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第62話 〜お兄ちゃんは大きな勘違いするようです〜

「元気百倍! ヒナちゃんだーい!」


 妹は腰に手を当てながら、額にピースサインのポーズをして、見事に復活した。


「おー、蘇ったか」

「良かったですね」


 反応の薄い俺と伊織とは違って、セージが笑顔でパチパチと手を叩いて、妹の復活を祝福している。


「神崎陽菜子、無事に復活の儀式に成功したでやんす!」

「いや、誰も復活の呪文なんて一言も唱えてねーぞ」

「ヒロくん、細かいことは気にしたら負けだよ?」


 俺と妹の視線が、バチバチと交差する。静かなる戦いが今、始まろう――――とは、しない。


 ちなみに、妹が復活した。その意味を、お分かりいただけるだろうか?

 俺たちはロキと別れて、しばしさ迷った。そして比較的に人気の少ない所を見つけ、無事に辿り着けたのだ。


 その結果が、コレである。


「ヒナコ様はやはり、元気な姿が一番ですよ。ね? ヤヒロさん、イオリ様」

「元気なのは良いのですが……。今はもう少し反省と、大人しくしてほしいところですね」

「イオに同感」

「酷い!!」


 復活してしまったのは仕方ないが……。伊織の言う通り、もう少し反省と共に、大人しくしてほしいのが本音である。


「酷いよ二人とも! こんなに可愛い妹と、幼なじみだよ!? もっと盛大に、喜びを分かち合おうジャマイカ!!」


 痛ましい妹の姿に、俺と伊織は共に残念なものを見る目で……いや、憐みの目を向ける。


「お前……自分で言ってて、虚しくないか? これぞ『将来、憐れみの例』だぞ?」

「だから、もう少し反省の態度を示しましょう」

「二人が冷たい……! セージさ~ん!」


 俺と伊織の態度に、妹はセージへと泣きつき、助けを求める。そして座るセージの膝の上に顔を埋め、「おいおい」と泣いている。……言わずもがな、ウソ泣きだということは、俺と伊織には勿論お見通しである。


「まぁまぁ、お二人とも。ヒナコ様が元気になられて、嬉しいお気持ちを隠されるのは分かりますが。もう少し、素直になられてもよろしいのでは?」

「セージさん……!!」


 セージの天使のような微笑みに、妹は『パーッ』と笑みを浮かべては、セージの手を両手で掴む。

 そんな光景を、俺と伊織は慌てて止める。


「やめろセージ! それ以上甘やかして、そのトラブルメーカーな妹をつけ上がらせるな!!」

「そうです! 時には心を鬼にしてでも、鞭を与えることは必要です! 特に既に問題を起こしたあとの、今のヒナには!!」


 これ以上セージの甘々なアメにどっぷりと浸かって、シロップ漬け並に甘やかされる前に、俺と伊織は妹をセージから引き剥がそうとする。


「やぁー! 今日から、セージさん()の子になるんだー!」

「ふふふっ♪ こんなに可愛らしい妹が出来て、とても嬉しいです♪」

「セージさん! その返しは……!」

「え……?」


 セージの言葉に、俺の中で衝撃が走った。


(は、え……っ? 誰が誰の『()』になるって?)


 セージの本気なのか冗談なのか分からない言葉と笑みに、俺は内心焦る。

 確かにセージは良い奴だ。それはもう昨日今日で、充分、分かった。


「あの、ヤヒロさん……?」


 視界の隅では、『あちゃー』と額を抑える伊織。そして、何が起こっているのか分からないと言った、セージと我が妹。


(いや、でもさ……ちょっと早くないか? 付き合う以前に、昨日今日の仲だぞ? それに、まだまともに手すら繋いで……)


「手、繋いで……」



 ――――――妹は、セージの手を握っていた。



 その時、俺の頭の中では、走馬灯のようにある記憶が蘇った。




 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁




 ――――――それは十年ほど前の事……。――――――




「ヒナ〜。ヒナは将来、大きくなったら誰のお嫁さんになるんだ〜?」


 まだ幼き妹にデレデレな父が、全国の父親が娘に一度はするであろう質問を、我が妹にした。その時俺は、少し離れたところでゲームをしていた。

 勿論、父は「パパのおよめさん!」という答えを、期待していたに違いない。

 しかし、幼さ故に純粋な妹は、首を傾げては笑顔でこう答えた。


「にーたんのおよめさん!!」




 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁




 あの時の俺は、表情には出さずとも、妹の優先順位が父に勝ったこと。今と違ってまだオタクにも目覚めていない、純粋でキラキラと希望に満ちた澄み切った瞳の可愛らしかった妹に言われ、多少なりとも内心では喜んでいた。

 勿論、小さい頃の記憶なんて、今の妹にはない。


(ない、けれども……!)


 俺は、膝から崩れ落ちる。そして両手を地面に着いて、両目を大きく見開いて俯く。約十年経っても、鮮明に思い出せる、あの時の妹の笑顔と言葉。



『にーたんのおよめさん!!』



 当時はまだ、伊織とも出会っていなかった。だからもしかしたら一歩間違えたら、違う答えにもなっていたかもしれない。

 でもあの時、妹はハッキリとこう言った。



『にーたんのおよめさん!!』(※脳内再生、三回目※)



 俺はゆらゆらと立ち上がる。


「セージは、良い奴だ……。それはお兄さん、よーく分かってる……」

「ちょっと、ヤヒロさん? 落ち着い……」

「だがな……。いくら相手が、セージだろうと……」


 俺の中の理性が弾けた。


「ウチの妹はやらんぞ!?」


 俺がそう発したと共に、伊織が俺を止めに入る。


「嫁入り前の娘が……と言うか、結婚適正年齢にも達してない娘が、他所の子になるなんて! お兄ちゃんは許さないぞ!?」

「えっ、何の話?」


 俺の行動に、首を傾げる妹とセージ。そしてそこに、油を注ぐのは――――。


「えっと、よく分かりませんが……。種族や習慣にもよりますが、この国で人間の女性が嫁ぐ適正年齢は、大体14歳からですよ?」


 その言葉に、一瞬思考が停止する。


「ヒナは、今年で14歳……つまり、この世界では、嫁に行ける歳だと……!?」


 俺の呟きに、伊織の顔がさらに真っ青になる。


「落ち着いてください、ヤヒロさん! 一旦冷静になりましょう、ね!?」

「離せ伊織! 俺は至って冷静だ!」

「冷静な人は、人に殴りかかろうとしませんよ!?」

「それは……っ! 過ちが起きてからでは遅いんだ!」

「大丈夫です! ヤヒロさんが思ってるような過ちは、何も起こりませんから!!」


 俺の奇行に、とうとう妹が怪訝そうな顔をしながら、止めに入ろうとし始める。


「あのさ、ヒロくん。さっきから何言って……」

「お黙りなさい、小娘! お兄ちゃんの目が黒い内は、絶対に許しませんからね!?」

「だから何の話かな!?」




 俺の中の誤解が解けたのは、数分後の事だった。

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