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勇者の本音と英傑の謝罪

 「渡様お戯れはそれほどで、お願いできませんか」

 ルイスが一歩前へ進み、金髪をたなびかせて言う。


 「ばれていましたか」

 渡はおどけた表情をした。


 「フレイ、お前も気付いているな」

 バリトが無精ひげをさすりながら、話しかける。


 「ええ、腰が入ってないのが、一目瞭然よ、

 演技にすらなってないわ」

 赤髪のフレイは、少し小バカにするような、声色で言った。


 「えっ、つまり、渡さんが嘘ついたってことですか」

 ピンク髪は涙を拭きながら、疑問を口にする。


 「そうよ、マチルも少しは人を疑う心を持たないとね」

 やる気なさげな声色を使って、

 ミーティーが返事をする。


 このピンク髪は、奏に似ているな、騙されやすい所が。髪の色はピンクで、派手だけど。


 「それでは、抜きますかっと」

 渡が剣を抜こうと、意志をもって触った瞬間――

 ――血管に血が流れるように、魔方陣が光の脈動を走らせる。


 ドクン……ドクン


 渡の心臓が脈打つタイミングと全く同じ光の脈動。


 それは、この剣が渡の体の一部だと言わんばかりだ。


 渡は、一息に剣を高らかに上げた。


 「とったどー」


 静寂、自分の衣擦れの音すら聞こえる静寂。


 「「「「「……」」」」」


 「ごほん、取りあえず剣は抜けた」


 「渡様、やはり、あなたは選ばれし勇者様です」


 「この剣は、僕しか扱えないのですか?」


 「そうです、扱える者は、選ばれし者だけです」


 渡は首をくるくる回して、

 「ふー、やっと言いたいこと言えるわ」


 渡の話し方が突然変化した。


 「あなた達は本当に都合の良い頭で出来ているね」


 皆、驚いた表情をしていたが、

 ルイスは真剣な眼差しで、渡を見つめている。


 渡は語る。


 「俺がいつ、魔王を倒すために勇者になるって言った?

 言ってないよね。

 勝手に人を拐って、魔王を倒してほしい?

 はぁ? 調子乗るなよ、

 やるわけないだろ。

 少し考えればわかるだろ

 何で知らない人間の為に、命を張って戦わないと行けないんだ」


 ピンク髪のマチルは体を震わせて怯えている、

 渡の声色が、冷たく怒気を感じるからだろう。

 

 そんなマチルの反応は、本当に奏に似ていると、渡は思った。


 フレイは渡を怒りの形相で見つめている。

 自分の赤髪色に肌の色が、近づいていた。

 腰の剣を強く握りしめ耐えているようすだ。


 フレイが剣を握っていることに気づいたバリトは、たしなめるように、フレイを見つめた。

 フレイは、バリトの視線に気付き、剣から手を離す。


 「渡様本音を語って頂いてこちらとしてはありがたいです、渡様の意見はごもっともですが、渡様には剣を振って止めを刺してもらえるだけで、大丈夫なのです。渡様は替えの効かない命、全力で守らせてもらいます」


 「でも、死ぬ可能性はあるんだろうが」


 「確かに渡様の言う通りでございます。

 渡様のような平和な世界に住む人間が私は羨ましい。

 改めて申し上げます。説明もなくこちらの世界に転移させてしまい、大変申し訳ありませんでした」


 「いや、別に謝って欲しいわけでは無いんだよね、俺は帰して欲しいわけ、自分の世界にさ、あんた……出来ないって言ったよね、何とかしてよ、帰られるようにさ」


 「申し訳ありません、出来ないのです」


 「出来ない出来ないって、そんなことは子供でも言えるんだけど。あーうっとうしいな」


 髪を掻き毟り怒りを露にする。

 そして何かを思いついたように手をポンとついた。


 「そうだ、取りあえず全員土下座しろよ」


 「渡様、土下座とは何でしょうか?」


 「俺の世界では、申し訳ないと極限に思ったら、地面に頭を擦り付けて、謝罪をするんだよ、お前のねーちゃんもやっていたぜ」


 「わかりました、それで渡様の気が落ち着き、手助けをしてもらえるなら、いくらでも頭程度、下げて見せましょう」


 「ああ、土下座されたら俺の怒りは取りあえず収めてやるよ」


 赤髪が口をはさみ、

 「なんで私が膝をついて頭を地面につけないといけないのよ、

兵士にとってどれだけ神聖なポーズかバリトならわかるでしょ、私はやらないよ」


 「フレイ、渡君の言葉に間違いがないのはわかるだろ。この国の仕来(しき)たり等渡君には関係ないんだ」


 「バリト……でも……そんな……やるの?」


 「ああ、渡君、こちらの都合で、この国に呼び出して大変申し訳なかったな」

 バリトは一番に土下座した。


 「そうそう、それでいいんだよ」

 

 他の者たちもバリトを見習い、ゆっくりと膝を付けようとした時――


 「――ちょっとまて、王女様と、そのピンク髪の子供は土下座しなくて良い」


 「渡様、なぜですか」


 「王女様は手紙を破ってしまったから、ピンク髪は幼いからだ」


 嘘である、渡は、奏に似ているピンク髪の女の子が、地面近くに頭がある光景を、もう見たくなかったのだ。

 幼く見えることが、本当の理由ではない。


 王女に関しては真実だ。


 「私が一番に謝るべきなのです、渡様の召喚を決めたのは私の父、私にも謝らせてもらえないでしょうか?」


 「俺が良いって言っているんだから、謝らなくていいんだよ、

 そのお父様とも話がしたいね、後で」


 「でも――」


 「――次謝ろうとしたら、俺はお前たちに力を絶対に貸さない」


 「わかりました」

 ルイスは潔く引き下がる。


 バリト、フレイ、ミーティー、ケルト、が土下座をした。


 フレイは、苦虫をつぶしたような顔をして、体中の筋肉が拒否反応からか、震えていた。

 握りこぶしに、力が入りすぎて、爪が食い込んで、髪の色と同じ赤い色の液体が手のひらからにじみ出た。

 

 ミーティーは、素直に謝っている感じだ、特に何も考えてなさそうである。


 ケルトは、土下座をしながら、笑っていた。

 「くっくっくっくははは、ダメ……耐えられない、面白すぎだろ」


 「何が面白いのですか、ケルト」


 ルイスはたしなめるように、言った。


 「だってルイス王女、バリトが膝をついて謝ってるんですよ、

 生きる伝説、選ばれし人間、男なら皆一度は憧れる人間、そんな男が、戦場でも一度も膝をつけていなかった男が、ただの青年に、頭を下げているのです、面白くないですか?」


 「何も面白くありません不愉快です、笑うのをやめなさい」


 「くくくははは、わかりました、すぐやめますけど、ははは、収まるまで待ってください。

 渡君、君とは仲良くなれる気がするよ」


 「土下座しながら大爆笑している人とは、なかよくなりたくない」


 渡は、笑い声と、土下座している人を見て、

 自分は最低な人間だと自己嫌悪し、

 怒りが引いていくのを感じた。

 青髪のケルトは笑っていたが、土下座のポーズをしているだけで、十分だと思った。


 バリトが謝っている姿を見て、本気なんだと、改めて感じた。

 本気で謝っている、大の大人が、誠意をもって。


 「皆さん、顔を上げて立ってください。もう十分です」


 赤い髪の女はこちらを見ない、

 奏で似のピンク髪マチルは、終始居心地の悪い顔をしていた。


 「俺は、人助けは自分に害がない程度にと、心に決めている。だから、身を粉にしてまで、協力しようとは思わない。

 国に帰られないことに怒りを感じている。皆さんが本気で力を借りようとしているというのは、感じました。状況を把握して時間をかけて、現状をかみ砕いていきたいです。俺に休む期間をください」


 「わかりました、渡様の部屋はもちろん用意してあります。細かいことはもっと話さないといけないと思いますので、ゆっくり時間をかけて、心と体の整理をしていきましょう」


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