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第6話 〜お兄ちゃんは友人が出来たようです〜

「い……岩ぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁあ!?」

『グオォォォォオオオオオォオオ!?』


 反射的に、俺と化け物は同時に叫んだ。一人と一匹(?)は、冷や汗と共に青ざめる。

 そして俺は直感した。「あ、この化け物絶対良い奴だ」と。

 ……まぁ、勘だが。


 とりあえず俺が今すべき事は。


「何で岩が小石で砕けんだよ!? お前そんな投球力あったか!? つか、どんなバグだよ!!」


 目の前の妹に、全力でツッコミを入れることだった。


「いや〜、私にもよく分かんないよヒロくん。そもそも(あそこ)まで飛んでったことにたいして、驚きだよ〜」


 そういえば。前に見た妹の体力テストでのボール投げの結果は、2〜3mがやっとなくらい、肩は強くない方だった。

「あははっ……」と呑気そうに笑ってはいるが……。口元が引き攣ってるあたり、本人も多少の動揺はしているらしい。


「今なら超電磁砲(レールガン)とかも、撃てるかな?」


 某ビリビリ中学生のお嬢様風に構え、コインの代わりに小石を指に乗せた妹は、悠長にそう言う。


「やめろ。お前のそのバグった今の威力とコントロールで考えると、この森全体が吹っ飛んで、生態系が滅茶苦茶になりそうだ……」


 まぁ、どんな生き物や生物が住んでるのか。今の俺にはさっぱりだが。


「とりあえずヒナ、あの化け物に今すぐ謝れ。俺の勘だが、アイツはそんなに悪い奴ではないと思う。多分」


 俺は化け物を指差しながら、妹に()く。見てみろ。岩が砕けて以降、アイツ体をすくめて小刻みに震えてるぞ。


 妹は少し考えると、化け物の方をチラッと見る。

 化け物は妹に視線を向けられて、『ビクッ!』と反応する。そりゃ目の前で岩が砕け散ったら、そうなるだろう。

 きっと根は気弱な化け物なのだ。そう思いながら俺は、俺自身を納得させる。


 そう考えてる間に、妹は化け物に近づく。化け物は今にも泣き出しそうなくらい、ビクビクと震え上がっている。

 もしコイツが気弱な化け物なら、先程の光景を見て下手に手は出さないだろう。何となくだが、今の妹なら返り討ちにしそうだし、俺は化け物(そっち)の心配をする。


 妹は化け物の数歩前まで行くと、立ち止まる。そして――――。


「さっき枝を折っちゃってゴメンなさい」


 そう化け物に言って、頭を下げて謝った。


「実はさっきから驚く事ばかりで、つい感情が高まって……。冷静に考えれば、私がアナタの枝を折っちゃったのが悪かったんだもん。謝る前に逃げちゃってゴメンね。痛かったよね」


 妹はそう言って、化け物の折れた枝の部分に手を伸ばす。


「ココが私たちのいた世界と別の世界で、魔法が存在するとしたら……」


 妹の手から淡い光が出る。


「……治癒(ヒール)


 そう呟いた。

 化け物の折れた枝の部分が、少しずつ繋がっていく。


『ガウウゥウゥ……?』


 化け物は妹と再生した枝の部分を交互に見比べて、頭(らしき部分)を傾ける。


「もう痛くないとは思うけど、大丈夫? さっきはゴメンね」


 妹は化け物の頬(なのか?)を撫でながら再び謝る。妹は本当に申し訳なさそうに、そして繊細なモノを優しく扱うように。

 その光景を見ながら、俺は少し口角を緩めて目を細める。


(……ヒナなりに、本当に反省したんだな)


 一人「うんうん」と兄心で頷きながら見守ってると、妹が急にモジモジしだす。それを見て俺は少し「……うん?」不安を覚える。


「あの、もしアナタが良ければなんだけど……」


 おいおい待てよ、妹よ。まさか……!


「私と友達になってよ!!」


 やっぱりそう来たかぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁあ!!


 俺は妹の予想通りの言葉に、内心ついツッコンでしまう。

 俺の心の叫びなどお構いなしか、妹は不安げに……しかし澄み切った曇りなき眼で、化け物の返事を待っている。


「ヒ、ヒナコさん……? アナタ、一体何を言って……?」


 俺は一応、この妹に理由を訊ねてみる。

 なんということでしょう。この妹「待ってました!」と言わんばかりに、目を輝かせるじゃないか。


「だってヒロくん! ファンタジーだよ!? ファンタジーな世界なんだよ!? それなら人間以外のお友達が出来ても、良いじゃん!!」


 ()()()()というか、()()()()()()だけどな!


(普通はエルフとかドワーフとか、そっちの方で友達作ろうとしないか? ファンタジーな世界ならよぉ!?)


 一方の化け物はどうしていいのか分からずに、助けを求めるように俺を見ている。いや、俺を見られても困るんだが……。


 俺はこの世界に来て、何度目かのため息をつく。そして頭を掻きながら、「あー……なんだ。お前が良ければ、ウチの妹と仲良くしてやってはくれないだろうか?」とダメ元で頼んでみる。


 化け物はそう言われさらに戸惑い、俺と妹を見比べる。それを数回繰り返し、そしておずおずと指先なのだろう枝を妹の方に差し出す。

 妹はパーッと花が咲いたように笑うと、人差し指の先を化け物の枝にちょこんとつける。


 まるでその光景は某自転車で空を飛ぶ宇宙人と人間の、感動の友情物語の名作SF映画を彷彿とさせる。クソっ、思わず例のシーンのBGMが脳内に流れやがる!!


 化け物は俺の方を見ると、何故か枝をこちらにも伸ばしてくる。


「え? まさか俺とも友達に……?」


 化け物はコクンと頷く。俺は少し戸惑いながらも、おずおずとその枝に指を伸ばす。


『ガウウ、ガウアーウゥ(ヤヒロ、トモダーチ)』


 そう言われた気がして、ちょっと感動したのは心に留めておこう。




 こうして俺と妹は謎のファンタジーな異世界(仮)で、初めての友人をゲットしたのである。

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[良い点] 拝読させていただきました! キャラの掛け合いや話の展開のテンポが良く、話数の切れ目で毎回続きが気になるような終わり方をされているので、スイスイと読み進めることができました。 登場人物すべて…
[良い点] 異世界突入前も後も仲良くコミカルな言動が絶えない兄妹が読んでいて楽しかったですし、導入部分が今後どう繋がっていくんだろうとワクワクしております。 面白かったのでブクマと評価入れさせていただ…
[一言] 興味深く拝読させていただきました。 テンション高く、いかにも"なろう"といった感がありますが、書くことが、物語を展開することが楽しい!という喜びに触れられるようでとても読み易かったです。 描…
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