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第61話 〜お兄ちゃんたちは幼なじみと再会するようです〜

 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁




 ――――――遡ること、数時間ほど前……。――――――




 幼なじみになんと説明しようかと、憂鬱な気持ちで長く緩やかな坂を登る俺たちは、ようやく避難所となっていた教会へとたどり着いた。


 何故、教会が避難所に指定されているのか。それはセージ曰く、『強力な()()を受けているため』らしいが……。俺にはいまいち、その『()()』というものが、この世界にとってどんなものなのか。また、どのような影響を与えるものなのか理解出来ずにいるので、後日改めて説明を聞くことにした。


 そんなこんなで、『()()』についてはこうして後回しになったとして。今、俺たち……いや、主に俺にとっての問題。それは――――――。


「……お〜い。おヒナさんや〜い?」

「………………」

「もしも〜し、聞こえてます〜?」

「………………」

「お兄ちゃん、凄〜く疲れてんのよ?」

「………………」

「せめて生きてるなら、返事してくれませんかね〜?」

「……おい、コイツいきなりどうしたんだ?」


 ロキが怪訝そうな顔で、俺を見る。……いや、正確には()()()()()()()()()()()()()()()を見ていた。

 二人羽織のように俺の上着の中に入り込み、背中にへばりついているモノ……。それは、言わずもがな。我が妹である。

 そんな妹を、セージは苦笑いをしながら、隙間から覗き込むように首を傾ける。


「そう言えば。ヒナコ様は、人見知りでしたね」


 セージの言葉からも察するに、忘れられがちであろう……。いや、大半の人間は忘れているであろう、この妹。何を隠そう、大の人見知りである。


 教会にたどり着くや否や。目にもとまらぬ早さで俺の上着に入り込み、足を俺の腹部に。腕を俺の首に回しては、ガッシリと取り憑きよった。


「あ? さっきまで、あんだけ騒いでたのに。んな訳あるか」

「避難されてきた方々が多いですから、驚かれたのですかね?」


 ロキの辛辣な物言いに、セージが慌てて俺の方を見て助け舟を出そうとする。


「いや、純粋に人見知りスキルが発動して、俺に取り憑……ちょっ、ヒナ……、首、首絞まってる……!」


 重心を後ろにずらし、首に回した腕で見事にスリーパーホールドされ、俺の首が絞められる。妹からの無言の抵抗を受けて、俺は三度妹の腕を叩く。俺が諦めて妹の足に腕を通して背負うと、妹は絞める腕を緩めた。


「ゲホッ……俺は今日だけで、何回首を絞められればいいんだよ……」

「くたばるまで、ずっと絞められてればいいんじゃねーか?」


 ロキの物騒な言葉に、セージが苦笑いする。いや、お前も俺の首絞めた一人だよな? 何、『自分、関係ありません』みたいな顔してんだよ。

 俺は無言のジト目で、ロキを見下ろす。まぁ実際ロキには助けてもらった身なので、強くは言えないが……お前も俺の首絞めたよな?




「ヤヒロさん……?」



 聞き覚えのある声に名前を呼ばれた俺は、背負ってる妹と共に『ビクッ!』と反応する。

 人混みの少し先……そこには袖を捲りあげ、包帯や薬品らしきものの入った箱を抱える、我が幼なじみの姿があった。

 俺は心の準備がまだ出来ていないがために、苦笑いしながら片手をあげる。


「えっと……よ、よぉ、イオ……」

「良かった……!」


 そう発した伊織は、近くでケガ人の手当していた人物に箱を預けると、こちらに向かって駆け寄ってくる。


「ヒナを探しに別れたっきり、全然戻ってこないので、心配しましたよ!」

「わ、悪い……色々とあってな……」

「……って、どうしてそんなにボロボロ何ですか!?」


 ボロボロな俺たちを見た伊織の……予想通りの反応に、俺はどこからどこまで順を追って話せばいいのか、少し悩む。

 そんな口篭る俺に、伊織は本来の目的であった話を持ち出す。


「それで、ヒナは!? ヒナは、見つかったんですか!?」


 パッと見ただけでは、俺、セージ、ロキの三人しか見えない伊織が顔を青ざめる。


「ま、まさか……!?」

「あぁ、いや……見つかった。見つかったっちゃぁ、見つかった」


 俺は首を後ろに傾け、コツンと背負っている妹の頭に当てる。そして「ほら、顔見せてイオを安心させろ」と言う。妹は上着のフードから、モゾモゾと顔を出す。


「こ……ココ、に、居る……よ」


 伊織に怒られると思ったのか……はたまた、心配させてしまったことに対して、多少なりとも罪悪感を抱いているのか。妹は怯えた小動物のように、とても弱々しい声で、上目遣いに伊織を見る。……が、直ぐに俺の上着の中に『スポン』と隠れた。

 その行動を見ていた伊織は、一瞬だけ目を見開く。だが直ぐに苦笑気味に頬を緩ませると、妹の方へ近づく。


「大丈夫ですよ、ヒナ。私は怒ってません」


 そう優しく諭すように言う伊織に、妹は上着の隙間から少しだけ顔を出す。


「……本当に?」

「本当ですよ。私がヒナに、嘘をついた事がありましたか?」

「……ない」


 伊織は「そうでしょう?」と言って笑うと、妹の頬に触れる。


「何処か痛いところや、ケガなどはありませんか?」


 伊織の言葉に、妹は無言で首を横に振る。そしてギュッと俺の肩を掴んでは、絞り出すように声を出す。


「イオ……心配かけて、ゴメンなさい」


 その謝罪の言葉を聞いた伊織は、笑みを浮かべると妹の頭を撫でる。


「ヒナ。ちゃんと謝れて、偉かったですね」

「うん。ヒナ、ちゃんと謝れる。いい子だよ」

「俺はまだちゃんと聞いてないぞ、妹よ?」

「ヒロくんは黙ってて」


 妹の言葉に、伊織もセージも苦笑いする。


「……でも、ヒナ。これから先、何が起こるかは分かりません。だからもう、ヤヒロさんを困らせるようなことをしては、絶対にしてはいけませんからね」

「それは、約束できない」

「いや、しろよ」


 妹の即答に、思わずツッコミを入れてしまった。

 俺は深いため息をつくと、妹へと顔を向ける。


「いいか、ヒナ。お前がいなくなって、お兄ちゃんたちがどんだけ心配したと思ってるんだ」

「それは……」


 言葉を詰まらせた妹は、唇を噛んで眉根を寄せている。


「だからもう、自分勝手な行動はするな。いいな?」

「人間、好奇心には勝てない」

「お前なぁ……」


 我を通してキッパリと言い切る妹に、俺が再び深いため息をつこうと、軽く息を吸い込む。……と、妹は「……が、善処はする」と小さく呟いた。

 その言葉を聞いた俺は「はいはい。頼んだぜ、妹様よぉ」と、半ば呆れ気味に鼻で笑う。




「じゃあ、僕は薬を貰ってくるから。お前らはそこら辺で大人しくしてろ」




 俺たちの感動の再会に、ひと段落したのを見計らったロキが、自ら薬を貰いに行くと名乗り上げる。


「あ、それなら僕が代わりに貰いに行くよ。ロキ」


 疲れているロキのためか。それともセージの性格上、誰かの役に立ちたいのか……。笑顔のセージとは裏腹に、ロキはあからさまに不機嫌な顔をする。


「馬鹿言え、セージ。お前が薬を貰って帰ってくる頃には、とっくに日が登ってるわ」

「ひ、酷いよロキ! ……確かに、絶対にありえないとは言いきれないけど」


 シュンとするセージに、何か言葉をかけてやりたいが……。ロキの言葉の信憑性の方が高いために、あえて何も言わない。いや、言えない。実際、事実なので、フォローのしょうがないのだ。


「それに薬に関しては、僕の方がお前より()()()()()。下手にセージに任せて、タチの悪いヤツから質の悪い薬を渡されたり、高価な値を吹っかけられてぼったくられたんじゃ、ただのいいカモだ」

「うぅっ……、確かに。ロキの方が、薬は詳しいもんね……」

「それが分かったら、少しでもそのアホヒナが嫌でも喧しくなるような所で、大人しく待ってろ」


 ロキはそう言って、スタスタと歩き出した。……と、思ったら。少し歩いたところで、何かを思い出したように踵を返して戻ってくる。

 俺たちは何事かと首を傾げる。

 するとロキはセージの目の前で立ち止まると、胸ぐらを掴んで勢いよく眼前に引き寄せる。


「いいかセージ。絶対に、()()()()()()()()()()()?」


 と、何やらセージに釘を刺す。

 そんなロキとは正反対に、セージは笑って頷く。


「大丈夫だよ、ロキ。もう、ロキは心配症だなぁ〜」


 ロキに心配(?)されて余程嬉しいのか……。セージの周りからは、お花が飛び出してきそうな幻覚が見えそうなほど、とびっきりな笑顔だ。多分だが、ロキの心配は違う意味の心配だと思うのは……俺だけだろうか?

 そんなセージを、ロキは無言のジト目でジッと見る。そして何かを考えているのか……数十秒ほどそうした後に、セージを解放した。


「テメーらも、馬鹿なこと考えるんじゃねーぞ。特にそこの問題児()

「問題児()? 誰のことだ?」

「さ、さぁ……?」


 伊織が何とも言えない顔をする。妹様は確実に問題児として、伊織は優等生だしな……。


「……まぁ、いいや。まずはこの妹様のために、人気の少ないところに移動するか」

「そうですね」

「あちらなど、いかがですか?」


 俺たちは人気の少ない場所を求めて、歩き出す。




 そしてロキが不在のこの時間が、後に伊織とロキを怒らせるとは……この時は誰も、想像すらしていなかった。

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