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第43話 〜妹ちゃんは取り戻すようです〜 ★

 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁






 気がつけば、暗く、冷たい……どこまでも広がる、深い闇の中にいた。


 突然現れた人物に、黒く禍々しい剣で胸に刺された。

 その事実を理解する前に、操り人形の糸が切れたように体の自由が無くなった。

 そして意識が途切れる直前……最後に聞こえたのは、自分の名を叫ぶように呼ぶ兄の声だった。


 この闇に、匂いはない。声も出ない……いや、音が聞こえないのだ。脈の流れる音も、心臓の鼓動すらも。何一つ分からない。

 だからこそ……自分が今、声を発してるのかどうかも分からない。

 視界も、自らの意思で瞼を開けてるのかすら分からない……。ただただ、広がるここは『無』の世界。

 胸を刺されたはずなのに、痛みは一切ない。それ以前に、体の感覚もない……故に手も足も指一本、動かすことが出来ない。

 五感の全てが奪われたような……まるでこの闇の中に溶け込み、自身の『輪郭』が無くなってしまったかのようだ。


 ――――――だが不思議と、恐怖は感じなかった。


 しかし、なぜだろう……体の底から湧き上がる寒さだけは、どうしてだか感じていた。




(不思議……感覚はないのに……凄く……凄く、寒い……)




 早く手足を擦り合わせ、自身の息をふきかけて、体を丸めて暖を取りたい……それなのに、それすらも出来きない。ただただ、この寒さに耐えるしかないのだろうか?


 そうして永遠にも等しいこの闇の中で、じっと寒さに耐える。……だが、今度は(あらが)いがたい眠気が襲ってきた。




(あれ……? 今度は……凄く、眠くなってきちゃったや……)




 ――――――このまま意識を手放せば、底知れぬ寒さから開放されるだろうか?


 ――――――このまま闇と一体化すれば、何もかも楽になれるだろうか?


 世界が変われば、何かが変わると思った。……が、現実は甘くない。簡単には変われなかった。




(もう……限界だ……。このまま、眠ってしまおう…………)




 そう、意識を手放しかけた時……。何かが、頬に触れる感触があった。


 暖かい……細く、華奢なその白い指先が……――――――。



 ――――――まるで、繊細なガラス細工に触れるように……。


 ――――――大切なものに、そっと触れるように……。



 失いかけていた陽菜子の意識と……陽菜子の『輪郭』を取り戻させるように。優しく……優しく、両手で包み込む。


 重い瞼を開けば、淡く……太陽のように暖かな光を纏った少女が、自身の膝に陽菜子の頭をそっと乗せている。そして覗き込むように、少女は陽菜子を見下ろしていた。

 フードを被っていて、少女の顔はよく分からない……。背格好からして、歳は陽菜子とあまり変わらないくらいだろうか?

 陽菜子とは対照的に、落ち着きのある少女。それでいて、どこか不思議な雰囲気を纏っている。




「…………お願い」




 小さく整った口から、言葉が発せられる。弱々しく……それでいて、どこか芯のある透き通るような声。


「お願い……彼が……()()()が、泣いてるの……。アナタが…………()()が戻ってくるのを、願ってるの…………」


 小さく震える少女の唇から、自分たち兄妹の名が出た。何故この子は、自分たちの名前を知っているのか?

 決して、疑問が湧かない訳では無かった。

 この少女に、自分は初めて会ったはずなのに……なのに、どうしてだろうか。この少女から、どこか懐かしさを感じる。少女の細い指先から伝う温もりが両親や八尋、伊織たちと一緒にいる時と同じような安心感をくれる。

 そんな、不思議な気持ちだった。



(でも……。それ以前に……)



「……ねぇ」

「………………」


 少女の頬に手を伸ばして、陽菜子は問いかける。


「……どうして……どうして、泣いてるの……?」

「………………!」


 その表情が、声色が。どこが(うれ)いを帯びており、何故だか……今にも泣きそうだと。陽菜子の目には、そう映ったのだ。


「アナタが……()()()()()()()()だから……」

「どうして……?」


 陽菜子の問いに、少女は口を閉ざす。そしてどこか悲し気に、瞼を伏せた。

 表情は読み取れないが、何かを言いたげだった。少女は言葉を飲み込むように、陽菜子が伸ばした手を優しく包み込む。そして少女は、陽菜子の手に自身の頬を擦り寄せる。

 それはまるで、愛しいモノに触れるように……それでいて、どこか縋るようで――――――。


 その時――何かが割れるような音と共に、無限に広がる闇に亀裂が入った。




「……ヒナ……これだけは、どうか覚えておいてほしい……」




 少女は意を決したように、陽菜子へと視線を落とす。


「私も、ヤヒロも……()()()()()()()()()()()()()()()()ということを」



 光が差し込むとともに、少しずつ少女の体が崩れはじめる。

 崩れ始める少女に、陽菜子は慌ててその言葉の意味を聞こうとするが、上手く声が出ない。

 そんな陽菜子とは裏腹に、少女は言葉を紡ぐ。




「だから、ヒナ……――――――」




 少女の最後の言葉と共に、()は引き戻された。

こんにちは、斐古です。


先日、私自身となろうでの処女作「お兄ちゃんは『妹が!』心配です」の執筆活動が1周年を迎えました!

(Twitterの方でも囁かですがお祝いイラストを描いたので良ければ見て見てください!)


これも暖かく見守り、応援してくださった皆様のおかげです。ありがとうございます!


ゆっくりですが、これからも頑張って自他共に楽しく執筆していきますのでよろしくお願いします!



挿絵(By みてみん)

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