ニートと風呂場で生命の危機
「マジでワザとじゃないから、殺さないで、お願い」
渡は自分の目を手で塞ぎ謝罪をした。
「あんたの挙動を見ていたからわかるよ、あと殺人鬼じゃないんだからいきなり殺したりしないわ」
タオル一枚で隠しているとはいえ、体を見てしまっているのに、フレイは冷静らしい。
渡は安心して手を目から話そうとした瞬間――
「――アンタが目隠しを取ったら、目を潰すわよ」
この女は、本気で言っている。
渡はそう直感した。
「もしかして、いきなり殺さないと言うことは、いずれ俺は死ぬのか」
「殺さないわよ、浴場を間違えたんでしょ、しょうがないわ、ミスは誰にでもあるのだから」
言葉とは裏腹に明確な殺意を肌で感じるのは何故だ。
素人の俺に殺意を感じさせる彼女は強者なのだろう。
フレイは、水をバシャバシャして、遊んでから、
「そして、ミスを助け合うのが人間ってものじゃない? あんたは、そこについてどう思うわけ?」
この女、俺に魔王倒すの手伝うって言わせようとしている。
裸で俺に迫るとは、なんて卑怯な。思わずYESを出してしまうレベル。
「確かに、ミスを助け合うのは、素晴らしいことだな、そうやってお互いの傷を舐め合うのは、さぞかし気持ちいいだろうよ」
「そうよ、あんたのミスを私が許してあげているの、だからあんたも、許すって気持ちは大切じゃない?」
「俺だって大切だと思うね、それが自分の人生を害さない程度の話ならな」
「あんたの、その人生を害さない程度ってどれくらいの害なのよ」
この女、ただのの脳筋じゃない、口喧嘩強いぞ。
「それは、俺の裁量だから時と場合と場所によるとしか言えないな」
フレイは水をバシャーんとした。
「はっきり言いなさいよ、手伝う気がないって、その方がまだ好ましいわ」
やっぱり脳筋だったわ。
なぜ俺は息子が飛び出ている状態で、こんな話しないといけないんだろうか。
「フレイって言ったっけ? 手伝いをお願いしている立場なのにひどく高圧的じゃないか。君のその一言で、俺の気分なんてどうにでも変わるっていうことを覚えておいた方がいいぞ」
渡は強気の言葉を紡いでいるが、足は小鹿のように震えていた。
「私は人を助ける為の秀でた潜在能力があって、皆に求められているにも関わらず、助けの手を気持ちよく差し伸べられないあんたの気持ちはわからないし、そんな人間は嫌いだわ」
フレイが湯船から出る音が聞こえた。
「君に嫌われようが、別に俺は構わないのだが」
「はぁ、あんたをここで殺すわ、嫌いだから」
「ちょっとまて、やめてくれ」
渡は、目から手を外して、逃げようとするが、フレイは目の前にはいない。
「うしろにいるわ、こっちを向いたら殺す……この石鹸、貸してあげるわ」
渡は前を向いて固まっている
フレイは渡の後ろに石鹸を置いた。
「家族と引き離される悲しみは、わからないでもないわ、悪いとも思っているのよ、
今日はゆっくり寝られるといいね」
浴場のドアを開く音が聞こえる、
「あ、嫌いなのは本当だけど、殺すのは嘘よ」
そう言ってフレイは、浴場を出て行った。
なんで、俺が悲しんでいることを知っているんだ、想像すればわかる事か?
わかる事だな、しかし、俺の立場になったつもりで考えないと行きつかない思考だろう。
吊り橋効果が働いているのか、少し優しくされただけで、すげー良いやつに見える。ドキドキした。
ヤンキーが動物に優しいとか、映画版ジャイアンとか、ギャップって恐ろしいわ。
フレイは今度からジャイアンか、ヤンキーって呼ぶか。
渡はフレイに借りた石鹸で体を洗った。
石鹸からは、いい匂いがした。
◆◆◇◆◆◇◆◆◇
渡は風呂から出て、部屋に戻り食事を取りベッドの上でゴロゴロする。
暇なので勇者の剣とやらを弄ることにした。
このシンプルな銀色の剣が使えるから、俺はここにいるわけだが、どれ振ってみるか。
渡は剣を持ち部屋の中で素振りを始めた。
どうやって振ればいいかよくわからんな。てか、スゲー軽いなこの剣。
なんか機能は無いのか、
例えば雷が出たり、えい
渡は雷を出すつもりで剣を振った。
はい、何も出ません。
渡が刀身を少し触ると、パチっとした。
痛っつ、なんか、静電気出た。微妙に出るのか?
火を出したりは出来るのか? えい
やはり、何も出ない。刀身を触ると少し温かくなっていた。
その後も渡は、新しいおもちゃを貰った子供のように、実験を重ねた。
この剣は、ちょっと冷たくなったり、温かくなったり、電気を帯びることが出来るようだ。
渡は、何かを切ってみたくなった。
庭に出るために、廊下を歩いていると、剣のぶつかり合う音が聞こえた。
バリトとフレイ(ヤンキー)が、剣の稽古をしているらしい。
渡は、外に出た。
太陽はまだ明るくて、庭の芝生が太陽の光を反射して美しく見える。
空気も澄んでいて、心地が良い。
バリト達に見つからないように離れて行く方向に歩みだす。
「渡君、なにをソロソロ歩いているのだい」
バリトに、いとも簡単に見つかった。
というか、足早いな、一瞬で来る。
「いやー、剣を試しに使ってみたくなりまして」
「わかるよ、その気持ち、渡君も男だね」
バリトは、ワハハと笑う、気持ちいい笑い声だ。
昨日のことなど全く気にしていないと、暗に言われているまである。
「私も持つことすら出来なかった剣を、渡君がいとも簡単に持っているところを見ると、やはり君は選ばれし物なんだと感じてしまうね。嫉妬してしまいそうだ」
「バリト、何遊んでるの、剣の修行の途中でしょう」
フレイが大きな声でバリトを呼んだ。
「フレイ、渡君が勇者の剣を使ってみるそうだ、見学しようではないか」
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