ様とイオリ様にとって、ヤヒロさんは言わば先導者……。泣いていた事を隠すのはただ恥ずかしさからではなく、強く頼もしい姿を見せることで、お二人を安心させるため。つまり、常にお二人を案じてのことだったのですね!」

「え? あ、うんうん、そういう事ダヨー! いやー、流石セージくん。話が早くて助かるヨー!」


 セージの肩をバシバシと叩きながら、あまりのポジティブさと純粋さに、俺はズキズキと良心が痛む。何だ、この罪悪感は……!?


 ……だが次の瞬間、セージは再び捨てられた子犬のようにしょんぼりとし始める。え? ちょっと待って、何で?


「……それなのに僕は、そんなヤヒロさんの気遣いに気づかずに、余計なことを……なんと謝罪したら……!」


 今にも『セージ・イクスフォルが、腹を切ってお詫び致します』とでも、言わんばかりの勢いに、俺は内心慌てる。


「えっ、えっ……!? えっ、いや、えーっと……ま、間違いは誰にでもあるって! それにほら! 『一を聞いて十を知る』とか言うけどさ! 人間、全てを察するなんて、探偵とかそっち系の本職の人じゃない限り、そもそも無理だから! だから気にするなって! な!?」


 俺は引きつった笑みで、必死にセージを必死に励ました。あー! 泣くなセージぃ! お兄さんのSAN(サン)値は、もうピンチよ!? 混沌(カオス)(しもべ)になっちゃうよ!?


 ……というか、こんな所をロキに見られてみろ。確実に胸ぐら掴まれて、一発蹴りか拳が飛んでくるぞ。


 俺の必死の励ましのおかげか……セージの表情が柔らかくなる。そして、まるで神でも見るかのように両手を合わせ、澄み切った……いや、子供のようなキラキラしたお目目で俺を見る。


「なんと……こんな僕に、ヤヒロさんは慈悲をお与えくださるのですか……?」

「いや、そんな大層なことじゃないけど!? ……でも、まぁ、セージが元気になるなら、お兄さんいくらでもあげちゃう!!」


 こんな俺のお情けなんかでいいなら、大安売りのバーゲンセールだ。なんなら出血大サービスで、頭も撫でちゃうぞ!?


「ありがとうございます、ヤヒロさん。このご恩は一生忘れません」


 そう言って涙を指でふき取り、セージはいつもの笑顔になる。

 俺はホッとしつつも、セージのこの純粋さが心配になってくる。ずっと思ってたけど、君は純粋すぎやしないか?


 ロキの気持ちが、改めてわかる。そりゃあ、こんだけ素直で純粋な子とずっといるんだ。ロキの警戒心が強いのも、お兄さん納得しちゃう。


「大袈裟すぎるな……そんな大層な事でもないし、なんなら今すぐ忘れてくれてもいいんだぜ?」


 というか、むしろ今すぐにでも忘れて欲しい。




 こんな事で一生忘れられない恩とか、お兄さんにはちょっと荷が重すぎます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
面白い!気になる!と思ったら( 。・ω・。)ノ 凸ポチッ
小説家になろう 勝手にランキング

小説家になろうアンテナ&ランキング
小説家になろうSNSシェアツール
感想・考察・ブックマーク・評価・レビュー、etc…
お気軽にいただけたら嬉しいです!よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ