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第48話 〜お兄ちゃんは信頼を得ようとしているようです〜

「いいか、ロキ。――――――俺を()()()()()




 俺のこの、たったその一言に、一瞬の静寂が流れる。


「……っ、テメェ……!!」

「待ってください! ロキ!!」


 一拍置いて、我に返ったロキが急に激昂し、俺の胸ぐらを掴んでは、勢いよく壁へ押し付ける。

 そして、すかさず取り出したナイフを俺の首へとあてがい、今にも切り裂かんとばかりに柄に力を込める。


「……っ!?」


 背中の痛みで、息が詰まる。一方のロキはというと、怒りに満ちた瞳で俺を睨みつける。


「結局、最後は自分可愛さかよ!? ふざけるな!!」

「ロキ! やめてください!!」


 ロキが何故激昂したのかも分からず、俺はとにかく話ができるようにロキを落ち着かせようとする。


「……!? 落ち着け! 俺の話を最後まで……」

「少しはまともな人間(ヤツ)だと思って、見直しかけたのに……っ!!」

「……!」


 本心なのだろうか……。ナイフを握るロキの手は、僅かに震えていた。


「違う、ロキ! 俺は……」

「……るさい、うるさいうるさいうるさい! うるさい!!」


 ロキは遮るように叫んでは、俺の言葉に耳を傾けようとしない。


「やっぱり、人間なんて嫌いだ……。お前らは、最後はいつだって我が身可愛さで、保身に走るんだ! 結局お前も、()()()()と一緒じゃないか……!!」


 心を閉ざすように、ロキが俯く。ナイフに込める力も少しずつ抜け、その瞳には、全てを拒絶するように光が失われていた。


(あぁ……この()を、俺は知っている……)




 ――――――信じることを辞め、ただ絶望している瞳。


 ――――――他人に裏切られ、傷つけられた悲しみの瞳。




 ロキの過去に何があったのか、俺には分からない。昨日今日の関係の俺に、そんな事は知る由もない。


(だが、俺も妹も……全員で生き残るためにも、ここで諦める訳にもいかない――――――!!)


 深呼吸をして、心を落ち着かせる。

 出来るだけ慎重に、言葉を選んで……。今は俺自身の恐怖や感情など、そこらのドブに捨ててやる!


「……俺の言葉が足らずに、お前の信頼を失ったことは謝る。本当に悪かった」

「今更っ、取り繕ったって……!」

「そうだろうな」


 ナイフを握る、ロキの腕を掴む。そして俺は、自身の首に再びナイフの刃を当てる。


「だからロキ。()、俺を信じられないなら……。―――――今すぐココで!俺を()()

「……はぁ?」


 俺の言葉に驚愕したロキが、顔を上げる。それはセージも同じで、二人は驚いた表情で俺の顔を見る。


「お前……、何を、言って……」

「いいか? 俺が今から話す作戦は、ここに居る全員が、それぞれの命を張って貰わなきゃ出来ないものだ。それはもちろん、俺だって例外なく同じだ。……だが俺は今、お前からの信頼を失った。お前からの信頼がなければ……。互いに信用し合えないならば、この作戦は失敗したのと同じだ。信用なしに、いつ死ぬかも分からない状況で、無駄死にするのは俺だってゴメンだ。……しかしお前の信頼を得るものなんて、今の俺には何も無い。何も信じて貰えるものなんか、持ってなんかない。……強いて賭けられるもんなんて、俺の命くらいしかない。だから()、俺を信用できないなら……。だったら今すぐ、俺を殺せ」


 ロキの腕を掴んだ手に、力を込める。


「ロキ、お前が居ればセージと二人。この場から逃げ延びるのは簡単だろう……。その為には、今すぐ足手纏いの俺や妹を捨てて、魔獣の囮でも餌にでもして、さっさと逃げればいい。猿でも分かる、簡単な話だ。そうだろう?」

「ふざ……!」

「ふざけてない、俺は真剣だ。どうしたロキ、俺を殺すためにナイフを抜いたんだろ? まさか殺す覚悟もなしに、ただの脅しの為だけに、抜いたわけじゃないだろう? なら自分たちのために俺を殺して、セージを連れてさっさと行け。お前なら、それが簡単に出来る。そうだろ?」


 俺の言葉を遮るように、セージが叫ぶ。


「やめてください! ヤヒロさん! ロキ!!」


 ロキが俺の手から、自身の腕を引き剥がそうと必死に動かす。俺は全力で、それを阻止する。


()れ、ロキ。自分が生き残るためなら、他人なんて気にするな。お前の選択に邪魔なものは、全て切り捨てろ。『俺と妹は弱かった』、()()()()()()()()だ」


 俺とロキの攻防戦で、ナイフがカタカタと震える。腕が抜け出せず、ロキの表情が焦りにも似たものに変わっていく。


「クソっ……!!」

「そして、一切振り返るな。それがお前が選んだ()()なら、尚更な」


 刃が首の皮を切ったのか、微かな痛みと共に熱いものがツーっと首筋を伝う感触がする。その瞬間、『ハッ!』とロキの表情が固まる。

 俺だって、なにも恐怖がない訳でもない。……しかし、今はそんなことを考えていることも、気にしている暇などない!


「……っ! 離せ……!!」

「離さない。選べロキ! セージとお前、二人だけで生き残るか。それとも、()()()()()()()()()()か!!」


 深く息を吸い込んで、止める。固く瞼を閉じた俺は、ロキの腕を両手で掴んで、首から少し離し……そして勢いをつける!!


「……っ! やめろぉぉぉぉぉぉお!!」




 ロキの叫び声が、俺の鼓膜を震わした。

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