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第64話 〜お兄ちゃんは呆れてため息をつくようです~

 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁






「いっ、ててて……。お前、よりによって右腕に、腕ひしぎ十字固め決めるかよ!?」

「可愛い妹を、いつまでもおちょくるのが悪いのですよ。お兄様?」


 思わぬ妹からの反撃をうけ、俺は道化師にやられた右腕を押える。


「全く、この兄妹は……。ヤヒロさん、ヒナをからかうのも程々にしてください。怪我してからでは、遅いんですよ?」


 額に手を当てながら、伊織が呆れ混じりにため息をつく。


「いやいや、ぶっちゃけ。もう、怪我はしてるんだけどな〜」

「えっ……、怪我してるんですか……!?」


 伊織の反応に、俺は口を滑らせた事に対し「あっ、やっべぇっ!」と、内心焦る。


「どこですか!? 見せてください!!」

「いや……た、大した怪我じゃねーよ」

「右腕らしいですよ?」

「ちょっ、ばっ……! セージ!!」


 伊織を心配させまいと黙っていたのを、あっさりとセージに暴露される。一方セージは、まさかわざと黙っていたとは露知らず、俺の反応に首を傾げる仕草をする。


「ホント、大したことな……っ、いっ……いぃいだだだだだっ!!」


 確認するように、伊織は直ぐに俺の右腕を掴むと、上着を剥ぎ取っては『グイッ!』と袖をまくる。すると、巻かれた布からは、赤いシミがじんわりと滲んでいた。

 ここに来る前に、一応ロキに応急で処置してもらっていた。……とはいってもだ。先程の十字固めによる圧迫によって、開いたのであろう。傷口からは、再び出血していたのだ。


「……っ! どうして黙っていたんですか!?」

「いや、それは……」


『伊織を、心配させたくなかったから』と言いかけるのを、俺は無意識に飲み込んでしまう。

 伊織の本気の心配と焦りの入り交じった顔を見て、初めて自分の考えが軽率で愚かだったこと……。そしてこれらは俺のエゴであって、伊織に黙ってていい理由にはならなかったからだ。


「……悪い、伊織に変な心配をかけたくなかったんだ」

「……いえ、ロキさんがやたら優しかったところで、私も気づくべきでした……」


 俺の気持ちも、察しのいい伊織は分からなくもないのだろう。伊織はそれ以上、俺を責めたてることはしなかった。

 そして再び額に手を当て、眉間に深いシワを作りながら、伊織は深いため息をついた。


「……他に、怪我とか。何か、隠してることはありませんか?」


 伊織は確認するように、俺たち一人一人を見る。


(どうする? 正直に言うべきか、言わぬべきか……)


 この中で、伊織が最も心配……いや、下手したら卒倒するであろう事案……。


(本人が一番、ケロッとしてるからな……)


 言わなきゃバレない……だが、今言わなきゃ絶対に後で伊織からのお怒りが、凄まじいものに変化する。


 だからこそだ。どのタイミングで言うか。そう、いつ言うか? 今でしょう。




 ――――――……し。もし、も……し。もしもーし? テス、テース!――――――


 はいきた、はいでた。予想通りだなぁ! お前って奴はよォ!!


 俺は渋い顔で、こめかみの辺りに軽く手を添える。そして脳内に、直接声を送ってきたであろう人物……もとい、我が妹を見ながら、俺はなんとも言えない複雑な表情をする。


 ――――――わーたーしーのーコーエーがー、聞ーコーエーマースーカー!?――――――


 まるで脳内に、直接拡声器で叫ばれるような大音量の声が響き渡り、正直耳を塞ぎたくなる。が、俺はしない。だってそんなことをしたって、直接脳内に語りかけられてるんだ。つまり、その行動はもはや無意味だからな!!


 ――――――……あ~、ハイハイ。どうしたよ、我が妹よ?――――――


 俺は渋々、妹へ返答のテレパシーを送り返す。


 ――――――単刀直入に申し上げる。あの変な人に刺された事は、イオに正直に言うべきか! それとも、言わぬべきか!?――――――


 予想内の質問に、俺は速攻で答える。


 ――――――妹よ、答えは……『YES』、だ!!――――――


 俺の返答に、妹は雷にでも打たれたかのような、あからさまに『マジかよ!?』と、衝撃を受けたような表情をする。


 ――――――えぇ!? イオ、絶対に心配するよ!?――――――

 ――――――ここで黙ってても、後でバレたら即座に説教確定コースだぞ?――――――

 ――――――それはそれでいやだぁぁぁあ!!――――――


 苦悩する我々兄妹のことはよそに、伊織はセージを心配する。


「セージさんは、どこかお怪我は?」

「そうですね……自分で転んだ事と、突然現れた謎の方に、横っ腹を蹴られて軽く飛ばされたくらいで……。他は、特に問題は無いですね」


 本当に何事も無かったかのように笑うセージに対し、伊織は眉間に寄ったシワを掴みながら、渋い顔をする。


「前者は自業自得として……。蹴り飛ばされたというのは、深刻な問題なのでは!?」


 心配する伊織に、セージは「大丈夫ですよぉ~、普段ロキにたくさん殴られたり蹴られたり飛ばされてますから♪」と、サラッと笑顔で答える。

 そんなセージに、根が真面目な伊織が(別の意味で)心配しないはずもなく……伊織は真剣な表情でセージの肩を掴む。


「あの、部外者の私が言うのもなんですけど……イジメやDV被害などは、しっかりと相談できる相手の確保。また、自分から周りに助けを求める勇気も、時には大切ですからね?」

「イジメ……? や、でぃーぶい……? は、よく分かりませんが……ロキは素直じゃないだけで、とても優しい子ですよ♪」


(あー、ダメだあれ。完全に話が噛み合ってねーわ)


 真剣な顔付きの伊織と、ニコニコ笑顔のセージとの対比といったら……見てる分には面白いが、確かにロキはやり過ぎな面もなくもない。


「まーあれだ、セージ。何か相談や、辛くなったら俺たちを頼るといい。いいな?」

「……? はい!」


 意味は理解していないだろうが、セージは元気よく返事をする。しかし、まぁ……本当に、返事だけはいいな君は!!


 ……と、セージについて心配していた俺たちだが。一番厄介なことになっていたヤツを、俺は忘れてはいない。

 一番厄介なことになっていたヤツ……もとい我が妹は、まるで覚悟を決めたかのように、静かに瞼を伏せていた。

 そんな妹の不審な行動に対し、特に気づかない伊織は……妹を見ては、安心したように息を吐く。


「ヒナは……ザッと見た感じでは、特に怪我とかはなさそう……」

「……いいかね、伊織くん。今から私が言うことに、決して動揺してはいけないのだよ」


 妹の口調に「誰やねん、お前」と、内心ツッコミつつも。……俺は妹がこれから口にする言葉に、伊織がどう反応するのかを静かに伺う。


 妹は、深く息を吐き出しては吸い込む。そして『キッ!』と目を開けては、伊織を睨みつけるように見る。

 そんな妹の行動に、伊織は『ゴクリ』と喉を鳴らしては、思わず身構える。

 察しのいい、真面目な伊織のことだ……。妹の謎の圧と共に、何か大切なことを言い出すのだろうと勘づいたのだろう。先程まで安心していた表情とはうってかわり、今度は真剣な顔に戻る。

 俺自身も、妹がどう出るのかを無言で見守る。もし伊織が心配のし過ぎで卒倒した日には……今後、俺たちがこの世界で生きていく方向性が決まる。


(頼んだぞ妹よ……上手く伊織を心配させ過ぎずに、真実を告げるんだ……!)


「実はね……」


 妹の静かな声色に、伊織は不安そうな表情を浮かべる。


「ヒナ……アナタ、まさか……!?」


 そう、その『まさか』である。故に俺は、二人の様子を静かに見守る。


 そんな中、妹は静かに片手を上げる。


 そして己の額にゆっくりと近づけ、人差し指と中指をピンと伸ばし――――。




「変な格好の人に、胸元を剣で『グッサーッ!』と刺されたぉ☆」




 片目を閉じ……というか、ウインクになりきれていない引きつった笑顔で、額横にピースサインをする。

 妹は、それはそれは今にも『テヘペロ☆』と、効果音が聞こえてきそうなほどの、なんとも軽い口調で言い切ったのだ。


 それによって、この場を重苦しい沈黙の空気が支配することなど、俺がわざわざ説明せずとも容易に想像がつくことだろう。故に、俺はこの場の状況を深く説明することなどしない。ましてや、する気などさらさらない。




 とりあえず俺は、内心ではそれはそれは深ーいため息をついたのだった。

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